◆◆◆◆ 5-33 深牙の尼僧 ◆◆◆◆
【 ヤクモ 】
「…………」
天を衝く炎が立ち昇っている。
翠・ヤクモは、戦死した飛鷹の戦士の弔いに立ち合っていた。
かつては、風葬と呼ばれる、野に屍を置き、鳥獣に肉体を還す――という風習が一般的だったらしいが、現在は宙の文化の影響もあり、土葬や火葬も珍しくはない。
今ヤクモが立ち会っている氏族では火葬を採用しており、骸に火をかけ、荼毘に付しているところだった。
【 女 】
「――――っ…………」
炎の前に見慣れない風体の女が立ち、これまた聞きなれない呪文のごときものを唱えている。
氏族たちもそれにならい、めいめい祈りをあげていた。
【 ヤクモ 】
(あれはたしか、北方の……)
弔いが終わった後、氏族のひとりが声をかけてきた。
【 兵士 】
「大王! 我らが師が、お話したいことがあるそうで……よろしいでしょうか?」
【 ヤクモ 】
「ああ、かまわぬとも」
気になっていたところなので、渡りに船だった。
ほどなく、かの女がやってきて、ヤクモにうやうやしく一礼した。
まだ年若く見えるが、落ち着いた雰囲気をまとった女である。
その髪は紅く、目は青く、見るからに宙人とは異なっている。
【 女 】
「ハジメマシテ、大君! 拙僧は〈大萬天・ゾダイ〉と申しマス! はるか北の地より参った尼僧にて!」
【 ヤクモ 】
「ほう……〈深牙〉の御方かな」
【 ゾダイ 】
「ハイ、深牙での名は〈ゾルディック・ディアマンティアス〉と言いマスが、宙の皆さまには呼びづらいでしょうから、ゾダイとお呼びくだサイ!」
深牙――彼らの言葉ではシーングイーンとは、宙のさらに北方の地を支配する民の名である。
彼らは宙とはまったく異質な文化を持っており、その勢力は侮りがたいものがあった。
交流がないわけではないが、深牙についてはほとんど知られていないのが本当のところである。
【 ヤクモ 】
「はるばるこのような南方まで、何用あっておいでになったのかな?」
【 ゾダイ 】
「もとより、ワレらが〈法〉をより多くの衆生に伝え、救済するためデス!」
【 ヤクモ 】
(法……いわゆる〈三貴の教え〉とやらか)
ヤクモもそれなりの知識はあった。
聖者、法、僧を三貴と称して貴ぶこの宗教は、北方の地で生まれ、王侯から庶人にまで大いに支持されているという。
すでにこの地にもある程度の信者がいることは、先ほどの葬儀の様子を見ても明らかだった。
【 ヤクモ 】
「なるほど、して、自分にお話とは?」
【 ゾダイ 】
「ハイ、差し支えなければ、今後も弔いをお許し頂きたいのデス! そして、もしお許しいただけるなら、教えを説くことも……!」
【 ヤクモ 】
「ふむ……もちろん、止める理由はござらぬ。他者と争わぬのならば、の話だが」
【 ゾダイ 】
「もちろんデス! 拙僧は、戦いのために参ったのではございませぬゆえ……!」
【 ヤクモ 】
(――それはどうかな)
ゾダイと名乗る尼僧の言葉に偽りはなさそうだと思いつつも、ヤクモはそう単純にはとらえなかった。
宗教とは本来、人を救うためのものであるはずだが、しばしば、それ自体が争いの種になりうるからである。
とはいえ、すでに相応の宗徒を持つ以上、無下にはできない。
【 ヤクモ 】
「久しぶりに、北方の話など聞きたいもの……よろしければ、我が幕舎においでになりませんか」
【 ゾダイ 】
「おお、ありがたい仰せデス!」
こうして、三貴教の尼僧ゾルディックことゾダイは、ヤクモの客となったのである。
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