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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
88/421

◆◆◆◆ 5-33 深牙の尼僧 ◆◆◆◆

【 ヤクモ 】

「…………」


 天を衝く炎が立ち昇っている。

 スイ・ヤクモは、戦死した飛鷹の戦士の弔いに立ち合っていた。

 かつては、風葬と呼ばれる、野に屍を置き、鳥獣に肉体を還す――という風習が一般的だったらしいが、現在はちゅうの文化の影響もあり、土葬や火葬も珍しくはない。

 今ヤクモが立ち会っている氏族では火葬を採用しており、骸に火をかけ、荼毘だびに付しているところだった。


【 女 】

「――――っ…………」


 炎の前に見慣れない風体の女が立ち、これまた聞きなれない呪文のごときものを唱えている。

 氏族たちもそれにならい、めいめい祈りをあげていた。


【 ヤクモ 】

(あれはたしか、北方の……)


 弔いが終わった後、氏族のひとりが声をかけてきた。


【 兵士 】

「大王! 我らが師が、お話したいことがあるそうで……よろしいでしょうか?」


【 ヤクモ 】

「ああ、かまわぬとも」


 気になっていたところなので、渡りに船だった。

 ほどなく、かの女がやってきて、ヤクモにうやうやしく一礼した。

 まだ年若く見えるが、落ち着いた雰囲気をまとった女である。

 その髪は紅く、目は青く、見るからにちゅう人とは異なっている。


【 女 】

「ハジメマシテ、大君タイクン! 拙僧セッソーは〈大萬天ダイマンテン・ゾダイ〉と申しマス! はるか北の地より参った尼僧にそうにて!」


【 ヤクモ 】

「ほう……〈深牙しんが〉の御方かな」


【 ゾダイ 】

「ハイ、深牙シーングイーンでの名は〈ゾルディック・ディアマンティアス〉と言いマスが、チュウの皆さまには呼びづらいでしょうから、ゾダイとお呼びくだサイ!」


 深牙――彼らの言葉ではシーングイーンとは、宙のさらに北方の地を支配する民の名である。

 彼らは宙とはまったく異質な文化を持っており、その勢力は侮りがたいものがあった。

 交流がないわけではないが、深牙についてはほとんど知られていないのが本当のところである。


【 ヤクモ 】

「はるばるこのような南方まで、何用あっておいでになったのかな?」


【 ゾダイ 】

「もとより、ワレらが〈法〉をより多くの衆生シュジョーに伝え、救済するためデス!」


【 ヤクモ 】

(法……いわゆる〈三貴の教え〉とやらか)


 ヤクモもそれなりの知識はあった。

 聖者、法、僧を三貴と称して貴ぶこの宗教は、北方の地で生まれ、王侯から庶人にまで大いに支持されているという。

 すでにこの地にもある程度の信者がいることは、先ほどの葬儀の様子を見ても明らかだった。


【 ヤクモ 】

「なるほど、して、自分にお話とは?」


【 ゾダイ 】

「ハイ、差し支えなければ、今後も弔いをお許し頂きたいのデス! そして、もしお許しいただけるなら、教えを説くことも……!」


【 ヤクモ 】

「ふむ……もちろん、止める理由はござらぬ。他者と争わぬのならば、の話だが」


【 ゾダイ 】

「もちろんデス! 拙僧は、戦いのために参ったのではございませぬゆえ……!」


【 ヤクモ 】

(――それはどうかな)


 ゾダイと名乗る尼僧の言葉に偽りはなさそうだと思いつつも、ヤクモはそう単純にはとらえなかった。

 宗教とは本来、人を救うためのものであるはずだが、しばしば、それ自体が争いの種になりうるからである。

 とはいえ、すでに相応の宗徒を持つ以上、無下にはできない。


【 ヤクモ 】

「久しぶりに、北方の話など聞きたいもの……よろしければ、我が幕舎においでになりませんか」


【 ゾダイ 】

「おお、ありがたい仰せデス!」


 こうして、三貴教の尼僧ゾルディックことゾダイは、ヤクモの客となったのである。

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