◆◆◆◆ 5-30 嵐のあと ◆◆◆◆
その夜。
日中、十万を超える大軍が激突し、喊声が轟いていたとは思えないほどに、獅水の地は静かだった。
両軍の陣地に目をやれば、生き延びた兵士たちは肉を貪り酒を食らい、英気を養っている。
そんな中、水面下ではさまざまな思惑がうごめいていた……
【 レツドウ 】
「手ごたえはいかほどかな、征南将軍」
【 グンム 】
「さて、まだまだ、お互い探り合い、というところでしょうか」
嶺・グンムは烙・レツドウの幕舎に招かれ、盃を酌み交わしていた。
【 レツドウ 】
「ふむ……今のところは我が軍の方が数の上では優勢だが、敵には援軍があるのだったな」
【 グンム 】
「は、〈森羅〉の援兵が、近々到着する予定とか」
【 レツドウ 】
「ならば、それまでに速戦でケリをつける、と?」
【 グンム 】
「さて、それは……相手の出方次第でありましょう」
【 レツドウ 】
「なるほど。……いくさの駆け引きに関しては、これまで通り、万事、貴公に任せる。頼りにしておるぞ、嶺将軍」
【 グンム 】
「は――かたじけなく」
グンムは恭しく一礼しつつ、
【 グンム 】
(そいつはつまり――いくさ以外のことは、自分の領域だ、ってことか?)
内心で、そう思ってもいた。
【 レツドウ 】
「……そう、焦ってはならぬ。なにごとも、焦りは禁物ゆえな……」
そう自分に言い聞かせているようでいて、それはグンムに釘を刺しているかのようでもあった。
【 グンム 】
(これから、なにか手を打つってことか――いや、すでに?)
また、別の幕舎では。
【 ユイ 】
「お見事でしたな、グンロウ殿――」
【 グンロウ 】
「おお……痛み入る!」
虎王・ユイから酌をされて、嶺・グンロウは感謝を述べていた。
【 ユイ 】
「まさに鬼神さながらの武……あれほどの働きを見せれば、嶺将軍もさぞお喜びでしょう」
【 グンロウ 】
「は……いえ、この程度では、まだまだ……」
ユイの賛辞にかぶりを振り、謙遜して見せる。
【 グンロウ 】
「兄者には、海より深く天より高い恩があります。もっと武功を立てて、大恩に報いねば……!」
【 ユイ 】
「そ、そうですか……」
【 グンロウ 】
「陽の当たらぬ暗がりで生きていた自分に、兄者は居場所を与えてくださいました……このご恩は、一生かけてもとうてい返し尽くせません……!」
大した心酔ぶりだな、とユイは少し気圧された。
それは兄弟の絆……というよりは、君臣そのもののようだ。
【 ユイ 】
(……俺と姐さんの関係みたいなもんか)
人は出会いによって変わるものだ――と、ユイはしみじみと思った。
【 ユイ 】
(――あいつには、そうした巡り合わせがなかったのかもな)
ふと、宙軍にいる顔なじみのことが思い出された……
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