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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
84/421

◆◆◆◆ 5-29 先鋒 ◆◆◆◆

【 ヘイジ 】

「おっ、なんだかよくわからないけど、両軍動き出しましたね!」


【 ダイトウ 】

「うむ……」


 内心では南北の両将の駆け引きに舌を巻きつつ、ダイトウは頷いてみせた。

 ヤクモについては、今さら驚くこともないが……


【 ダイトウ 】

(弱兵を強兵とするのが名将とか――先の城取り競争も、将兵に自信をつけさせるのための一手であったか)


 だとすれば、ダイトウはとんだ邪魔をしたことになる。

 しかし、グンムはそんなそぶりは少しも見せなかった。

 大した器量だ、と改めて感心する。


【 ダイトウ 】

(だが、それでも……)


 かの歴戦の老雄、スイ・ヤクモの牙城を崩すのは、並大抵のことではないだろう。




 ――両軍の先鋒同士がぶつかり合ったのは、河の中ほどである。


【 ヘイジ 】

「おおっ、はじまった! どっちが強いんですかねぇ?」


【 ダイトウ 】

「装備においては宙軍がまさり、機動性においては南軍がまさる――というのが、常識的な見立てだな」


 果たして、緒戦しょせんは――


【 グンロウ 】

「勝負はこれからが本番よ! 者ども、続けいっ!」


【 宙軍先鋒隊 】

「おおおおッ……!!」


 一騎討ちの疲れも見せず吠え猛るレイ・グンロウ率いる第一軍(騎兵五千、歩兵一万)が突撃し、南軍の先陣へと猛然と襲いかかっていく。

 これを迎撃したのは、スイ・ヤクモの部将〈三ツ羽(みつば)のタイザン〉率いる南軍の先鋒隊(騎兵八千)である。

 タイザンはその名の通り、南方の騎馬の民〈飛鷹〉の有力部族・三ツ羽の一族であり、現在は族長代理を務めている。


【 タイザン 】

「いざ――参りましょう!」


【 南軍先鋒隊 】

「うおおおおおっっ!!」


 まずまっさきに、両軍の騎馬隊同士が激突し――

 ――そこはたちまち、阿鼻叫喚あびきょうかんの修羅場と化した。

 白刃が煌めくたび鮮血が舞い、大刀が振るわれるたび肉片が飛び散り、矢で射抜かれた断末魔の悲鳴が響く――

 酸鼻さんびをきわめる苛烈な生き地獄である。

 その中心にいるのは、やはり、


【 グンロウ 】

「おおおおっ……!」


 グンロウが血にまみれた大刀を振り回すたび、敵兵の四肢が千切れ飛び、首が空高く跳ね飛ばされ、馬が両断されて臓腑をぶちまける――


【 南軍先鋒隊 】

「ば、化け物か、あの大男は……!?」


 さしも勇敢なる飛鷹の騎兵たちも、怖気おぞけをふるったほどである。

 それでも大崩れすることがなかったのは、


【 タイザン 】

「見事な武勇――しかし、それだけならば……!」


 南将タイザンの巧みな指揮の賜物であった。

 その用兵は果敢にして堅実であり、騎兵を縦横無尽に操り、グンロウ軍の鋭鋒を受け流してみせる。


【 グンロウ 】

「ちいっ……ちょこまかとっ! 堂々と勝負せよっ!」


【 タイザン 】

「あいにくですが、飛鷹の兵法に、正々堂々などというものはありませんので――」


 武骨な面相に似合わず、タイザンは冷静に戦場を見渡し、宙軍の勢いを削いで見せる。

 一気に宙軍が押し込むかと思われた攻防は、今や膠着こうちゃく状態に陥っていた。

 頃合いを見計らったように、両軍から退却を命じる銅鑼どらの音が響き渡る。


【 タイザン 】

「ここまでのようですね――失礼!」


 タイザンは兵を取りまとめるや、たちどころに引き下がっていく。


【 グンロウ 】

「ぬうっ……」


 さしものグンロウももはや精魂尽き、兵を立て直して後退していった。

 ――こうして、〈獅水の戦い〉の緒戦は幕を閉じたのである。


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