◆◆◆◆ 5-29 先鋒 ◆◆◆◆
【 ヘイジ 】
「おっ、なんだかよくわからないけど、両軍動き出しましたね!」
【 ダイトウ 】
「うむ……」
内心では南北の両将の駆け引きに舌を巻きつつ、ダイトウは頷いてみせた。
ヤクモについては、今さら驚くこともないが……
【 ダイトウ 】
(弱兵を強兵とするのが名将とか――先の城取り競争も、将兵に自信をつけさせるのための一手であったか)
だとすれば、ダイトウはとんだ邪魔をしたことになる。
しかし、グンムはそんなそぶりは少しも見せなかった。
大した器量だ、と改めて感心する。
【 ダイトウ 】
(だが、それでも……)
かの歴戦の老雄、翠・ヤクモの牙城を崩すのは、並大抵のことではないだろう。
――両軍の先鋒同士がぶつかり合ったのは、河の中ほどである。
【 ヘイジ 】
「おおっ、はじまった! どっちが強いんですかねぇ?」
【 ダイトウ 】
「装備においては宙軍がまさり、機動性においては南軍がまさる――というのが、常識的な見立てだな」
果たして、緒戦は――
【 グンロウ 】
「勝負はこれからが本番よ! 者ども、続けいっ!」
【 宙軍先鋒隊 】
「おおおおッ……!!」
一騎討ちの疲れも見せず吠え猛る嶺・グンロウ率いる第一軍(騎兵五千、歩兵一万)が突撃し、南軍の先陣へと猛然と襲いかかっていく。
これを迎撃したのは、翠・ヤクモの部将〈三ツ羽のタイザン〉率いる南軍の先鋒隊(騎兵八千)である。
タイザンはその名の通り、南方の騎馬の民〈飛鷹〉の有力部族・三ツ羽の一族であり、現在は族長代理を務めている。
【 タイザン 】
「いざ――参りましょう!」
【 南軍先鋒隊 】
「うおおおおおっっ!!」
まずまっさきに、両軍の騎馬隊同士が激突し――
――そこはたちまち、阿鼻叫喚の修羅場と化した。
白刃が煌めくたび鮮血が舞い、大刀が振るわれるたび肉片が飛び散り、矢で射抜かれた断末魔の悲鳴が響く――
酸鼻をきわめる苛烈な生き地獄である。
その中心にいるのは、やはり、
【 グンロウ 】
「おおおおっ……!」
グンロウが血にまみれた大刀を振り回すたび、敵兵の四肢が千切れ飛び、首が空高く跳ね飛ばされ、馬が両断されて臓腑をぶちまける――
【 南軍先鋒隊 】
「ば、化け物か、あの大男は……!?」
さしも勇敢なる飛鷹の騎兵たちも、怖気をふるったほどである。
それでも大崩れすることがなかったのは、
【 タイザン 】
「見事な武勇――しかし、それだけならば……!」
南将タイザンの巧みな指揮の賜物であった。
その用兵は果敢にして堅実であり、騎兵を縦横無尽に操り、グンロウ軍の鋭鋒を受け流してみせる。
【 グンロウ 】
「ちいっ……ちょこまかとっ! 堂々と勝負せよっ!」
【 タイザン 】
「あいにくですが、飛鷹の兵法に、正々堂々などというものはありませんので――」
武骨な面相に似合わず、タイザンは冷静に戦場を見渡し、宙軍の勢いを削いで見せる。
一気に宙軍が押し込むかと思われた攻防は、今や膠着状態に陥っていた。
頃合いを見計らったように、両軍から退却を命じる銅鑼の音が響き渡る。
【 タイザン 】
「ここまでのようですね――失礼!」
タイザンは兵を取りまとめるや、たちどころに引き下がっていく。
【 グンロウ 】
「ぬうっ……」
さしものグンロウももはや精魂尽き、兵を立て直して後退していった。
――こうして、〈獅水の戦い〉の緒戦は幕を閉じたのである。
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