◆◆◆◆ 5-23 開戦 ◆◆◆◆
宙軍と南軍が対峙したのは、〈獅水〉の地を流れる河を挟んでのことだった。
河幅はあるが、水量は少なく、徒歩や騎馬で超えることも難しくはない。
【 ヘイジ 】
「おおっ……すげえや、いったい何万人いるんだろっ?」
宙軍の陣を離れた轟・ダイトウとその連れであるヘイジは、丘陵から両軍の布陣を見下ろしていた。
【 ダイトウ 】
「ふむ……宙軍が十万、南軍はざっと五万といったところか」
【 ヘイジ 】
「へえ……どっちが勝つんですっ?」
【 ダイトウ 】
「普通に考えれば、当然、多いほうが勝つ――が、それだけではないことくらいは、お前にもわかろう?」
【 ヘイジ 】
「わ、わかってますよ! 軍略とか、いろいろあるってことでしょうっ?」
ダイトウは頷きつつ、両軍の気配を見定める。
迎え撃つ側である翠・ヤクモ率いる南方軍は、各地から急遽集められた兵が中心だけに、やや隊列にばらつきはあるものの、官軍何するものぞ――という気迫がみなぎっている。
いっぽう、攻め手である宙軍は。
千里の道を遠征してきたにもかかわらず、消耗の色は薄く、これまた士気は高い。
この一点を取ってみても、率いる将がただならぬ力量を持っていることの証といえる。
【 ダイトウ 】
(嶺・グンム――か)
一晩語り合ったことで、凡将でないのはわかっている。
が、非凡であるかどうかまでは、断定できない。
【 ダイトウ 】
(あの翠将軍と、どう渡り合うか……お手並み拝見というところだな)
【 ヘイジ 】
「おっ! そろそろ、始まるみたいですよ……!」
両軍の間に緊張が募るなか、宙軍から勇壮な陣太鼓が鳴り響き、華美な装飾で彩られた四頭立ての戦車が現れた。
*戦車……ここでは戦闘用の馬車の意。タンクではなくチャリオット。
その車長(指揮官)席には、豪奢な甲冑に身を包んだ男の姿がある。
【 レツドウ 】
「これなるは天兵を預かる大宙帝国が宰相、烙・レツドウなり――南賊ヤクモに一言いわん」
宙軍の総司令・レツドウが、大音声で呼ばわった。
【 レツドウ 】
「翠・ヤクモ――汝、大罪を赦され、巡察使(地方長官)に任じられながらもその役目を果たさぬ咎、天地の許さざるところと知れ!」
【 レツドウ 】
「今すぐ降伏するならば、その老い先短い命だけは許してつかわそう――」
これに応じて、宙軍からは
【 宙兵 】
「降れ! 降れ!! さっさと降れ!!」
との喚声が、囂々(ごうごう)と響き渡る。
もとより、レツドウも兵たちも、本当にヤクモが降るなどと思ってはいない。
これはいわば、戦場における開戦の作法である。
ほどなくして、南軍から一騎の人馬が進み出てきた。
【 ヤクモ 】
「これは烙宰相――わざわざ遠方への出征、ご苦労なことでござる」
簡素な甲冑を身にまとった翠・ヤクモであった。
南軍の主力たる騎馬の民・飛鷹が好む軽装姿は、煌びやかな装いのレツドウとは好対照といっていい。
【 ヤクモ 】
「しかし、解せぬことだ。この私にいったいどのような罪があって、征伐せんとおっしゃる――?」
と、応戦するヤクモ。
これもまた、儀礼の一環といえた。
【 レツドウ 】
「わからぬとあらば、教授してくれるゆえ、しかと耳の穴をほじくり返して聞くがいい――」
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