◆◆◆◆ 5-21 老雄、起つ ◆◆◆◆
そのころ、岳南のヤクモの幕営にあっては――
【 偵察兵 】
「――官賊の先鋒、獅水に至れり!」
偵察に向かわせていた兵が戻り、官軍の接近を告げていた。
【 ヤクモ 】
「そうか。思ったより早かったな」
〈南寇王〉こと翠・ヤクモは、落ち着き払って報告を受け止めた。
【 ウツセ 】
「総司令が烙宰相とあって、あるいは足並みが乱れるのでは――とも思いましたが、そのようなこともなかったらしく……」
ヤクモの副官たる〈辰康寧〉こと辰・ウツセは、さすがに神妙な表情をうかべている。
【 ヤクモ 】
「ふむ、嶺・グンムか……さらに厄介になったとみえる」
ヤクモは懐かしげに頬を撫でた。
グンムとはかつては駒を並べて戦った間柄だけに、少なからず感慨があるのだろう――と、ウツセは慮った。
【 ウツセ 】
「少し前まで郷里に隠棲していたと聞きますが……牙を隠していただけだった、というところでしょうか」
【 ヤクモ 】
「さて、どうだかな。昔からどこか飄然としていて、つかみどころのない男だったが」
【 ウツセ 】
「森羅軍の到着には、もうしばらくかかりそうです」
【 ヤクモ 】
「とはいえ、ここでのんびり待っているわけにもいくまい。帝都からはるばる遠征してきたのだ、盛大に出迎えてやらねばな」
そう語るヤクモは、どこか楽しげであった。
【 ウツセ 】
(この御方は、やはり戦場がよく似合う)
ウツセはしみじみとそう思った。
紆余曲折あって、現在は君主のような立場にあるものの、この老将の本質は、どこまでいっても武人なのだろう。
【 ウツセ 】
「すでに動員はかけております。後は、先鋒を決めるだけですが……」
と、話しているところへ。
【 ミナモ 】
「父上っ! 敵が迫っていると聞きましたわ! どうかわたくしに先鋒をお任せくださいませっ! へなちょこな官軍どもなど、片っぱしから矢の的にしてさしあげますとも!」
【 ドリュウ 】
「いやいや、ここは俺に、俺に任せてもらおう! 〈飛鷹〉の誇りにかけて、宙人どもの好きにはさせんっ! させんともっ!」
〈神弓姫〉こと翠・ミナモ、〈金髭龍〉こと翠・ドリュウらが飛び込んできて、先鋒に名乗りをあげる。
【 ヤクモ 】
「威勢のいいことだ」
【 ウツセ 】
「…………」
ヤクモは目を細めて微笑み、ウツセは嘆息した……
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