◆◆◆◆ 5-18 大望 ◆◆◆◆
【 グンム 】
「壮士、まずは一献――」
【 ダイトウ 】
「……かたじけなく」
嶺・グンムは、己の幕舎に轟・ダイトウを招き、差し向かいで盃を交わしていた。
【 グンム 】
「くだんの鉞だが、いちいち換金するのも手間であろう。代わりに千金ぶんの銀子を献上しようと思うが、いかがかな?」
【 ダイトウ 】
「それはありがたい。お心遣い、感謝いたす」
【 グンム 】
「なに、たいしたことではないさ。貴公ほどの武人が金に困って盗賊にでも落ちぶれたりしては、あまりに惜しいゆえな」
【 ダイトウ 】
「…………」
【 グンム 】
「それに、貴公ひとりなら苦労も厭うまいが、あの童は育ちざかりであろう? せいぜい、うまいものを食わせてやることだ」
【 ダイトウ 】
「……左様ですな。あれはまだまだ、小童ですので」
【 グンム 】
「息子――ではなさそうだが、一族の者かな?」
【 ダイトウ 】
「いえ、そういうわけではござらぬ。縁あって、道行を共にすることとなった次第です」
【 グンム 】
「……なるほど。まあ、深くは聞かぬさ」
グンムは盃を空にして、ダイトウの顔を覗き込む。
【 グンム 】
「宮仕えが性に合わぬのは、かくいう俺も同じだが……貴公とて、このまま野に埋もれるつもりはなかろう?」
【 ダイトウ 】
「それは――」
ダイトウは口ごもった。
そこに逡巡を見て、グンムはさらに言葉を重ねていく。
【 グンム 】
「無論、翠将軍との合戦に参加してほしい――とは頼まぬ。かの御仁と矛を交えたくないのはわかるからな」
【 グンム 】
「――だが、その後ならばどうかな?」
【 ダイトウ 】
「…………」
【 ダイトウ 】
「……ひとつお尋ねしたいが、よろしいか」
【 グンム 】
「おお、なんなりと」
【 ダイトウ 】
「将軍は、今の世をどう見ておられる?」
【 グンム 】
「…………」
【 ダイトウ 】
「仮に、翠将軍を討伐できたとして……それで、世が治まるとお思いか?」
【 グンム 】
(前にも、似たようなことを聞かれたな)
グンムはそう思いつつ、
【 グンム 】
「今の世について言えば、そりゃあ、聖王の世――ってわけにはいかねぇ。帝国はあっちこっちガタがきてるのは確かだな」
【 グンム 】
「だからって、一朝一夕にブッ潰れちまうほどには、フラついてるわけじゃあない。だからこそ、余計にタチが悪いともいえるが」
ざっくばらんな言い方で、私見を口にしていく。
【 グンム 】
「俺はな、豪傑、穏やかに生きたいんだ。天下国家のことなんざ、およそ考えたくもない。誰かお偉い人に任せて、身の丈にあったことだけをやっていきたいのさ」
【 グンム 】
「だが――雲の上の方々が、誰も下々の者のことを顧みてくれず、好き勝手にやるっていうのなら、話は別だ」
【 グンム 】
「そうなったらもう、誰にも頼れねえ。つまり――」
【 ダイトウ 】
「……つまり?」
【 グンム 】
「――自分の、自分たちの面倒は、てめえで見るしかねぇってことだ」
【 ダイトウ 】
「――――っ」
【 グンム 】
「翠将軍を討とうが討つまいが、乱れた世は勝手には治まっちゃくれねぇ。だったら、自分でなんとかするしかねえだろ?」
【 ダイトウ 】
「……いいのですか。私に、そこまで告げて」
グンムの言葉は、なかば謀叛の宣言にもひとしい。
【 グンム 】
「かまわんさ。貴公が、嶺将軍に叛意あり――なんてどこぞの役所に駆け込むようなら、俺のツキもそこまでってことだ」
【 ダイトウ 】
「私に――片棒を担げと?」
【 グンム 】
「そいつは、貴公の判断次第だな」
【 グンム 】
「ま、返事は急がん。気が向いたら、いつでも訪ねてきてくれ」
【 ダイトウ 】
「…………っ」
美髯の武者は、深々と一礼したのだった――
ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!




