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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
73/421

◆◆◆◆ 5-18 大望 ◆◆◆◆

【 グンム 】

壮士そうし、まずは一献――」


【 ダイトウ 】

「……かたじけなく」


 レイ・グンムは、己の幕舎にゴウ・ダイトウを招き、差し向かいで盃を交わしていた。


【 グンム 】

「くだんのまさかりだが、いちいち換金するのも手間であろう。代わりに千金ぶんの銀子ぎんすを献上しようと思うが、いかがかな?」


【 ダイトウ 】

「それはありがたい。お心遣い、感謝いたす」


【 グンム 】

「なに、たいしたことではないさ。貴公ほどの武人が金に困って盗賊にでも落ちぶれたりしては、あまりに惜しいゆえな」


【 ダイトウ 】

「…………」


【 グンム 】

「それに、貴公ひとりなら苦労も厭うまいが、あのわらべは育ちざかりであろう? せいぜい、うまいものを食わせてやることだ」


【 ダイトウ 】

「……左様ですな。あれはまだまだ、小童こわっぱですので」


【 グンム 】

「息子――ではなさそうだが、一族の者かな?」


【 ダイトウ 】

「いえ、そういうわけではござらぬ。縁あって、道行みちゆきを共にすることとなった次第です」


【 グンム 】

「……なるほど。まあ、深くは聞かぬさ」


 グンムは盃を空にして、ダイトウの顔を覗き込む。


【 グンム 】

「宮仕えが性に合わぬのは、かくいう俺も同じだが……貴公とて、このまま野に埋もれるつもりはなかろう?」


【 ダイトウ 】

「それは――」


 ダイトウは口ごもった。

 そこに逡巡しゅんじゅんを見て、グンムはさらに言葉を重ねていく。


【 グンム 】

「無論、スイ将軍との合戦に参加してほしい――とは頼まぬ。かの御仁と矛を交えたくないのはわかるからな」


【 グンム 】

「――だが、その後ならばどうかな?」


【 ダイトウ 】

「…………」


【 ダイトウ 】

「……ひとつお尋ねしたいが、よろしいか」


【 グンム 】

「おお、なんなりと」


【 ダイトウ 】

「将軍は、今の世をどう見ておられる?」


【 グンム 】

「…………」


【 ダイトウ 】

「仮に、翠将軍を討伐できたとして……それで、世が治まるとお思いか?」


【 グンム 】

(前にも、似たようなことを聞かれたな)


 グンムはそう思いつつ、


【 グンム 】

「今の世について言えば、そりゃあ、聖王の世――ってわけにはいかねぇ。帝国はあっちこっちガタがきてるのは確かだな」


【 グンム 】

「だからって、一朝一夕にブッ潰れちまうほどには、フラついてるわけじゃあない。だからこそ、余計にタチが悪いともいえるが」


 ざっくばらんな言い方で、私見を口にしていく。


【 グンム 】

「俺はな、豪傑、穏やかに生きたいんだ。天下国家のことなんざ、およそ考えたくもない。誰かお偉い人に任せて、身の丈にあったことだけをやっていきたいのさ」


【 グンム 】

「だが――雲の上の方々が、誰も下々の者のことをかえりみてくれず、好き勝手にやるっていうのなら、話は別だ」


【 グンム 】

「そうなったらもう、誰にも頼れねえ。つまり――」


【 ダイトウ 】

「……つまり?」


【 グンム 】

「――自分の、自分たちの面倒は、てめえで見るしかねぇってことだ」


【 ダイトウ 】

「――――っ」


【 グンム 】

「翠将軍を討とうが討つまいが、乱れた世は勝手には治まっちゃくれねぇ。だったら、自分でなんとかするしかねえだろ?」


【 ダイトウ 】

「……いいのですか。私に、そこまで告げて」


 グンムの言葉は、なかば謀叛むほんの宣言にもひとしい。


【 グンム 】

「かまわんさ。貴公が、嶺将軍に叛意はんいあり――なんてどこぞの役所に駆け込むようなら、俺のツキもそこまでってことだ」


【 ダイトウ 】

「私に――片棒を担げと?」


【 グンム 】

「そいつは、貴公の判断次第だな」


【 グンム 】

「ま、返事は急がん。気が向いたら、いつでも訪ねてきてくれ」


【 ダイトウ 】

「…………っ」


 美髯びぜんの武者は、深々と一礼したのだった――

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