◆◆◆◆ 5-12 イズルとハルカナ(前) ◆◆◆◆
『鱗公は三界を大いにさわがし、煌老師は智をもて世をおさめる』
――むかしむかし、神祖さまがこの世を治めていたころのお話です。
【 アズミ 】
「神祖さまって、だれー?」
【 ホノカナ 】
「いちばん最初の皇帝陛下だよ。天子さまのご先祖で、正しくは〈神祖武烈替天皇帝〉さまっていうの」
【 アズミ 】
「ふーん、ごたいそうだねー」
【 ホノカナ 】
「よくそんな言い方知ってるね……えっと、続きを読むね」
――神祖さまには、智勇にすぐれた十七人の家臣、すなわち〈武烈十七卿〉がお仕えしていました。
その中のひとり〈鱗・ハルカナ〉公は怪力無双の豪傑で、数多くの手柄を立てた大将軍でした。
【 ホノカナ 】
「あっ、鱗大将軍はね、わたしのご先祖さまなの! まあ、家系図とかそういうのはないんだけど……わたしは信じてるから!」
【 アズミ 】
「そういうのいいから、つづきー」
【 ホノカナ 】
「あっ、はい……」
――ところがあるとき、鱗公は神祖さまのご機嫌をそこねてしまい、将軍をクビになり、領地も取り上げられてしまいました。
鱗公の友人で、やはり武烈十七卿のひとりでもある方士〈煌・イズル〉老師がやってきて、尋ねました。
【 煌老師 】
「鱗将軍、これはいったいどうしたというのです?」
すると鱗公は、ふくれっ面で答えました。
【 鱗公 】
「おお、聞いてくれ煌老師! おいら、陛下に意見を申し上げただけなんだべ。そしたら、このありさま! ひどい仕打ちもあったもんだべ!」
【 ホノカナ 】
「……鱗大将軍、こんなお人柄じゃなかったと思うんだよね……ちょっと戯画化しすぎじゃないかな? もっとこう、知的で――」
【 アズミ 】
「そういうのいいからー」
【 ホノカナ 】
「あっ、すみません……」
――鱗公の言葉に、煌老師は疑問を抱きました。
【 煌老師 】
「陛下は聡明にして公平な御方です。進言されたくらいで罰を与えたりするはずはないのですが……」
【 鱗公 】
「ところがどっこい、おいらはこの始末だい!」
【 煌老師 】
「いったい、どんな進言をしたのです?」
すると、鱗公は鼻息も荒く言いました。
【 鱗公 】
「おいらたちの働きで、地上はすっかり平和になったべ? だから、お次は神仙が住む天の国や、妖魔どもが巣くう夜の国に攻め込んで、征服するべえ! って申し上げたんだべ」
【 煌老師 】
「はぁ……」
煌老師はあきれ果てて、思わずため息をつきました。
【 煌老師 】
「誰よりも平和を愛する陛下にそんな乱暴なことを言っては、叱られるのも道理というものです」
【 鱗公 】
「むむむ……」
煌老師の言葉に、鱗公はうなるばかりでした。
【 煌老師 】
「きちんと謝罪すれば、きっと陛下は許してくださいましょう。さぁ、一緒にお詫びに行こうではありませんか」
【 鱗公 】
「うむむ……しかし、武人たる者が頭を下げるだなんて、こっ恥ずかしいべ!」
鱗公は乗り気ではありません。
【 鱗公 】
「そもそも、おいらは間違ったことは言ってないべ? 血の気が多い連中は、戦争がないと退屈で仕方ないべ! このまま放っておいたら、そのうち味方同士で合戦をおっぱじめるに違いないべ!」
【 煌老師 】
「それは、まあ、一理ありますが……」
と、煌老師は認めつつも、
【 煌老師 】
「だからといって、神仙や妖魔に戦争を仕掛けるのは無理というものです。しかし、口で言っても納得してもらえないでしょうね」
【 鱗公 】
「んだ!」
【 煌老師 】
「では、こうしましょう。百聞は一見に如かず……一緒に天の国に行ってみようではありませんか」
【 鱗公 】
「おお、さすがは煌老師、話が早いべ!」
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