◆◆◆◆ 5-9 再会 ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「あの……ミツカさん、ここって書肆さん……なんですか?」
【 ミツカ 】
「……書肆? ああ――いえ――さぁ、なんといったら、いいのか――」
ホノカナの問いに、ミツカは首をひねる。
【 ミツカ 】
「書が――たくさんあるところ――としか、いいようがありません――」
【 ホノカナ 】
「は、はぁ……」
変わった人だ、とホノカナは思った。
もっとも、宮城に来てこのかた、変わった人にしか会っていないような気もするが。
【 ホノカナ 】
(この人も、セイレンさまみたいな方士? それとも、本物の神仙とか……!?)
内心でホノカナがそう思っていると、
【 ミツカ 】
「あなたは――書が――お好きですか」
【 ホノカナ 】
「えっ? あっ……はい! 子供の頃、よく読んでました! 昔の英雄のお話とか……」
【 ミツカ 】
「そう――ですか――それは――」
ミツカは端正な相貌に、柔らかな微笑をうかべた。
【 ミツカ 】
「とても――素晴らしいこと――です」
えへへ、とホノカナは頭を掻いた。
【 ミツカ 】
「よろしければ――一冊、手に取ってみては――?」
【 ホノカナ 】
「えっ? え、ええ……」
ミツカにうながされ、なにげなく書架に手を伸ばし、一冊の書を取り出してみる。
【 ホノカナ 】
「……っ!? こ、これって――」
ホノカナは目を見開いた。
【 ホノカナ 】
「これ、わたしが子供の頃に持ってたのと同じ本……! うわぁ、懐かしいっ!」
項をめくりながら、目を輝かせるホノカナ。
最後に読んだのはもうずっと前だが、文や挿絵には見覚えがあり――
【 ホノカナ 】
「えっ……!?」
ホノカナの手が止まる。
その視線の先には、
【 ホノカナ 】
「こ、この落書きっ……わたしがっ……」
空白の項に、自画像らしき似顔絵が描かれている。
それは、彼女がかつて持っていた本に描いたものに間違いなかった。
【 ホノカナ 】
「これ、本当に、わたしが持ってたあの本……!?」
【 ミツカ 】
「そう――ですか。あなたと、その書は――再会するさだめ、だったのでしょう――」
【 ホノカナ 】
「……っ、そ、そうなんだ……そうなんですね……!」
ホノカナが目を潤ませているのは、思いがけない邂逅のゆえか。
【 ホノカナ 】
「あ、あのっ、この本……買わせてもらえませんかっ?」
【 ミツカ 】
「いいえ――お譲り、しましょう。どうか――お持ちください」
【 ホノカナ 】
「えっ? で、でも……いいんですか……?」
【 ミツカ 】
「ええ――もともと、あなたのものであったのだし――それがきっと、その書の、さだめなのでしょうから――」
【 ホノカナ 】
「あ、ありがとうございます、ミツカさんっ……!」
本を大切そうに抱き締めながら、ホノカナは一礼する。
【 ミツカ 】
「礼には――及びません。どうか、その書と共に――よき旅を――」
それから、しばらく後……
元きた道を歩くふたりの姿があった。
【 セイレン 】
「――いやはや、ひどい目に遭いました! まったく近頃の書肆ときたら、客をもてなすという発想が欠けておりますなっ!」
書から解放されたセイレンは、ほうほうのていで無限書廊を離れ、帰途についているところなのだった。
【 ホノカナ 】
「そもそも、大声で騒いでたセイレンさまが悪いのでは?」
セイレンに続きながら、ホノカナが的確なツッコミを入れる。
【 セイレン 】
「ぬぬっ……そ、それは、一理ありはしますけれども!」
【 ホノカナ 】
「けっきょく、肝心の兵法書も手に入らなかったし……」
【 セイレン 】
「……い、いいのです! やはり書に頼るなど邪道! この私の英邁なる頭脳をもって、陛下の覇業をお助けしましょうぞ!」
【 ホノカナ 】
「はぁ……」
呆れながらも、ホノカナは懐に入れた書をギュッと抱き締める。
それは、今は亡き両親から贈られた、形見でもあった。
てっきり、七年前のいくさの際、灰になってしまったと思っていたけれど……
【 ホノカナ 】
(いつかまた、あの子といっしょに読みたいな……)
今は遠く離れて暮らす弟に、思いを馳せるホノカナなのだった。
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