◆◆◆◆ 5-8 無限書廊 ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「あ、あの……セイレンさま、本当にこんなところに、書肆があるんですか?」
【 セイレン 】
「ええ、ええ、もちろんですとも! ええっと、確かこっちだったと思うのですがね……」
ホノカナはセイレンに誘われ――というか、強引に引っ張られて――買い物に付き合わされていた。
【 ホノカナ 】
「急に、書物が必要って……いったい、なにが欲しいんですか?」
【 セイレン 】
「もちろん、兵法書ですよ! 陛下の軍師としては、やはり百万の兵を手足のように動かせるようにならねばなりませんので!」
【 ホノカナ 】
「はぁ……でもそういうのって、本を読んだらすぐにできるようになるものなんですか?」
【 セイレン 】
「……なかなか痛い所を突きますな!」
ホノカナの素朴な質問に、セイレンは唸る。
【 セイレン 】
「ええもちろん、一朝一夕にはいきませんとも。しかしですね、なにごとも最初が肝心! 始めなければ、何も変わらないのです!」
そのまま、てっきり街へ出るものかと思いきや……
【 ホノカナ 】
「あのぉ~……ここって、お城の地下……じゃ、ないんですか?」
ずいぶん歩いたはずだったが、まるで地上に出ないことに、不審をおぼえるホノカナ。
【 セイレン 】
「おや、ホノカナ殿はご存じなかったですかな! 宮城の地下通路は、長年に渡ってあれこれ増築されておりまして……」
【 セイレン 】
「――おっ、ここですここです!」
【 ホノカナ 】
「……っ? こ、これって――」
ホノカナは絶句した。
眼前には、広大な空洞が広がっている。
その広さたるや、宮城がすっぽりと入ってしまいそうなほどだ。
【 ホノカナ 】
「こ、こんな場所が、お城の地下に……!?」
【 セイレン 】
「もちろん違いますとも! なんといいますか、ちょっとした空間のゆがみ――いや、この言い方は通じないかなぁ……まぁとにかく、不思議な場所につながっているのです!」
【 ホノカナ 】
「え、えええ……?」
当惑しつつ、周囲を見渡すホノカナ。
だんだん目が慣れてくると……
【 ホノカナ 】
「……っ! こ、これ、全部、本なんですか……!?」
壁一面にある書架に、無数の書物がびっしりと収められているのだった。
【 セイレン 】
「しかりしかり! これなるは、知る人ぞ知る〈無限書廊〉! 古今東西はおろか、未来の書物すらまぎれているという、面妖きわまる書肆なのですっ!!」
――と、セイレンが身振り手振りで熱く語っていると。
【 ???? 】
「――――“律”」
【 ホノカナ 】
「――――っ!?」
静かな声が響いたと思うや、突然、我らが幻聖魔君の姿が掻き消えた。
【 ???? 】
「ここでは――お静かに――願います」
暗がりから姿を現したのは、ひとりの女性。
見慣れない奇妙な出で立ちで、片目にキラキラと輝く飾りをつけている。
【 ホノカナ 】
「すっ、すみませっ――」
あやうくいつもの調子で大声で詫びそうになり、かろうじて耐えるホノカナ。
【 ホノカナ 】
「……ご、ごめんなさいっ。あのっ……セイレンさんは……!?」
【 女性 】
「――先ほどの方は――ええ、こちらに――」
と、女性が手にした本を示す。
その書名は『藍・セイレン回想録』とあった。
ホノカナはギョッとし、
【 ホノカナ 】
「ま、まさかっ、本にされちゃった、とかっ……!?」
【 女性 】
「いえ――ちょっとした――罰のようなものですので――」
飄々(ひょうひょう)と告げながら、女性はホノカナに歩み寄り、
【 女性 】
「あなたは――方士でも、神仙でもないようですが――?」
【 ホノカナ 】
「あ、あの、うるさくしたのはごめんなさい、セイレンさんを戻してあげてください……!」
【 女性 】
「ご心配なく――どのみち、しばらくすれば――戻ります」
【 ホノカナ 】
「そ、そうなんですねっ……」
ホノカナはひとまず安堵しつつ、
【 ホノカナ 】
「あ、わたし、鱗・ホノカナといいます、あなたは……?」
【 女性 】
「私? 私――は――」
女性はしばし首をかしげていたが、
【 女性 】
「ああ――思い出し、ました――私は、〈紅・ミツカ〉――この無限書廊の、管理人――です」
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