◆◆◆◆ 5-5 秘事 ◆◆◆◆
長い宴がお開きとなったあと、ウツセとミナモはあてがわれた客舎へと向かっていた。
【 ミナモ 】
「――実に見事でしたわね、ウツセ殿! たいしたものですわ!」
【 ウツセ 】
「なに、運が良かっただけですよ」
ミナモの称賛を、素知らぬ顔で受け流すウツセ。
【 ミナモ 】
「運だけではないでしょうっ? よもや、無敗の十連勝とはっ! ウツセ殿が紙牌遊戯の達人とは存じあげなかったですわ!」
【 ウツセ 】
「……まぁ、そんなところです」
【 ミナモ 】
「今度、わたくしにも指南してくださいませ……ふわぁ、それでは、おやすみなさいませですわ……」
【 ウツセ 】
「ええ――それでは」
ウツセは苦笑しつつ、ミナモと別れ、己の部屋へ足を向ける。
【 ウツセ 】
(……あの調子では、八百長だとは言えそうにないな)
そう、先ほどウツセに挑んできた女戦士たちとは、あらかじめ話が決まっており、その通りにことを運んだのである。
当たるところ敵なし……という結果も当然であった。
なぜ、そんな手の込んだ真似をしたのかといえば……
【 アグラニカ 】
「――ご苦労様でした、ご使者殿」
【 ウツセ 】
「これは――陛下」
部屋の近くに、女王アグラニカが佇んでいた。
思わず畏まるウツセを制して、
【 アグラニカ 】
「先ほどは、ご無礼つかまつりました。誇り高き宙の武人に、あのような真似を強いるとは――」
【 ウツセ 】
「いえ、これも謀にて」
そう、先ほどの一幕は、アグラニカからの要請であった。
ミナモとヴァンドーラの一戦のあと相談を受け、ウツセが一計を案じたのである。
【 ウツセ 】
「これで少しは、男と駒を並べることへの忌避感も薄れましょう」
【 アグラニカ 】
「ええ――これもすべて、ご使者殿のおかげです」
男ながらもただならぬ勝負強さを見せたウツセに、事情を知らぬ女兵たちは大いに感服し、一目置くに至ったのだった。
【 アグラニカ 】
「……我が国は、決して一枚岩ではございません。部族同士の諍いが絶えず、それゆえに、これまで宙に翻弄されてまいりました」
【 アグラニカ 】
「これより先は、翠公とともに歩む所存にて……どうか、末永く友誼を結びたく存じまする」
と、深々と頭を下げるアグラニカ。
【 ウツセ 】
「はっ、かたじけなく……」
ウツセも丁寧に一礼を返した。
【 アグラニカ 】
「……それはそうと」
顔を上げたアグラニカは、これまでの畏まった態度はどこへやら、人懐っこい笑みを浮かべてみせる。
【 アグラニカ 】
「今宵は、部屋には戻らないほうがいいですよ」
【 ウツセ 】
「……っ? それは、どういう……」
急にくだけた調子の相手に戸惑いつつ、問い返す。
【 アグラニカ 】
「先ほどの貴方の勝負強さを見て、よき種が得られる! とばかりに、夜這いを仕掛けてくる者たちが多々いるでしょうから」
【 ウツセ 】
「そっ、それはっ……」
森羅においては、優れた子種を持つ男は取り合いになる……という話は聞いていたが、よもや自分がその対象になるなどとは、想定もしていなかった。
【 アグラニカ 】
「もちろん、小賢しい、返り討ちにしてくれる! というのなら、あえて止めはしませんけど……どうします?」
【 ウツセ 】
「……私も、そこまでの蛮勇の持ち主ではありません」
【 アグラニカ 】
「ふふ、ご安心を。別の寝所を用意してありますから。さぁ、こちらへ――」
と、女王はウツセの手をとった。
【 ウツセ 】
「――――」
ひんやりとした肌の感触に、思わず息を呑むウツセ。
【 アグラニカ 】
「――参りましょう、ウツセ殿」
嫋やかなるアグラニカは、その異名にたがわぬ優艶な笑みを浮かべた。
冷静沈着な辰・ウツセといえどもその眼差しからは目を逸らせず、うなずくほかはなかったのだった――
……そして、数日後。
【 ミナモ 】
「――さぁ、かっ飛ばしますわよ、ウツセ殿!」
【 ウツセ 】
「……え、えぇ……」
無事に森羅からの援兵を取り付けた二人は、一路、岳南への帰路についていた。
森羅軍に先んじて、ヤクモに吉報を伝えるためである。
【 ミナモ 】
「ん? ウツセ殿、顔色がよくありませんわね! 飲み過ぎではありませんことっ?」
いつになく歯切れの悪いウツセの様子を不審がるミナモ。
【 ウツセ 】
「い、いえ……」
ウツセは、己の手のひらを見つめ、そっと閉じた。
あたかも、なにか柔らかなものの手触りを思い出すかのように。
【 ウツセ 】
「……いや、確かに、酔いしれたのかもしれません……」
【 ミナモ 】
「はぁ? 本当に二日酔いのようですわね……まあいいですわ! さぁっ、官兵どもをことごとく片付けて差し上げますわよ~~っ!!」
風雲急を告げる南方戦線は、今まさに戦端が開かれんとしていた――――
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