◆◆◆◆ 5-1 森羅 ◆◆◆◆
■第五幕:
異郷にて神弓姫は武を示し、辰康寧は智を示すこと、ならびに帝都は三つ巴の擾乱の巷と化すこと
宙帝国の官軍が南方へと進発したころ、東方の辺境〈森羅〉をゆく二騎の人影があった。
【 ウツセ 】
「ミナモ殿、飛ばし過ぎです……!」
【 ミナモ 】
「のんびりしてはいられませんわ! 今にもケッタクソ悪いチンピラ官軍どもが迫っているというのに!」
先頭をゆくのは翠・ヤクモの娘にして〈神弓姫〉の異名をとるミナモであり、後に続くのはヤクモの副官、〈辰康寧〉とあだ名される辰・ウツセである。
二人はヤクモの命を受け、森羅への援軍要請の使者として馬を駆けさせているところだった。
【 ミナモ 】
「おっとっ……それにしても、このあたりはまるで道が開けていませんわね」
悪路に顔をしかめつつ、ミナモがぼやく。
【 ウツセ 】
「それはそうです。もともと、帝国の支配もほとんど及んでいないような土地柄ですから」
【 ミナモ 】
「むむむ……そんな片田舎に援軍など求める意味がございますの?」
【 ウツセ 】
「侮ってはなりません、なにしろ、森羅の兵といったら――」
そう言いかけて、ウツセは口をつぐんだ。
ミナモもまた、ただならぬ気配を覚え、眼前の森林を見つめる。
【 ミナモ 】
「なるほど、わざわざお出迎えとは――少しはものの道理がわかってらっしゃるようですわね! 田舎者のわりには!」
【 ウツセ 】
「……そうだといいのですが」
ほどなく、繁みの中から武装した一団が飛び出してきた。
【 ミナモ 】
「――――っ」
その異様な風体に、さしもの翠家のご令嬢も言葉を失う。
【 ミナモ 】
「な、なんですの、あれはっ――」
ミナモがそう口走るのも無理はない。
なんとなれば、彼女たちの前に現れた武装集団は……
【 ウツセ 】
「――ひとり残らず、女……のようですね」
それのみならず、
【 ミナモ 】
「な、なんと、はしたない格好ですのっ……信じられませんわ!」
宙人の感覚からすれば、半裸といっていいほどに肌を露出させており、しかもその身にはさまざまな刺青が刻まれている。
宙にも刺青の文化がないではないが、これほどではない。
ある者は弓を手に、ある者は刀を手にしているが、みな一様に雄偉な体格で、男にひけをとらぬ強者であるのはひと目でわかる。
【 ウツセ 】
「森羅の女兵……話には聞いていましたが、お目にかかるのは初めてですね」
【 ミナモ 】
「なっ、なんとふしだらなっ……ウツセ殿っ! こんな野蛮人たちに力を借りるなど、正気ですのっ!?」
【 ウツセ 】
「閣下のご命令です。それより――」
ひとりの女が、ウツセたちの前に進み出てきた。
戦士たちの中でもとりわけ長身で、全身に勇ましい刺青が記されており、見るからに勇士の貫禄を漂わせている。
そして、口を開いて――
【 女戦士 】
「――我が名は〈聡きヴァンドーラ〉、女王に仕える勇士なり! 其処許たちは、いかなる故あってここに参った?」
*其処許……そなた、おぬし、などの意。
【 ミナモ 】
「――はっ……?」
思いがけぬ古風な物言いに、ミナモは目が点になる。
いっぽうウツセは慌てることなく、
【 ウツセ 】
「――これは、お初にお目にかかる。我が名は辰・ウツセ、岳南巡察使たる翠閣下の命を受け、使者として参上つかまつった。何とぞ、御身らの女王陛下への謁見を賜りとうござる」
【 ヴァンドーラ 】
「む……丁寧なる口上、痛み入る。高名なる翠公の使者とあらば、どうして無下にできようか。しからば、共に参られよ。女王の御座所へとご案内つかまつろう――」
【 ウツセ 】
「かたじけない。されば疾く参りましょう、ミナモ殿」
【 ミナモ 】
「えっ――ええっ、こっ、心得て候にてございますわっ……!」
なおも当惑しつつ、ミナモはウツセと共にヴァンドーラなる異邦の戦士の後を追うのだった――
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