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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
54/421

◆◆◆◆ 4-16 問答 ◆◆◆◆

【 グンム 】

「ご尊父であるナギ将軍には、たいへんお世話になりました。比類なき勇猛さを発揮しながら、冷静に戦況を見極める戦略眼……まさに名将の器でしたな」


【 ランブ 】

「……ありがとうございます。父も、きっと泉下せんかで喜んでおりましょう」

 *泉下……黄泉の下、死後の世界の意。


 グンムとランブが酒を酌み交わす横で、


【 ホノカナ 】

(うう……わ、わたしが、こんな大事なお役目をっ……)


 ホノカナが、あわあわしていた。

 もとより、彼女がランブとともに足を運んだのは、ただの座興ではなく、ヨスガの命である。


【 ヨスガ 】

「――我の代わりに、レイ・グンムという男を見定めてこい!」


 そんな無理難題を課され、わざわざ偽名を名乗って同席しているわけである。

 ちなみに“青龍”とはホノカナの亡母の姓であり、“カスカナ”とは早くに亡くなった姉の名であった。


【 ホノカナ 】

(で、でも、しっかりしないと……!)


 と、じっと眼前のグンムという男を観察する。

 年のころは三十過ぎ、人当たりの良さそうな雰囲気だった。


【 ホノカナ 】

(将軍様っていうから、もっとおっかない人かと思ったけど……)


【 グンム 】

「カスカナ殿、こちらの品もいかがかな?」


【 ホノカナ 】

「あっ……はい、ありがとうございます!」


 とても気さくで、親しみやすい。

 近所の世話焼きのお兄ちゃん、といった風情だ。


【 グンム 】

「ふふっ、いい食べっぷりだ。なぁ、ガク老師?」


【 シュレイ 】

「まことに――」


 それに比べて、連れの覆面姿の男は……


【 ホノカナ 】

(なんだか、得体のしれない感じ……)


 あまり好印象は抱けなかった。

 彼女が毛嫌いする、かの十二佳仙に似た雰囲気のせいかもしれない。

 もしそうと知ったら、さぞやシュレイは気を悪くするだろうが。


【 グンム 】

「ときに――ランブ殿は今、宮中で侍衛じえいをつとめているとか?」

 *侍衛……貴人の護衛。


【 ランブ 】

「……ええ」


【 グンム 】

「なんとも惜しいことですな。貴殿ほどの武勇があれば、戦場で武功を立てることもたやすいでしょうに」


【 ランブ 】

「…………」


【 グンム 】

「かなうことならば、こたびの遠征、ぜひランブ殿にも御同行願えぬものか……と思っているほどなのですよ」


【 ホノカナ 】

「ええっ!? そ、そうなんですかっ!?」


 素っ頓狂な声をあげたのはホノカナである。


【 グンム 】

「いかにも。貴殿が武名を高めることは、ご尊父へのなによりの供養というものでは?」


【 ランブ 】

「……私のような者に、ありがたきお言葉です」


 と、ランブは一礼しつつも、


【 ランブ 】

「――されど、私にはなすべきことがございますので」


【 グンム 】

「なるほど……いや、これは口が滑りました。どうかご容赦されたい」


 と言って詫びる姿にも、嫌味な雰囲気はまるでなく、いたって自然な立ち居振る舞いだった。


【 ホノカナ 】

(いい人っぽいけどなぁ……)


 などと思っていたところへ、


【 シュレイ 】

「カスカナ殿――でしたか。貴殿は、さる貴人の御名代とのことですが……」


【 ホノカナ 】

「はっ、はいっ?」


【 シュレイ 】

「……いや、野暮な質問はやめておきましょう。それより、あなたこそ、我らに尋ねたいことがあるのでは?」


【 ホノカナ 】

「そ、それはっ……ええっと……」


 カスカナならぬホノカナが口ごもっていると、


【 グンム 】

「おや――」


 ふいに、たおやかな調べが聞こえてきた。

 琴の音であろうか、優美な一面、どこかはかなげな気配もただよっている。


【 シュレイ 】

「……どこかで楽師が弾いているようですな」


 つい、演奏に耳をそばだててしまう一同。

 やがて、歌声も聞こえてきた。



 霊峰を望む 大湖のほとり

 友は去る 万里の彼方へと

 我はひとり 酒を供として

 夜渡りゆくは 秋水の孤舟



 なかなかの美声であった。

 ふと見ると、


【 ホノカナ 】

「……ぐすっ、う、う……」


 ホノカナが嗚咽していた。


【 グンム 】

「……っ? カスカナ殿、どうしました?」


【 ホノカナ 】

「す、すみません……ぐすっ、ふるさとの歌を久しぶりに聞いて、つい……」


【 グンム 】

「む……では、峰東ほうとうのご出身でしたか」


【 ホノカナ 】

「あっ、は、はいっ……」


 霊峰とは〈真霊峰しんれいほう〉、大湖とは〈白竜湖はくりゅうこ〉のことであり、いずれも峰東の地になじみ深い地名であった。


【 グンム 】

「……そうでしたか。では、七年前も?」


【 ホノカナ 】

「……はい。わたしの住んでいたむらは、戦いには巻き込まれなかったんですけど……」


【 ホノカナ 】

「でも、軍隊に食料も家財道具も根こそぎ持っていかれてしまって……つらい目に遭いました」


 七年前の〈五妖の乱〉……

 その苛烈な体験を思い出したのか、つらそうに顔を伏せるホノカナ。


【 グンム 】

「それは……いくさの習いとはいえ、お気の毒なことでした」


【 ホノカナ 】

レイ将軍も……あのいくさに、来ていたんですよね?」


【 グンム 】

「ええ。……もっとも、さしたる働きもできませんでしたが」


【 ホノカナ 】

「でも、見ましたよね? 峰東が、どうなってしまったか……」


【 グンム 】

「……もちろん」


【 ホノカナ 】

「こんなことを言ったら、子供の身勝手だと、笑われるかもしれませんけど……」


【 ホノカナ 】

「でも、やっぱり……いくさは、しないでほしいです」


【 グンム 】

「…………」


【 ホノカナ 】

「……レイ将軍に、お尋ねしたいことがあります。よろしいですか?」


 ようやく腹を決めたように、グンムに向き直るホノカナ。


【 グンム 】

「なんなりと」


【 ホノカナ 】

「これから征かれるいくさで……なにを、お望みでしょう?」


【 グンム 】

「…………」


 グンムは、すこし考えてから、


【 グンム 】

「私はこのとおり、一介の武人にすぎません。天下国家については、雲上人うんじょうびとの方々がお考えになることでしょう」


【 グンム 】

「それでも……少しでも庶人が生きやすい世の中にするために、尽力するつもりですよ」


【 グンム 】

「ゆえに、ま、なるべく大ごとにならないよう、うまいこと結果を出したい……それが望みというところです」


【 ホノカナ 】

「それは……なんのために?」


【 グンム 】

「そりゃあ、もちろん――」


【 グンム 】

「――私自身が、さっさと引退して、平穏無事な余生をすごすためですとも」


 そう言って、グンムは屈託のない笑みをうかべたのだった――

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