◆◆◆◆ 4-12 粛清 ◆◆◆◆
帝都の一角にある、豪奢な邸宅。
その居間に、覆面姿の方士たちが集結していた。
それぞれ、覆面には『弐』『伍』などの数字が記されている。
それはすなわち、朝廷に暗躍する方士集団・〈十二佳仙〉の一員の証にほかならない。
【 シジョウ 】
「――くだらぬ真似をしてくれたものだな」
居並ぶ方士たちの前で、『壱』の覆面を身に着けた男……すなわちシジョウの冷徹な声が響いた。
【 方士 】
「も、申し訳ございませんっ……」
シジョウの前で平伏しているのは、やはり覆面の方士。
覆面に『捨』とあるからには、十二佳仙のひとりにちがいない。
【 方士 】
「あの者を先んじて討てば、烙宰相に武功を挙げられる恐れもなく、我らも安泰かと存じましてっ……」
【 シジョウ 】
「ふん、浅はかよな。そもそも、召鬼の術ごときでは、あの老人を討てはせぬ。まったくもって、無用な挑発というものだ」
カイリンをそそのかし、ヤクモを襲わせたのがこの方士であった。
【 方士 】
「な、ならば、私が直々に出向けば――」
【 シジョウ 】
「無用なことだ。そなた風情が逆立ちしても歯の立つ相手ではない」
【 方士 】
「で、ではっ、せめてきゃつの羽翼の臣をっ……!」
【 シジョウ 】
「もういい。『喋るな』」
【 方士 】
「――――っ」
シジョウが告げるとともに、拾は硬直する。
【 シジョウ 】
「勘違いするな。私が立腹しているのは、失敗したことに対してではない」
【 シジョウ 】
「――そなたが、私に無断で動いたことに対して、だ」
【 方士 】
「……!!」
なおも、なにか訴えようとするところへ、
【 シジョウ 】
「――『息をするな』」
【 方士 】
「……っ! …………!!」
男は床を転がり、喉をかきむしりながら悶え、しばし暴れていたが……じきに静かになった。
【 方士たち 】
「――――っ」
慄然となって息を呑む、他の十二佳仙たち。
【 シジョウ 】
「覚えておくがいい、独断専行は許さぬ。そなたたちのすべては、この私が握っていると知れ――――」
【 方士たち 】
「は、ははっ……!」
平伏する方士たちを見下ろしながら、
【 シジョウ 】
(ものごとの表面しか見られぬ輩は、これだから度し難い)
シジョウは内心で、先日の皇太后との密談を思い出していた……
【 ランハ 】
「シジョウ、このいくさの本質はなにか、わかるかしら?」
【 シジョウ 】
「それは――」
レツドウの提言が容れられ、南征が決まった直後。
シジョウはランハにそう問われた。
【 シジョウ 】
「一見すれば、烙宰相閣下による捲土重来の大ばくち……とも見えますな」
【 ランハ 】
「ええ、きっと世間ではそう見られることでしょうね。でも……」
【 シジョウ 】
「……よりいっそう、切実な事情がございますな」
【 ランハ 】
「ふふふ! さすがに利口ね、あなたは」
ランハは微笑む。
【 ランハ 】
「岳南や岳東はね、まぁ、どうでもいいの。どうせ、ろくに租税も取れない荒れた地だものね」
【 ランハ 】
「でも――森羅は、違うでしょう?」
【 シジョウ 】
「まことに……」
豊かな水と森に恵まれた森羅の地は物産豊かであり、手つかずの鉱物資源も蓄えられている。
とかく財政難に苦しんでいる宙の朝廷にとって、まさに垂涎の地といっていい。
*垂涎……涎を垂らすほどに渇望するの意。
【 シジョウ 】
「つまり、このいくさの本当の目的は、森羅を取ることにあると?」
【 ランハ 】
「そういうことね。この森羅の茶葉も、あと少しで切れてしまうもの」
と、芳醇な香りの茶を味わいつつ。
【 ランハ 】
「もっとも、力づくで奪い取るのは、簡単なことではないけれど」
【 シジョウ 】
「そこは、宰相閣下の腕の見せどころ……と、いうわけですな」
【 ランハ 】
「ふふ、最後のご奉公、見せてもらわないとね」
【 シジョウ 】
「ですが、そうこちらの思惑通りにいくかどうか……」
【 ランハ 】
「それはそうね。あちらにはあちらの考えがあるでしょうから」
【 ランハ 】
「――そこは、あなたの腕の見せどころではなくて? 黄龍老師」
【 シジョウ 】
「……はっ……」
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