◆◆◆◆ 4-10 強弓 ◆◆◆◆
ヤクモも佩刀を手にして、女刺客の一撃を真っ向から受け止めた。
【 カイリン 】
「ちいッ……老いぼれのくせに、生きがイイッ……!」
【 ヤクモ 】
「あいにくだが……仇を討つには、まだ修行が足りぬようだな」
【 カイリン 】
「抜かせイ! おおおおッ……!」
気合すさまじく、巧緻な騎馬術を織り交ぜ、幾度となく変幻自在の斬撃を繰り出してくるカイリン。
なかなかの鋭さではあるが、ヤクモの余裕を奪うほどではない。
【 ヤクモ 】
(――仲間がいるのか?)
援軍の到着を待つ時間稼ぎか、とヤクモが疑い始めたころ、
【 カイリン 】
「くッ……! こうなったラ……!」
女戦士カイリンは距離を取ると、懐からなにかを取り出し、
【 カイリン 】
「――さァ、あの老いぼれを殺セッ!」
そう叫びながら、地面に叩きつけた。
すると、ムクムクと黒煙が立ち昇り――
【 ヤクモ 】
「む――」
ヤクモの顔色が変わった。
煙はたちまち巨大な人の形を成して、
【 巨人 】
「オ、オ、オオオオ……!!」
苦悶の声じみた唸り声と共に、ヤクモへ迫ってきた。
【 ヤクモ 】
「邪法の類か……!」
巨人の繰り出す拳をすんでで躱す。
空を切った一撃は、まともに食らえば全身の骨が砕けんばかりの重さであった。
【 カイリン 】
「は、ははは! いいゾ、やってしまえッ!」
手を打って喜んでいたカイリンだが、
【 カイリン 】
「ぐっ……!? う、ううううっ……!?」
突然、苦しそうに呻き始める。
【 カイリン 】
「な、なんダ、これ……こんなっ――うぐっ! ぐええッ!?」
吐血したかと思うと、馬から転げ落ちてしまう。
【 ヤクモ 】
(この邪法――あの娘の精気を吸っていると見える)
ならば、
【 ヤクモ 】
「――早々に、片付けねばなるまい」
と刀を収め、負っていた弓を構えるヤクモ。
しかしなぜか、矢をつがえようとはしない。
【 巨人 】
「グ……オ、オオオオ……?」
なにかを感じ取ったかのように、巨人が硬直する。
その隙を、逃さず――――
【 ヤクモ 】
「――――ぬぅんッッ!!」
裂帛の気迫とともに、ヤクモは弦を引き――そして、目には見えぬ“なにか”を放った。
その刹那、
【 巨人 】
「ガッ……アアアアッ……!?」
黒い巨人の中心に、大穴が穿たれていた。
【 巨人 】
「ア……ア、ア、アアァァァ……」
ほどなく、断末魔の声とともに巨体がさらさらと崩れ、煙に返って風に散らされていく。
【 ヤクモ 】
「ふむ……いささか、鈍ったようだ」
ヤクモの手にあった弓は真っ二つに折れ、弦も千切れ飛んでいた。
【 ヤクモ 】
「さて――」
なにごともなかったかのように白髪交じりの髭を撫でつつ、ヤクモは落馬した女のもとへ駒を進める。
【 ヤクモ 】
「――まだ生きていれば、よいがな」
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