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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
420/421

◆◆◆◆ 10-12 星を読む者 ◆◆◆◆

 みやこを遠く離れ、宝玲山よりも更に北のかた……

 峰西ほうせいの地。


【 タイシン 】

「――元気そうでなによりだよ、ユイ」


【 ユイ 】

あねさんこそ、お変わりなく――」


 ショウ家の隠れ家にて、〈虎王コオウ・ユイ〉は、〈ショウ・タイシン〉と久々の再会を果たしていた。


【 タイシン 】

「万事、首尾よくやってくれたようだね。ラク宰相については……残念だったけれど」


【 ユイ 】

「は……」


 いくつか、近況報告を交わしたところで……


【 タイシン 】

「――私に、なにか聞きたいことがあるんじゃないかな? 〈風雲忍侠ふううんにんきょう〉」


【 ユイ 】

「――――っ」


【 ユイ 】

「……俺は、感謝してるんですよ」


【 ユイ 】

「俺はもともと、血まみれの殺し屋だった。人並みの生き方ができるようになったのは、姐さんやお師さんのおかげです。その点についちゃあ、感謝してもしきれない」


【 タイシン 】

「…………」


【 ユイ 】

「――しかし、だからといって、貴方のすべてを盲目的に肯定するつもりはありません」


【 タイシン 】

「……ふむ。つまり?」


【 ユイ 】

「単刀直入に聞きます――姐さん、貴方の目的は、いったいなんなんです?」


【 タイシン 】

「ほう――」


 ユイの鋭い眼差しを、さらりとかわしながら。


【 タイシン 】

「つまり、きみはこう言いたいのかな?」


【 タイシン 】

レイ将軍の事業に助力しつつ、その一方では廃帝ヨスガ陛下にも手を貸す……あたかも、天下を乱すために動いているかのようだ――と」


【 ユイ 】

「…………」


【 タイシン 】

「商人である私は、世を騒がし、いくさを巻き起こすことで、カネや物資を動かし、ひと儲けを企んでいるのでは? ……と、そんなところかな?」


【 ユイ 】

「――ええ。そんなところです」


【 タイシン 】

「……外に出て話そう。風に当たりたくなってきたのでね」


 タイシンが席を立つ。

 ユイは無言で頷き、彼女の後を追った。




【 タイシン 】

「――私が占いを得意としていることは、知っているね」


 満天の星を見上げながら、タイシンが言う。


【 タイシン 】

「そのひとつに、星を読む占いもある。占星術せんせいじゅつというやつだ」


【 ユイ 】

「星を読み、未来を図る――と、いうやつですか」


【 タイシン 】

「そんなところだが、もとよりすべてが見えるわけではないよ。だが、あらかたは見えてくるものでね」


【 ユイ 】

「それで……」


【 タイシン 】

「そうくことはない。せっかちなのは、きみの悪いクセだよ」


【 ユイ 】

「……そういう性分なもので」


【 タイシン 】

「さて、たとえばの話だが、きみにも未来がわかるとして――」


 夜空の星を指しながら、タイシンは続ける。


【 タイシン 】

「――すこぶる都合の悪い未来が見えてしまったとしよう。さて、きみならどうするかな?」


【 ユイ 】

「それは……そうならないよう、なんとか努力するしかないでしょう」


【 タイシン 】

「うん、それはそうだ。でも……」


【 タイシン 】

「もしも、自分や周囲の努力だけではどうにもならない規模の、絶望的な破局が待っているとしたら――どうかな?」


【 ユイ 】

「それは――」


 ユイはしばし口ごもったが、やがて声をはげまして、


【 ユイ 】

「――そうであっても、なんとか足掻あがくしかありませんよ。たとえそれが、無駄であろうとも」


【 タイシン 】

「――その通りだ!」


 タイシンは手を打ち、ユイに向き直る。


【 タイシン 】

「そう、我々にできるのは、ただただ、みっともなく足掻き続けることだけなんだよ、風雲忍侠!」


【 ユイ 】

「姐さん――」


【 タイシン 】

「……すこし、無駄話がすぎたようだね」


 いつになく熱弁を振るったことを恥じるように、タイシンは首を振る。


【 タイシン 】

「言うまでもないことだが……今のは、ただのたとえ話さ」


【 ユイ 】

「…………」


【 タイシン 】

「私はね、ユイ、このちゅうという国が好きなんだよ。いろいろと問題はあるけれど……それでもね」


【 タイシン 】

「だから、この国をまもるために力を尽くしているんだ。わかってほしい――というのは、傲慢だな。信じてほしい、というべきか」


【 ユイ 】

「それは――」


【 タイシン 】

「ああ、ただ信じてくれと言われたところで、無理な相談だろうね」


【 タイシン 】

「だから、きみには見届けてほしい。私の行いが正しいか、否か。否とみれば、私から離れてもいいし――」


【 タイシン 】

「――前にも言ったとおり、この首を獲りにきてもいい」


【 ユイ 】

「――――っ」


【 ユイ 】

「俺――俺は――」


 虎王コオウ・ユイは、空を見上げた。

 そこには、己がゆくべき道など、まるで見えはしなかった。




【 タイシン 】

「…………」


 ユイが立ち去ったあと、タイシンはひとり、空を見つめていた。


【 ???? 】

「……お嬢さま」


【 タイシン 】

「すまないね、アカシ。愛弟子と積もる話もあったのではないかな?」


【 アカシ 】

「いえいえ、特には。あれも、私と顔を合わせたくはないでしょう」


 身をひそめていた〈彩雲剣侠さいうんけんきょう〉こと〈シャク・アカシ〉が、暗がりから姿を見せる。


【 タイシン 】

「それは、どうだかわからないけれど……彼は、きみに気づいていたかな?」


【 アカシ 】

「はてさて……どうでしょうか。しかとは図れません。あれも、少しは腕を上げたようで」


【 タイシン 】

「ほう、頼もしいね」


【 アカシ 】

「いやはや……確かに役には立ちましょうが、我らにとっては諸刃の剣でもあります」


【 タイシン 】

「それは仕方ないさ。有能な味方は、いつだって危険な敵手になりうるのだからね。さて……」


【 タイシン 】

綺羅星きらぼしのごとく輝く英傑たち……勝ち残るのは、いったい、誰になるのか――」


【 アカシ 】

「お嬢さまには、すでに見えているのでは?」


【 タイシン 】

「あらかたは、ね。しかし……」


【 タイシン 】

「運命というものは、輝かしい天にのみあるわけではないよ。暗い地の底からも、人知れず湧き出てくるものだ。あるいは、それこそが――」


【 タイシン 】

「――すべての打算を覆す、脅威となるのかもしれないね」


 そうつぶやくタイシンは、どこか、嬉しそうにも見えた――

ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです。


次回にて、第一部完結です!

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