◆◆◆◆ 10-12 星を読む者 ◆◆◆◆
みやこを遠く離れ、宝玲山よりも更に北のかた……
峰西の地。
【 タイシン 】
「――元気そうでなによりだよ、ユイ」
【 ユイ 】
「姐さんこそ、お変わりなく――」
焦家の隠れ家にて、〈虎王・ユイ〉は、〈焦・タイシン〉と久々の再会を果たしていた。
【 タイシン 】
「万事、首尾よくやってくれたようだね。烙宰相については……残念だったけれど」
【 ユイ 】
「は……」
いくつか、近況報告を交わしたところで……
【 タイシン 】
「――私に、なにか聞きたいことがあるんじゃないかな? 〈風雲忍侠〉」
【 ユイ 】
「――――っ」
【 ユイ 】
「……俺は、感謝してるんですよ」
【 ユイ 】
「俺はもともと、血まみれの殺し屋だった。人並みの生き方ができるようになったのは、姐さんやお師さんのおかげです。その点についちゃあ、感謝してもしきれない」
【 タイシン 】
「…………」
【 ユイ 】
「――しかし、だからといって、貴方のすべてを盲目的に肯定するつもりはありません」
【 タイシン 】
「……ふむ。つまり?」
【 ユイ 】
「単刀直入に聞きます――姐さん、貴方の目的は、いったいなんなんです?」
【 タイシン 】
「ほう――」
ユイの鋭い眼差しを、さらりと躱しながら。
【 タイシン 】
「つまり、きみはこう言いたいのかな?」
【 タイシン 】
「嶺将軍の事業に助力しつつ、その一方では廃帝陛下にも手を貸す……あたかも、天下を乱すために動いているかのようだ――と」
【 ユイ 】
「…………」
【 タイシン 】
「商人である私は、世を騒がし、いくさを巻き起こすことで、カネや物資を動かし、ひと儲けを企んでいるのでは? ……と、そんなところかな?」
【 ユイ 】
「――ええ。そんなところです」
【 タイシン 】
「……外に出て話そう。風に当たりたくなってきたのでね」
タイシンが席を立つ。
ユイは無言で頷き、彼女の後を追った。
【 タイシン 】
「――私が占いを得意としていることは、知っているね」
満天の星を見上げながら、タイシンが言う。
【 タイシン 】
「そのひとつに、星を読む占いもある。占星術というやつだ」
【 ユイ 】
「星を読み、未来を図る――と、いうやつですか」
【 タイシン 】
「そんなところだが、もとよりすべてが見えるわけではないよ。だが、あらかたは見えてくるものでね」
【 ユイ 】
「それで……」
【 タイシン 】
「そう急くことはない。せっかちなのは、きみの悪いクセだよ」
【 ユイ 】
「……そういう性分なもので」
【 タイシン 】
「さて、たとえばの話だが、きみにも未来がわかるとして――」
夜空の星を指しながら、タイシンは続ける。
【 タイシン 】
「――すこぶる都合の悪い未来が見えてしまったとしよう。さて、きみならどうするかな?」
【 ユイ 】
「それは……そうならないよう、なんとか努力するしかないでしょう」
【 タイシン 】
「うん、それはそうだ。でも……」
【 タイシン 】
「もしも、自分や周囲の努力だけではどうにもならない規模の、絶望的な破局が待っているとしたら――どうかな?」
【 ユイ 】
「それは――」
ユイはしばし口ごもったが、やがて声をはげまして、
【 ユイ 】
「――そうであっても、なんとか足掻くしかありませんよ。たとえそれが、無駄であろうとも」
【 タイシン 】
「――その通りだ!」
タイシンは手を打ち、ユイに向き直る。
【 タイシン 】
「そう、我々にできるのは、ただただ、みっともなく足掻き続けることだけなんだよ、風雲忍侠!」
【 ユイ 】
「姐さん――」
【 タイシン 】
「……すこし、無駄話がすぎたようだね」
いつになく熱弁を振るったことを恥じるように、タイシンは首を振る。
【 タイシン 】
「言うまでもないことだが……今のは、ただのたとえ話さ」
【 ユイ 】
「…………」
【 タイシン 】
「私はね、ユイ、この宙という国が好きなんだよ。いろいろと問題はあるけれど……それでもね」
【 タイシン 】
「だから、この国を護るために力を尽くしているんだ。わかってほしい――というのは、傲慢だな。信じてほしい、というべきか」
【 ユイ 】
「それは――」
【 タイシン 】
「ああ、ただ信じてくれと言われたところで、無理な相談だろうね」
【 タイシン 】
「だから、きみには見届けてほしい。私の行いが正しいか、否か。否とみれば、私から離れてもいいし――」
【 タイシン 】
「――前にも言ったとおり、この首を獲りにきてもいい」
【 ユイ 】
「――――っ」
【 ユイ 】
「俺――俺は――」
虎王・ユイは、空を見上げた。
そこには、己がゆくべき道など、まるで見えはしなかった。
【 タイシン 】
「…………」
ユイが立ち去ったあと、タイシンはひとり、空を見つめていた。
【 ???? 】
「……お嬢さま」
【 タイシン 】
「すまないね、アカシ。愛弟子と積もる話もあったのではないかな?」
【 アカシ 】
「いえいえ、特には。あれも、私と顔を合わせたくはないでしょう」
身をひそめていた〈彩雲剣侠〉こと〈灼・アカシ〉が、暗がりから姿を見せる。
【 タイシン 】
「それは、どうだかわからないけれど……彼は、きみに気づいていたかな?」
【 アカシ 】
「はてさて……どうでしょうか。しかとは図れません。あれも、少しは腕を上げたようで」
【 タイシン 】
「ほう、頼もしいね」
【 アカシ 】
「いやはや……確かに役には立ちましょうが、我らにとっては諸刃の剣でもあります」
【 タイシン 】
「それは仕方ないさ。有能な味方は、いつだって危険な敵手になりうるのだからね。さて……」
【 タイシン 】
「綺羅星のごとく輝く英傑たち……勝ち残るのは、いったい、誰になるのか――」
【 アカシ 】
「お嬢さまには、すでに見えているのでは?」
【 タイシン 】
「あらかたは、ね。しかし……」
【 タイシン 】
「運命というものは、輝かしい天にのみあるわけではないよ。暗い地の底からも、人知れず湧き出てくるものだ。あるいは、それこそが――」
【 タイシン 】
「――すべての打算を覆す、脅威となるのかもしれないね」
そうつぶやくタイシンは、どこか、嬉しそうにも見えた――
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次回にて、第一部完結です!




