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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
418/421

◆◆◆◆ 10-10 宮中の影 ◆◆◆◆

【 グンム 】

「――このたびの一件、国母さまにはさまざまなお計らいを賜り、感謝にえませぬ」


 帝都〈万寿世春ばんじゅせいしゅん〉宮城の東の宮……

 驃騎将軍たるレイ・グンムは、みやこへ帰還した皇太后〈コウ・ランハ〉に謁見していた。


【 ランハ 】

「あら――ふふ、おかしなことを言うのね。感謝するのは、むしろこちらのほうではなくて?」


 御簾みすの奥から、軽やかな女の声音が響いてくる。


【 グンム 】

(病に伏せていたというが……いたって壮健のようだな)


 御簾越しなので表情などはわからないが、以前とまるで変わりはない。

 あるいは仮病だったのかもしれない、とグンムは思った。


【 ランハ 】

「あなたは、“私が記した”令旨りょうじに従って兵を返し、朝廷をあるべき姿にしたのだもの。感謝しているのよ、レイ驃騎将軍」


【 グンム 】

「は――」


 太后の言葉に、グンムはかしこまって一礼する。


【 グンム 】

(……なるほど、そういうことにした、というわけだ)


 ――ヨスガを廃し、新帝を立てるべし。


 という例の“皇太后の令旨”は、亡き宰相〈ラク・レツドウ〉が権勢を握るために偽造したものに違いなかった。

 ランハは、あえてそれに“乗る”ことにしたのだろう。


【 ランハ 】

ラク宰相は、気の毒なことになったけれど……その尊い遺志はあなたに受け継がれたようで、なによりだわ」


【 グンム 】

「もったいなきお言葉……忠義をなさんとして志半ばでたおれられた宰相閣下も、きっと泉下あのよで喜んでおりましょう」


 ――などといった、あいさつ代わりの白々しいやりとりを終えたところで。


【 ランハ 】

「さて、本題に入りましょうか」


【 グンム 】

「は――」


【 ランハ 】

「驃騎将軍、これからどうするつもりかしら?」


【 グンム 】

「むろん、朝廷の守護者として、国母さま、そして若き天子さまをお守りし、国家を安泰たらしめる所存にて――」


【 ランハ 】

「ふふ――結構な御題目スローガンだこと」


【 ランハ 】

「それで? 本音は別のところにあるのでしょう?」


【 グンム 】

「いえいえ、そのようなことは……ご承知のとおり、私は国事のことなどまるでわからぬ、一介の武人ですので」


【 ランハ 】

「ふふ……無欲にして篤実のレイ公は健在、というところかしら?」


【 グンム 】

「…………」


【 ランハ 】

「――まあ、それならそれでいいわ。具体的には、どう手を打つつもり? 根本的な問題がなにも解決していないことは、承知しているわよね?」


【 グンム 】

「は――」


 そもそも、南方への遠征が計画されたのは、岳南がくなん森羅しんらを切り取って占領下に置き、逼迫ひっぱくする国家財政を救うためだった。

 その点、事態はまったく改善してないといえる。


【 グンム 】

「財政の立て直しは、喫緊きっきんの問題と心得ております。それゆえに――」

 *喫緊……重要かつ緊急、の意。


 と、グンムは今後の方針を、しかじかと説く。


【 ランハ 】

「――なるほど、ね。そううまくいけばいいけれど」


【 グンム 】

「もとより、臨機応変に手を打つ所存です」


【 ランハ 】

「そう願いたいわね。頼りにしているわ――レイ公」


【 グンム 】

「はっ……」


 レイ・グンムは、深々と一礼した……




【 レンス 】

「――いかがでしたか、レイ公は?」


 グンムが辞したあと、ランハの甥である秘書官〈コウ・レンス〉が問う。


【 ランハ 】

「そうね、以前と変わってはいないといえば、変わっていないけれど……でも、大物らしい雰囲気は出てきたわね」


【 レンス 】

「地位が人を作る……と、いうこともありましょうか」


【 ランハ 】

「さて……まぁ、さしあたりは、お手並み拝見といこうかしらね」


【 レンス 】

「それがよろしいかと」


【 ランハ 】

「天に二つの太陽がないように、地上に皇帝が二人いてはならぬ……ふふ……これから、見ものね」


 あたかも乱世の到来を期待するかのように、楽しげに微笑むランハなのだった――

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