表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
415/421

◆◆◆◆ 10-7 新天地 ◆◆◆◆

【 ヨスガ 】

「……ふぅ……」


 私室に戻ったヨスガは、一息ついていた。


【 ミズキ 】

「――お疲れさまでした、ヨスガさま」


 ミズキが茶を差し出す。


【 ヨスガ 】

「む……すまんな」


 茶を啜りながら、室内を見渡す。


【 ヨスガ 】

「……広い部屋だ」


【 ミズキ 】

「それはそうです。阿姨おばうえが使っていた部屋ですから」


【 ヨスガ 】

「殺風景だな。まあ、嫌いではないが」


 かつての主の人となりを示すがごとく、質実剛健な雰囲気。

 大柄な椅子にちょこんと腰かけたヨスガは、いかにも不似合いだが、素っ気なさではお似合いだ、とミズキは思った。


【 ヨスガ 】

「――どの程度、残ると思う?」


【 ミズキ 】

「さて……どんなものでしょうか」


 現在、宝玲山の兵数はざっと千人あまり……加えて、非戦闘員がその三倍ほどはいる。


 ――我に従う気がない者は、今のうちに去るべし。


 というお達しは、兵や住民たちにもすでに告げられている。


【 ミズキ 】

「半分も残ってくれれば、上々ではありませんか?」


【 ヨスガ 】

「……まあ、そんなところであろうな」


 なにしろ、世間から見ればヨスガは今や廃帝、ただの庶人にすぎない。

 いやそれどころか、お尋ね者の叛逆者として命を狙われる身なのだ。

 そんな彼女に賭けてみよう――などというのは、よほどの物好きだけであろう。


【 ミズキ 】

「カガノ殿が退去を申し出なければ、あるいはもう少し……」


【 ヨスガ 】

「ふん、やせ我慢で残ってもらっても仕方がないゆえな。ロウの姉妹には、損な役を任せてしまったが」


 カガノが去ることを言い出したのは、ヨスガたちと仕組んだ策略である。

 士気の低い者が残れば、他の者にも悪影響が出ると考えて、彼女に因果を含めたのだ。


【 ミズキ 】

「私やランブきょうでは、いささか説得力に欠けますので……仕方ないかと」


 あまりヨスガと親しい者では、いかにも芝居くさく見えてしまうであろう。

 その点、そこまで接点がないカガノは適任ではあった。


【 ヨスガ 】

「侠客というのは、とかく体面たいめんを重んじるゆえな……大義名分を与えてやるのも一つの道だ」


 ヨスガという弱者を見捨てて去るのは仁義に反する……といった考えから、無理に残られたところで、不穏分子にしかならないであろう。

 カガノは離脱者を率いて山を去ったあと、手ごろなところで戻ってくる、という筋書きであった。


【 ミズキ 】

「お気の毒なことです。演技とはいえ、あの性悪女……いえ、性根の曲がった姉君に会いに行かねばならないとは」


 溜め息まじりに同情する。


【 ヨスガ 】

「……そなたらしからぬ言いぐさだな。その姉とやらと、よほどの因縁でもあるのか?」


【 ミズキ 】

「いえ、なにも?」


 カガノの姉である〈一条太歳いちじょうたいさいロウハナオとミズキの間には、十数年前からの悪縁があるのだが(6-36 燎氏の変(22)参照)、そこには触れない。


【 ヨスガ 】

「……まあいい。それより、今後のことだが」


【 ミズキ 】

「常道としては、この地に立てこもって討伐軍を迎撃する……と、いうところですけれど」


【 ヨスガ 】

「なるほど確かに、この峻嶮しゅんけんな山地にこもれば、百の兵で数十万の兵すら防ぐことができような」

 *峻嶮……とても山が険しい様子。


 こと防衛力という意味においては、宝玲山は帝都とは雲泥の差がある。


【 ヨスガ 】

「……だが、それだけのことだ。防御を固めているあいだに誰かが助けに来てくれればよいが……あてにはならぬ」


【 ミズキ 】

「それこそ、交龍のライ巡察使などは、レイ将軍には批判的なようですが」


【 ヨスガ 】

「だからといって、我を助ける義理もあるまい。そんな中では、もっとも頼みがいがありそうなのは峰西ほうせいの姉上殿だが……」


【 ミズキ 】

「〈愛憫公主あいびんこうしゅ〉様は、確かに我らに好意的ではありますけれど……兵を動かせるかどうかは?」


 愛憫公主こと〈エン・レッカ〉は先帝(ヨスガの父・ムジカ)の姪にあたる。

 峰西地方を支配する軍閥ぐんばつの当主でもあり、数少ないヨスガ派のひとりであった。


【 ヨスガ 】

「難しいな。なにしろ、西寇ヒエン北寇ショウキに挟まれているのだ、易々とは動けまい」


【 ミズキ 】

「つまるところ、ここに立てこもっていても、今後の展望は――」


【 ヨスガ 】

「――ないな。まったくない」


 きっぱりと口にする。


【 ヨスガ 】

「どのみち、他人任せでなんとかなるはずもない。仮にどうにかなったとしても、恩を売りつけられるだけのことだ。ならば、己の道は己で切り開かねばなるまいよ」


【 ミズキ 】

「では……どうなさいます?」


【 ヨスガ 】

「むろん、三十六計、逃げるにしかず――というやつだ。そもそもこの地は、あまりに帝都に近い。もっと遠くへとずらかる必要があろうな」


【 ミズキ 】

「そうおっしゃると思っていましたが――行く先は?」


【 ヨスガ 】

「むろん、決まっているとも。心当たりはあろう?」


【 ミズキ 】

「ヨスガさまの、生まれ故郷――ですね」


 ミズキの脳裏に、霧に包まれた巨大な建造物の姿が浮かぶ。


【 ヨスガ 】

「そう――〈大監獄だいかんごく〉だ」


【 ミズキ 】

「…………」


 そこは、ふたりにとっては思い出深い出会いの地であり……

 同時にまた、決して忘れられぬ別れの地でもあるのだった――

ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ