◆◆◆◆ 10-6 廃帝の野望 ◆◆◆◆
天下が騒然となる中、廃帝とされた〈焔・ヨスガ〉はいったいどうしていたか?
彼女とその一党は、帝都の北西、央原と峰南の境界にある〈宝玲山〉に身を隠していた。
宝玲山とは山単独の名ではなく、険しい峰が連なる広範な山地を指しており、古来より天然の要害として知られている。
そのため、かねてから山賊の住処となっていたが、十数年前、〈霙・バイシ〉が乗り込んできてみずから賊の主となったのである。
そして三年前、訪ねてきたヨスガとの相談の末、彼女を陰ながら支援する役目を負うことになったのだった。
かくして、現在……
宝玲山の〈捧武庁〉(山の中枢部)に、主だった幹部たちが集っていた。
みな沈痛な面持ちなのは、つい先ほどまで、弔いを行っていたために他ならない。
バイシをはじめ、このたびの戦いで没した将兵の葬儀が終わったところなのだ。
【 ヨスガ 】
「――いつまでも、悲しみに沈んでいるわけにはいかぬ」
喪服から着替えたヨスガが、一同に向き直る。
【 ヨスガ 】
「今後の身の振り方を考えねばならぬが……その前にまず、そなたらに明らかにしておかねばならぬことがある」
【 宝玲山の将たち 】
『…………?』
【 ヨスガ 】
「我、すなわち、〈天侠大聖〉は――」
【 ヨスガ 】
「――宙帝国、真の207代天子、焔・ヨスガ、その人である!」
【 宝玲山の将たち 】
『――――っ』
【 宝玲山の将 】
「――ええっ!? そ、そうだったのかっ!」
と、驚く者もいるにはいたが、
【 宝玲山の将 】
「……いやまぁ、とっくに気づいていましたが」
【 宝玲山の将 】
「まあ、陛下とか呼ばれてたしな……」
大方の者にとっては、今さらの話であった。
【 ヨスガ 】
「……もう少し驚いてくれてもよいところではないか?」
反応の薄さにやや不服そうにしつつ、ヨスガは咳払いして話を続ける。
【 ヨスガ 】
「――ともあれ、だ。知っての通り、我は朝廷によって帝位を剥奪され、一介の庶人へと落とされた」
【 ヨスガ 】
「だが、それはあちらの都合というもの。我は退位したつもりはなく、今なお皇帝である。だが、いくらそう言い張っても、現状では蟷螂の斧にすぎぬ」
*蟷螂……カマキリ。蟷螂の斧とは、身の程知らずの意。
【 ヨスガ 】
「ゆえに我はこれより、奪われたものを取り戻すべく、天下に喧嘩を吹っかけねばならぬ」
【 ヨスガ 】
「……だが、そなたたちに無理に付き合ってくれと言うつもりはない。我と行動を共にする気がなければ、速やかに立ち去るがよい。止めはせぬ」
【 宝玲山の将たち 】
『…………』
ヨスガの言葉に、幹部たちは当惑の色を見せている。
【 ???? 】
「大首領――いえ、陛下とお呼びするべきでしょうか」
【 ヨスガ 】
「む……〈裂空二娘〉か。どちらでも、好きにするがよかろう」
声をあげたのは、裂空二娘こと、強弓の使い手〈琅・カガノ〉であった。
【 カガノ 】
「では――大首領。私はもともと――〈地侠元聖〉さまの同志でした」
地侠元聖〈明・セイジュ〉……かつて天下を騒がした大盗賊である。
その器量は、現在四寇と恐れられている烈・進・雷の三大賊王の兄貴分であった――というだけでも、うかがい知れよう。
【 カガノ 】
「貴方に従っていたのは、天侠大聖がその後継者だと思っていればこそ――」
【 ヨスガ 】
「…………」
【 カガノ 】
「ですが――皇帝であることと、大侠であることは、矛盾します。そうではありませんか――?」
【 ヨスガ 】
「ふむ、それは一理ある。皇帝とは国家の法、公権力そのものの象徴といっていい。一方、侠客の世界とは、仁義をもって法を破ることを良しとする……」
【 ヨスガ 】
「ゆえに我は、大侠たる道は諦めた。そちらは妹分である〈人侠烈聖〉、すなわち〈鱗・ホノカナ〉に託すことにした――」
【 ヨスガ 】
「――どこで油を売っているのか、定かではないがな!」
そう、いまだにホノカナとその同行者の行方は定かではなかった。
【 カガノ 】
「なるほど――ですが、どのみち皇帝権力と任侠集団はしょせん水と油……いずれ利害は一致しなくなり、対立せざるをえないでしょう――」
【 カガノ 】
「そうなってからでは、遅いので――私は今のうちに、お暇をいただきます――かつての仲間を、撃ちたくはありませんから」
【 ヨスガ 】
「……行く当てはあるのか?」
【 カガノ 】
「は――姉者が、雷の大親分のもとにおりますので――そちらを、頼ろうかと――」
【 ヨスガ 】
「ほう、交龍の……それもよかろう。琅の姉妹のごとく、離れたい者は遠慮なく申し出るがよい。多少なりとも分け前を渡そう。彼女とともに交龍へ向かうのも良かろうよ」
【 宝玲山の将たち 】
『…………っ』
ヨスガの言に、幹部たちは複雑そうに顔を見合わせた……
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