◆◆◆◆ 10-2 嶺公の思惑 ◆◆◆◆
【 シュレイ 】
「――将軍ご自身は、どうなさるおつもりですか?」
【 グンム 】
「官職か? 俺はどうでもいい……ってわけにもいくまいな」
【 グンム 】
「まあ、驃騎将軍あたりでいいんじゃないか?」
驃騎将軍といえば、かつては重職の将軍位だったが、現在では名誉職のようなものになっている。
【 シュレイ 】
「宰相の座を求めたりはしないと?」
【 グンム 】
「宰相なんて柄じゃあないさ。位人臣を極めるなんて、ろくなことはないだろう?」
【 シュレイ 】
「それはそうですが……」
【 シュレイ 】
「本人が望もうが望むまいが、人はあるべき地位に押し上げられるものではあります」
【 グンム 】
「……まあ、おいおい考えよう」
【 グンム 】
「論功行賞も大事だが、その後はどうする?」
【 シュレイ 】
「左様ですな……」
【 シュレイ 】
「……大志を抱き、天下を統一すべく各地の勢力と火花を散らす……これもまた一つの道です」
【 グンム 】
「ふむ」
【 シュレイ 】
「あるいは、己の保身だけを考え、帝都周辺の維持だけに全力を尽くす……それもまた、一手ではありましょう」
【 シュレイ 】
「――しかしながら、私であれば、どちらの道も選びません」
【 グンム 】
「では、どうする?」
【 シュレイ 】
「天下統一などは考えず、あくまで最大勢力として覇を唱え、各地の群雄に睨みを利かせる存在となることこそ、良策かと存じます。すなわち、覇王の道ということになりますが」
【 グンム 】
「ほう……たしかに、もっとも現実的な案だな。俺にはぴったりのようだ」
【 シュレイ 】
「とはいえ、すべては閣下のお考え次第ですので」
【 グンム 】
「――なんて言いながら、もう策のひとつやふたつは考えてあるんだろう?」
【 シュレイ 】
「は、愚考ではありますが――」
シュレイが机上に置かれた地図を指す。
【 シュレイ 】
「ご承知のとおり、ここに廃帝が残っております」
シュレイが指したのは、帝都の北西にある宝玲山――すなわち、廃帝ヨスガの本拠地である。
【 グンム 】
「ふむ――捨て置くわけにはいくまいな」
【 シュレイ 】
「さりとて、我らが単独で叩くことはありません。……各地の勢力に檄を飛ばし、廃帝征伐を呼びかけます」
【 グンム 】
「ほう、それに応じるか否かで、敵味方を峻別するというわけだな」
【 シュレイ 】
「左様です。逆らう者がいれば、逆賊の汚名を着せ、討伐の大義名分を得ることもできましょう」
【 グンム 】
「なるほどな。廃帝退治はあくまでついで……というところか」
【 シュレイ 】
「仰る通り……ですが、今度こそ、きっちりと片付けるべきでしょう」
【 グンム 】
「ほう、そうか。老師なら、生かしておけば使い道もある、などと考えそうなところだが」
【 シュレイ 】
「確かに、使いようはあります。自分たちに対抗する存在を残すことで、官民が弛緩する可能性は減りますので」
いかなる組織も、一強状態になってしまうと、とかく緊張が薄れて自壊が始まるものだ。
【 シュレイ 】
「――ですがそれ以上に、あの天子、いえ廃帝ヨスガは、放っておくのは危険だと考えます」
【 グンム 】
「ふむ……」
【 シュレイ 】
「――念を押すまでもありませんが、これは決して、私情を挟んだ判断ではありません」
【 グンム 】
「……で、あろうな」
【 グンム 】
「まあ、檄文を飛ばすくらいはたやすいことだ。もう草稿はまとめてあるんだろう?」
【 シュレイ 】
「もとよりです」
と、懐から出した書状を差し出す。
【 グンム 】
「どれどれ……ふむ、ま、こんなところだろうな」
その内容は、ありていに言えば。
――逆徒となった廃帝を討つべし、
しからずんば同類とみなす――
と、いったところである。
【 グンム 】
「〈東寇〉、雷なにがしあたりは、またぞろ反発してきそうだが」
【 シュレイ 】
「その可能性は高いでしょうが……とはいえ多くの者は、我らに従うか、中立を決め込むことでしょう」
【 グンム 】
「そうであることを願いたいがな」
【 シュレイ 】
「お許しを頂けるなら、さっそく手を打ちますが――」
【 グンム 】
「ああ、任せよう。やはり老師がいてくれると、助かるな」
【 シュレイ 】
「いえ――これも、国家のためですので」
【 グンム 】
「…………」
一礼するシュレイを、グンムは油断のない目で見つめていた……
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