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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
41/421

◆◆◆◆ 4-3 茶会 ◆◆◆◆

 明けて、早朝――


【 ランハ 】

「――わざわざお呼び立てしてしまい申し訳ございません、陛下」


【 ヨスガ 】

「いえ、国母さまのお召しとあらば、いつ、どこへなりとも駆けつける所存でございます」


【 ランハ 】

「あら――そう? 嬉しいわ! やはり、持つべきものは孝行娘ね!」


 庭園の一角で、皇帝ヨスガと皇太后ランハが卓を囲んでいた。

 そのそばにはべるのは、互いに二人の従者のみ。

 ヨスガの側はミズキと、そして――


【 ホノカナ 】

(思ったより、ずっとお若い……!)


 はじめて皇太后の顔を間近に見たホノカナは、思わず息を呑んでいた。

 ランハの年齢はよく知らないが、若くて四十……あるいは五十に近いはず。

 だが見るかぎり、まだ三十過ぎなほどに若く感じられる。


【 ホノカナ 】

(いいもの食べてると、老けにくいのかなぁ?)


 などと、のんきなことを考えているホノカナとは裏腹に……


【 ランハ 】

「相変わらず、日がな一日、歌舞音曲に興じているみたいね?」


【 ヨスガ 】

「いえ……多少、手慰みていどのことでして」


【 ランハ 】

「そう? ずいぶん盛大にやっているという話だけれど」


【 ヨスガ 】

「…………」


【 ランハ 】

「先帝陛下も、たいそう音楽を好いていたものだけれど……やっぱり血筋なのかしらねぇ?」


【 ヨスガ 】

「さて……どうでしょう」


【 ランハ 】

「たしなむくらいならばいいけれど、何事なにごとも度がすぎると毒よ? ほどほどにしておきなさいね、ヨスガ」


【 ヨスガ 】

「はっ――――」


 あのヨスガが、反論もままならず、唯々諾々(いいだくだく)と応じるばかり。

 それはもちろん、ことさら大げさにかしこまってみせているという面もあるのだろうが……


【 ホノカナ 】

(なんていうか……真綿で絞められてるみたいな……)


 ホノカナは、そんな感覚を味わっていた。

 義理の母子という関係でも、ここまでの力関係となるものだろうか?


【 ランハ 】

「そうそう、宮女をいじめて楽しんでいるとも聞くわよ? 多少はしつけも必要だけれど、ほどほどになさいね」


【 ヨスガ 】

「はっ……」


【 ランハ 】

「――そこのあなたでしょう? 毎日のようにヨスガにいたぶられているというのは」


【 ホノカナ 】

「えっ――」


 ランハに見つめられ、思わず絶句するホノカナ。


【 ヨスガ 】

「国母さま、この者は――」


【 ランハ 】

「ヨスガ? 今は、私が彼女と話しているの」


【 ヨスガ 】

「――――っ」


【 ランハ 】

「ああ――そうそう、思い出したわ。あなた、タイシンといっしょに来た子ね? そうでしょう?」


【 ホノカナ 】

「は――はいっ」


 やむをえず直答する。


【 ランハ 】

「人手は足りていたから、あのときは断ってしまったけれど……」


【 ランハ 】

「ヨスガの下で働くのがつらいなら、私が引き取ってあげましょうか?」


【 ホノカナ 】

「ええっ? そ、それはっ……」


【 ヨスガ 】

「国母さま、お戯れを――」


【 ランハ 】

「だって、かわいそうでしょう? あなたはどう思っているのかしら、リン家のホノカナ?」


【 ホノカナ 】

「――――っ」


 名を呼ばれ、血の気が引く。

 いち宮女の名まで把握していることに、ホノカナは恐怖を覚えた。


【 ホノカナ 】

「え、えっと、ええっと――」


 まるで頭が働かず、茫然とするも……


【 ミズキ 】

「――これなる者は、まだまだ未熟者でございます、陛下」


 一歩踏み出てそう告げたのは、ミズキであった。


【 ミズキ 】

「ただいま、一人前の宮女とすべく鍛えている最中でございますれば」


【 ミズキ 】

「もしも今、陛下のもとで働こうものなら、粗相ばかりでものの役に立たぬは必定ひつじょう……どうか、今しばらくのご猶予を」


【 ランハ 】

「あら――そう? そんな半端者を、わざわざ私の茶会に連れてきたということかしら。ずいぶんではなくて?」


【 ミズキ 】

「――貴人の香気に触れさせ、少しでも場数を踏ませようと愚考した次第です」


【 ミズキ 】

「しかし、小人しょうじん浅慮せんりょでございました。すぐに下がらせますので、何とぞご寛恕のほどを――」


【 ランハ 】

「ふうん? あなたはどうなのかしら、ヨスガ?」


【 ヨスガ 】

「――宮女のひとりやふたり、もとより惜しむものではございません。国母さまの御所望とあらば、今すぐにでも献上いたしましょう」


 顔色も声音もまるで変えることなく、ヨスガは言い放った。


【 ホノカナ 】

「――――っ」


【 ヨスガ 】

「……ですが、役に立たぬからといって返品などされても困ります。そのさいは、そちらで煮るなり焼くなり、どうかお好きなように」


【 ランハ 】

「…………」


 皇太后は、しばし探るように視線を巡らせていたが、ふいに手を叩き、


【 ランハ 】

「――ふふ、うふふ! 冗談よ、冗談。そんな意地の悪いことを、この私がするはずがないでしょう?」


 と、笑顔を咲かせてみせた。


【 ヨスガ 】

「おや……本当によろしいのですか?」


【 ランハ 】

「ええ、人手はじゅうぶんだもの! あなたのところと違ってね」


【 ヨスガ 】

「…………」


【 ランハ 】

「きっと、お気に入りなのでしょう? わかるわ。好きな子ほど、いじめたくなるものよねぇ?」


【 ヨスガ 】

「い、いえ、そういうわけでは……」


【 ランハ 】

「ふふ、ヨスガの可愛い顔が見られて、とても愉快だわ! さぁ、お茶にしましょうか」


 ランハの合図で、茶や軽食が運び込まれてきた。


【 ランハ 】

「このお茶の香り、たまらないでしょう? これは、峰西ほうせいからの貢ぎ物でね――」


【 ヨスガ 】

「……はぁ……」


 他愛のないやりとりを交わしながらも、ヨスガが辟易へきえきしているのは、ホノカナにもはっきりと伝わってきた……

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