◆◆◆◆ 10-1 新帝登極 ◆◆◆◆
■第一部終幕:
天に二日なく、されど地に二帝並び立ち、人心大いに惑いて、未曽有の大乱世ここに幕を開けること
大宙暦3133年、仲秋の月(8月)……
宙王朝の帝都、万寿世春――
宮城の金鳳殿に、文武百官が集まっていた。
玉座には、つい先日までとは別の主が腰を下ろしている。
すなわち、新たなる皇帝、〈焔・トウマ〉である。
【 トウマ 】
「……う、うぅ……」
慣れない格好をさせられ、当惑を隠せずにいるトウマの前で、集結した官僚や武将たちが一礼する。
【 グンム 】
「――天子さま、万歳!」
征南将軍〈嶺・グンム〉に続いて、文武の百官も声をあげる。
【 文武百官 】
「万歳……!」
【 文武百官 】
「天子さま、万歳っ……!」
万歳の声が鳴り響く。
【 トウマ 】
「…………っ」
新米天子は、小刻みに震えながら、響き渡る万歳を聞いていた……
その後、天を祀る儀式もとどこおりなく終わり、ここに新天子が登極した。
*登極……即位の意。
すなわち、焔・トウマが第207代の宙帝国皇帝となったのである。
――208代でないのは、先の天子である〈焔・ヨスガ〉が廃位させられ、その地位を剥奪されたからに他ならない。
こののち、史書においてはヨスガは廃帝と記され、いち庶人として扱われることになるであろう。
――ただし、トウマが最終的な勝利者となり、歴史を記す側に立った場合に限ってのことであるが。
【 グンム 】
「やれやれ……だな。ようやく一区切りというわけだ」
接収した屋敷の執務室で、嶺・グンムは息をついていた。
【 シュレイ 】
「戦場での采配とは、別の気苦労がありましょうな」
と、瓶を傾けてグンムの杯を満たすのは、〈神算朧師〉こと〈楽・シュレイ〉である。
【 グンム 】
「ああ、まったくだ。老師がいてくれて実に助かった」
と、グンムは杯を空け、シュレイに返杯する。
【 シュレイ 】
「蛇の道は蛇、というものですので」
グンムはシュレイの謹慎を解き、さまざまな仕事をさせている。
即位に当たっての儀礼の準備など、グンムの武骨な配下たちでは手に余るようなことも、シュレイはそつなくこなしてみせた。
【 グンム 】
「国母さまとの折衝も、うまくやってくれたな」
【 シュレイ 】
「そうたいしたことでは……あちらも、もとよりその気だったようですし」
グンムがいかに軍事力を擁していても、軽々しく天子を廃したり立てたりすることはできない。
すべては、皇太后である〈煌・ランハ〉の協力あってのことであった。
グンムの要請に応じ、ランハはヨスガを廃する令旨を出し、さらにはトウマを己の養子として、即位にお墨付きを与えたのである。
【 グンム 】
「ずいぶんと気前よく手を貸してくれたものだが……見返りは高くつきそうだな」
【 シュレイ 】
「そうなりましょうが、今は、静観するべきかと。藪をつついて蛇を出すことはありません」
【 グンム 】
「そうするとしよう。協力といえば、官僚たちもまるで刃向かう様子も見せず、唯唯諾諾と従ってくれたな」
【 シュレイ 】
「彼らにとっては、誰が君主であっても、どうでもいいことですので。自分たちに利を与えてくれるなら、それこそ、蛮夷の王にすら喜んで膝を屈しましょう」
【 グンム 】
「――さもあろう」
【 グンム 】
「……さて、ひとまず賊軍の汚名が晴れて肩の荷が下りたが、これからどうする?」
【 シュレイ 】
「むろん、まずは論功行賞でしょう。功ある者には賞を与え、罪ある者は罰さねばなりません」
【 グンム 】
「うむ、手間ではあるが……恩と威を示す、というやつだな」
【 シュレイ 】
「左様です。あまり気前がよすぎてもいけませんが……そういったことは、閣下の得意とするところでは?」
【 グンム 】
「まぁ、苦手じゃないが……一軍を仕切るのと、政府を仕切るのとじゃあ、まるで話が違うからな」
そう言って、グンムはつい苦笑する。
故郷を離れてほんの数ヶ月で、あまりにも状況が激変してしまった。
【 グンム 】
(だが、ここまできたら……)
もはや、勝負を降りることはできない。
それはすなわち、破滅を待つだけだからだ。
【 グンム 】
(行けるところまで、行くしかない――な)
その先に、なにがあるのか……それはいまだに図りがたいことだった。
これより第一部の終幕です!
よろしくお付き合いくださいませ。




