◆◆◆◆ 9-108 鶴風の戦い(57) ◆◆◆◆
怪我人の応急処置が終わったところで……
【 ヨスガ 】
「――かなりの騒ぎだったゆえ、もはや敵軍にもこちらの位置は気取られていよう」
【 ヨスガ 】
「ゆえに、このまま夜通し宝玲山へ向かう……!」
【 一同 】
『ははっ……!』
ヨスガの号令一下、重傷者は担架に乗せられ、残存兵たちは移動を開始したのだった。
……一方、その頃……
【 ホノカナ 】
「あのぉ~……セイレンさん、言いにくいんですけどぉ……」
【 セイレン 】
「……言いにくいことは、無理に言わなくてもいいんじゃないですかね?」
【 ホノカナ 】
「いつになったら地上に出られるんですかっ!?」
【 セイレン 】
「くっ……はっきり言いましたね……!」
ホノカナとセイレンは、地上へ向かって移動していた。
しかし、地下道は恐ろしく細かく分岐しており、どれが正しい道やら、さだかではない。
【 セイレン 】
「……まあでも、とりあえず上に向かってるのは確かですから! ええ、ご心配なく!」
【 ホノカナ 】
「そりゃあ、いつかは出られるかもですけどっ、早く応援を呼びに行かないと、姉さまたちがっ……」
【 ホノカナ 】
「ううっ……この前はすごく頼もしかったのに! あのときのセイレンさんはいったいどこへ行っちゃったんですか!?」
〈黄泉洞〉におけるセイレンは、ふだんとは段違いに頼りがいがあったのだが……あれは幻だったのだろうか?
【 セイレン 】
「私が聞きたいくらいですよ! あのときはその――なんかこう――かなり、いい感じだったんですっ!」
【 ホノカナ 】
「ぼんやりしすぎてる……!」
【 暗庭君 】
(……なにをやってるんだ、こいつらは……)
師にホノカナらと同行するよう命じられた暗庭君だったが、あまり関わり合いになりたくないので、身を隠したままこっそりと後をつけているのだった。
チカ……チカ……
【 ホノカナ 】
「あれっ? セイレンさん、杖の光、点滅してますけど……」
【 セイレン 】
「うう……そろそろ力がなくなってきて……明かりも消えそうっ……」
【 ホノカナ 】
「ええ~っ!? も、もう少しがんばってください~っ!」
【 暗庭君 】
(はァ……しょうがねェな……)
溜め息まじりに、懐から取り出した瓶をこっそりセイレンの足元へと転がしてやる。
【 セイレン 】
「……んっ? おおっ、こんなところに滋養強壮の霊薬が落ちているとはっ! なんとも幸運でしたっ!」
【 ホノカナ 】
「ええっ? そんなの、危ないんじゃっ……」
【 セイレン 】
「ごくごくごく」
【 ホノカナ 】
「ためらうこともなく一気に飲み干してる!?」
【 セイレン 】
「……うっ……ううっ……」
【 ホノカナ 】
「だ、大丈夫ですかっ!?」
【 セイレン 】
「う――おおおおおっ! 元気がモリモリ湧いてきましたっ! さぁ、急ぎますよっ、ホノカナ殿っ!」
タッタッタ……
【 ホノカナ 】
「ええっ!? ちょ、ちょっと待ってください~!」
元気よく駆け出したセイレンを慌てて追いかけていく。
【 暗庭君 】
(はァ……)
早く帰りたい、と思うことしきりの暗庭君であった。
――かくして。
大宙暦3133年(帝ヨスガ2年)、仲秋の月(8月)、天子ヨスガは帝都から姿をくらました。
鶴風城の攻防からはじまった一連の戦いは、のちの世に〈鶴風の戦い〉と呼ばれることとなる。
そして、これより天下の情勢は大きく動き始めるのだった――
(第九幕:完)
ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!
これにて第九幕完、次回より第一部の終幕です!




