◆◆◆◆ 9-99 鶴風の戦い(48) ◆◆◆◆
夜闇に響いた異様な遠吠えは、ヨスガたちの潜む洞穴にも届いた。
【 ミズキ 】
「――ヨスガさま」
【 ヨスガ 】
「うむ!」
ヨスガらはすぐさま立ち上がり、身構える。
【 エキセン 】
「今の……声、虎や獅子……とも、違うか……?」
【 ミズキ 】
「それなら、まだいいのですが……」
嫌な感じがする、とミズキは思った。
【 宝玲山の兵 】
「なんだ、今のはっ……!?」
【 宝玲山の将 】
「わからん――が、警戒を怠るなっ!」
周囲で哨戒に当たっていた将兵も、洞窟近辺に集結してくる。
*哨戒……敵の攻撃を警戒するの意。
【 カズサ 】
「今の、声は……!」
【 ランブ 】
「屍冥幽姫殿っ、詳しく聞かせてくれっ! なにが――来ているっ?」
【 屍冥幽姫 】
「こ、この、感じはっ……危険ですっ! この前のっ……〈千陣軍魔〉と同じ……いえ、それよりもっ……!」
【 ランブ 】
「…………っ!」
先日の〈燎氏の変〉において、ヨスガらを襲った巨大なる怪異・千陣軍魔。
その正体はいまだにはっきりしないが、難敵だったのは間違いない。
【 ランブ 】
「――洞穴の入り口に陣を布く! 陛下をお守りせよっ!」
【 将兵 】
『おおおっ……!!』
一同が身構える中、
――ズルッ……ズルッ……
なにかを引きずるような音が近づいてくる。
闇の中に、ゆらりと妖しい光が浮かび上がり――
――ブゥンッ!
【 ランブ 】
「――っ!」
突然、なにかが空を切って飛んでくる!
【 ランブ 】
「はぁあっ!」
――ドバァッ!
気合一閃、ランブは斧を振るい、それをまっぷたつに断ち切った。
【 宝玲山の将 】
「おおっ! お見事っ……!」
――ドシャッ!
【 ランブ 】
「…………っ! これはっ……」
【 カズサ 】
「うっ……!」
地面に落ちたのは、人間だった。
装備からして、飛鷹の兵とおぼしいが、あちこちに噛み跡があり、性別も年齢もさだかではない。
大の大人を、かくも軽々と投げつけてくるとは、尋常な力ではなかった。
【 ???? 】
『……グッ……ウッ……ウウウウッ……!!』
異様な声が響き、“それ”が姿を現した。
それは、かろうじて人の形をなしている。
身の丈はおよそ七宙尺あまり(約2メートル)、二本の足で立っているが、その背中からは蝙蝠めいた翼が生えていた。
薄明りの中、その左眼からは血のように赤い光が放たれている。
【 異形の人影 】
『……グチュッ……ジュルゥ……』
口は耳まで裂けており、別の死体の喉笛を咥え、引きずっている。
【 ランブ 】
「ぬうっ……!」
【 屍冥幽姫 】
「……うっ、ううっ……!」
【 カズサ 】
「――っ、なるほど、気色の悪いっ……ですが、この前のデカブツよりはっ!」
カズサが己を鼓舞するように言い、突撃体勢を取る。
【 ランブ 】
「待て、カズサ殿っ! まだ、相手の手の内が――」
【 カズサ 】
「なんのっ……先手必勝ですっ!」
――ドォンッ!
地を蹴り、カズサが一気に間合いを詰める。
【 異形の人影 】
『……グゥッ……オオッ!』
――ブォンッ!
咥えていた死体を、無造作に投げつけてくる。
【 カズサ 】
「なんのっ……!」
跳躍して死体を躱し、双剣が唸りをあげる。
【 カズサ 】
「緋閃――」
【 カズサ 】
「――十文字斬りっ!!」
カズサの神速の斬撃が、異形の姿へと迫る――
【 異形の人影 】
『…………!!』
――バシュッ! ズバァッ!!
【 カズサ 】
「うぐっ……ああっ!?」
【 ランブ 】
「カズサ殿っ!?」
血煙をあげながら吹き飛んだのは、斬りかかったはずのカズサであった。
【 異形の人影 】
『……グッ……ククッ……アァハハッ……!』
まるで無傷の異形から、嘲笑が漏れ出してくる。
【 異形の人影 】
『……そんなものが……この……このアタシに……〈血風翼将〉に……届く……ものかァ……グゥッ……アァッハハッ……!!』
かつて血風翼将こと銀・タシギだったものが、狂気をはらんだ高笑いを放った……
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