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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
399/421

◆◆◆◆ 9-99 鶴風の戦い(48) ◆◆◆◆

 夜闇に響いた異様な遠吠えは、ヨスガたちの潜む洞穴にも届いた。


【 ミズキ 】

「――ヨスガさま」


【 ヨスガ 】

「うむ!」


 ヨスガらはすぐさま立ち上がり、身構える。


【 エキセン 】

「今の……声、虎や獅子……とも、違うか……?」


【 ミズキ 】

「それなら、まだいいのですが……」


 嫌な感じがする、とミズキは思った。




【 宝玲山ほうれいざんの兵 】

「なんだ、今のはっ……!?」


【 宝玲山の将 】

「わからん――が、警戒を怠るなっ!」


 周囲で哨戒しょうかいに当たっていた将兵も、洞窟近辺に集結してくる。

 *哨戒……敵の攻撃を警戒するの意。


【 カズサ 】

「今の、声は……!」


【 ランブ 】

屍冥幽姫ウヅキ殿っ、詳しく聞かせてくれっ! なにが――来ているっ?」


【 屍冥幽姫 】

「こ、この、感じはっ……危険ですっ! この前のっ……〈千陣軍魔せんじんぐんま〉と同じ……いえ、それよりもっ……!」


【 ランブ 】

「…………っ!」


 先日の〈リョウ氏の変〉において、ヨスガらを襲った巨大なる怪異・千陣軍魔。

 その正体はいまだにはっきりしないが、難敵だったのは間違いない。


【 ランブ 】

「――洞穴の入り口に陣をく! 陛下をお守りせよっ!」


【 将兵 】

『おおおっ……!!』


 一同が身構える中、


 ――ズルッ……ズルッ……


 なにかを引きずるような音が近づいてくる。

 闇の中に、ゆらりと妖しい光が浮かび上がり――


 ――ブゥンッ!


【 ランブ 】

「――っ!」


 突然、なにかが空を切って飛んでくる!


【 ランブ 】

「はぁあっ!」


 ――ドバァッ!


 気合一閃、ランブは斧を振るい、それをまっぷたつに断ち切った。


【 宝玲山の将 】

「おおっ! お見事っ……!」


 ――ドシャッ!


【 ランブ 】

「…………っ! これはっ……」


【 カズサ 】

「うっ……!」


 地面に落ちたのは、人間だった。

 装備からして、飛鷹の兵とおぼしいが、あちこちに噛み跡があり、性別も年齢もさだかではない。

 だいの大人を、かくも軽々と投げつけてくるとは、尋常な力ではなかった。


【 ???? 】

『……グッ……ウッ……ウウウウッ……!!』


 異様な声が響き、“それ”が姿を現した。




 それは、かろうじて人の形をなしている。

 身の丈はおよそ七宙尺ななちゅうしゃくあまり(約2メートル)、二本の足で立っているが、その背中からは蝙蝠こうもりめいた翼が生えていた。

 薄明りの中、その左眼からは血のように赤い光が放たれている。


【 異形の人影 】

『……グチュッ……ジュルゥ……』


 口は耳まで裂けており、別の死体の喉笛を咥え、引きずっている。


【 ランブ 】

「ぬうっ……!」


【 屍冥幽姫 】

「……うっ、ううっ……!」


【 カズサ 】

「――っ、なるほど、気色の悪いっ……ですが、この前のデカブツよりはっ!」


 カズサが己を鼓舞するように言い、突撃体勢を取る。


【 ランブ 】

「待て、カズサ殿っ! まだ、相手の手の内が――」


【 カズサ 】

「なんのっ……先手必勝ですっ!」


 ――ドォンッ!


 地を蹴り、カズサが一気に間合いを詰める。


【 異形の人影 】

『……グゥッ……オオッ!』


 ――ブォンッ!


 咥えていた死体を、無造作に投げつけてくる。


【 カズサ 】

「なんのっ……!」


 跳躍して死体をかわし、双剣が唸りをあげる。


【 カズサ 】

「緋閃――」


【 カズサ 】

「――十文字斬りっ!!」


 カズサの神速の斬撃が、異形の姿へと迫る――


【 異形の人影 】

『…………!!』


 ――バシュッ! ズバァッ!!


【 カズサ 】

「うぐっ……ああっ!?」


【 ランブ 】

「カズサ殿っ!?」


 血煙をあげながら吹き飛んだのは、斬りかかったはずのカズサであった。


【 異形の人影 】

『……グッ……ククッ……アァハハッ……!』


 まるで無傷の異形から、嘲笑が漏れ出してくる。


【 異形の人影 】

『……そんなものが……この……このアタシに……〈血風翼将けっぷうよくしょう〉に……届く……ものかァ……グゥッ……アァッハハッ……!!』


 かつて血風翼将ことギン・タシギだったものが、狂気をはらんだ高笑いを放った……

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