◆◆◆◆ 9-98 鶴風の戦い(47) ◆◆◆◆
【 アグラニカ 】
「ウツセさん――」
【 ウツセ 】
「……アグラニカ陛下」
陣幕を離れ、ひとりで夜空を見ていたウツセの元へ、アグラニカが足を運んだ。
【 アグラニカ 】
「元気がありませんね」
【 ウツセ 】
「……そんな、ことは……」
【 アグラニカ 】
「…………」
【 ウツセ 】
「……そういえば、彼女……アシアンディーカ殿は?」
【 アグラニカ 】
「かなりの深手ではありますが……死に至るほどではありません。全身に刻んだ呪文も封じておきましたし」
【 ウツセ 】
「……それはなによりです」
【 アグラニカ 】
「タイザン殿も、傷を負ったとか……」
【 ウツセ 】
「私がいたらぬゆえに、多くの被害を招いてしまいました。……ふがいない限りです」
【 アグラニカ 】
「……自分を責めてはなりません。誰かが、背負わなければいけないことなのですから」
と、アグラニカがいたわるようにウツセの手を取った、その刹那……
【 アグラニカ 】
「…………っ!」
突如、アグラニカがなにかに気づいたように空を見上げた。
【 ウツセ 】
「…………っ?」
それにつられて、ウツセも夜空に目を向けると……
――ゴォオッ……!
空中を、なにかが飛んでいる。
赤く輝くものが、夜空を裂くように北へ飛来していた。
【 飛鷹の兵 】
「なんだっ……ありゃあっ!?」
【 森羅の兵 】
「うぬっ……異国の邪神かっ!」
ひどくまがまがしく、おぞましい、あれは――
【 ウツセ 】
「妖魔……!?」
ウツセは驚愕しつつ、剣を抜き、アグラニカを守るように身構える。
【 アグラニカ 】
「……いえ、心配はいらないようです」
それはウツセたちや眼下の将兵には目もくれず、まっしぐらに北へ向かって飛んでいく。
その先にあるのは――天子たちが逃げ込んだ山中。
【 ウツセ 】
「……っ、もしや、嶺将軍が追撃を禁じたのは……」
【 アグラニカ 】
「嶺・グンム……思った以上に、危険な御仁のようですね」
嫋やかなるアグラニカは、厳しい表情を浮かべながら、飛び去ってゆく妖星を見つめていた……
しばしのち、夜の森の中。
【 飛鷹の兵 】
「くそっ……なんだ、この森はっ……!」
【 飛鷹の兵 】
「おい、急げっ……! 逃げられるぞっ」
【 飛鷹の兵 】
「なにが天の子だっ……首を掻っ切って、同胞の骸に捧げてくれるっ!」
仇討ちに燃える兵たちが、ひそかに陣を離れ、天子たちを追っていた。
【 最後尾の兵 】
「…………」
【 飛鷹の兵 】
「……おい、どうしたっ? グズグズしてたら――」
……グチャッ……グジュルッ……
異様な咀嚼音と、血の臭いが立ち込める。
【 飛鷹の兵 】
「……っ! おいっ!?」
異変に気づき、兵たちはすぐさま身構える。
【 飛鷹の兵 】
「く、くそっ、獣かっ!?」
【 ???? 】
『……ぐゥゥッ……がァアッ!!』
【 飛鷹の兵 】
「なっ……!?」
――バリッ! ザシュウッ!
【 飛鷹の兵 】
「ぐっ……ぎゃっ!?」
【 飛鷹の兵 】
「がああっ……!?」
断末魔の悲鳴に続いて、肉が裂け、骨が砕ける音が響き渡った――
――より森深く……
【 カズサ 】
「ランブ大姐、左手は大丈夫ですか?」
警戒に当たりながら、カズサがランブに問う。
【 ランブ 】
「うむ……危ういところだったが」
タイザンの狙撃で貫かれたランブの左手だったが、今はなんの問題もなく、しっかり動いている。
本来なら背後から胴を射抜かれていたところだが、勝手に動いた左手が受け止めたのである。
【 カズサ 】
「その僵尸化した手、本当に大丈夫なんですか……?」
【 ランブ 】
「さて……今のところは、助かっているが」
【 カズサ 】
「そのうち、大姐の本体を乗っ取ったりしませんよね……?」
【 ランブ 】
「そんなことは――」
【 屍冥幽姫 】
「――ランブさんっ!」
【 カズサ 】
「きゃああっ!?」
突然、ランブの足元から屍冥幽姫が飛び出してきた。
カズサが可愛らしい悲鳴をあげてしまうのも無理はない。
【 ランブ 】
「――っ、屍冥幽姫殿、どうしたっ?」
【 屍冥幽姫 】
「ま、ま、まずいですっ! 逃げてください、今、今すぐにっ!!」
【 ランブ 】
「――――っ?」
悲鳴じみた屍冥幽姫の訴えにランブが息を呑むのとほぼ同時に、
【 ???? 】
『グゥッ……オ、オオオォッ!!』
野獣めいた獰猛な唸り声が、闇夜を切り裂いた――
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