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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
398/421

◆◆◆◆ 9-98 鶴風の戦い(47) ◆◆◆◆

【 アグラニカ 】

「ウツセさん――」


【 ウツセ 】

「……アグラニカ陛下」


 陣幕を離れ、ひとりで夜空を見ていたウツセの元へ、アグラニカが足を運んだ。


【 アグラニカ 】

「元気がありませんね」


【 ウツセ 】

「……そんな、ことは……」


【 アグラニカ 】

「…………」


【 ウツセ 】

「……そういえば、彼女……アシアンディーカ殿は?」


【 アグラニカ 】

「かなりの深手ではありますが……死に至るほどではありません。全身に刻んだ呪文も封じておきましたし」


【 ウツセ 】

「……それはなによりです」


【 アグラニカ 】

「タイザン殿も、傷を負ったとか……」


【 ウツセ 】

「私がいたらぬゆえに、多くの被害を招いてしまいました。……ふがいない限りです」


【 アグラニカ 】

「……自分を責めてはなりません。誰かが、背負わなければいけないことなのですから」


 と、アグラニカがいたわるようにウツセの手を取った、その刹那……


【 アグラニカ 】

「…………っ!」


 突如、アグラニカがなにかに気づいたように空を見上げた。


【 ウツセ 】

「…………っ?」


 それにつられて、ウツセも夜空に目を向けると……


 ――ゴォオッ……!


 空中を、なにかが飛んでいる。

 赤く輝くものが、夜空を裂くように北へ飛来していた。


【 飛鷹の兵 】

「なんだっ……ありゃあっ!?」


【 森羅の兵 】

「うぬっ……異国の邪神かっ!」


 ひどくまがまがしく、おぞましい、あれは――


【 ウツセ 】

妖魔ばけもの……!?」


 ウツセは驚愕しつつ、剣を抜き、アグラニカを守るように身構える。


【 アグラニカ 】

「……いえ、心配はいらないようです」


 それはウツセたちや眼下の将兵には目もくれず、まっしぐらに北へ向かって飛んでいく。

 その先にあるのは――天子たちが逃げ込んだ山中。


【 ウツセ 】

「……っ、もしや、レイ将軍が追撃を禁じたのは……」


【 アグラニカ 】

レイ・グンム……思った以上に、危険な御仁のようですね」


 たおやかなるアグラニカは、厳しい表情を浮かべながら、飛び去ってゆく妖星を見つめていた……




 しばしのち、夜の森の中。


【 飛鷹の兵 】

「くそっ……なんだ、この森はっ……!」


【 飛鷹の兵 】

「おい、急げっ……! 逃げられるぞっ」


【 飛鷹の兵 】

「なにが天の子だっ……首を掻っ切って、同胞の骸に捧げてくれるっ!」


 仇討ちに燃える兵たちが、ひそかに陣を離れ、天子たちを追っていた。


【 最後尾の兵 】

「…………」


【 飛鷹の兵 】

「……おい、どうしたっ? グズグズしてたら――」


 ……グチャッ……グジュルッ……


 異様な咀嚼そしゃく音と、血の臭いが立ち込める。


【 飛鷹の兵 】

「……っ! おいっ!?」


 異変に気づき、兵たちはすぐさま身構える。


【 飛鷹の兵 】

「く、くそっ、獣かっ!?」


【 ???? 】

『……ぐゥゥッ……がァアッ!!』


【 飛鷹の兵 】

「なっ……!?」


 ――バリッ! ザシュウッ!


【 飛鷹の兵 】

「ぐっ……ぎゃっ!?」


【 飛鷹の兵 】

「がああっ……!?」


 断末魔の悲鳴に続いて、肉が裂け、骨が砕ける音が響き渡った――




 ――より森深く……


【 カズサ 】

「ランブ大姐おねえさま、左手は大丈夫ですか?」


 警戒に当たりながら、カズサがランブに問う。


【 ランブ 】

「うむ……危ういところだったが」


 タイザンの狙撃で貫かれたランブの左手だったが、今はなんの問題もなく、しっかり動いている。

 本来なら背後から胴を射抜かれていたところだが、勝手に動いた左手が受け止めたのである。


【 カズサ 】

「その僵尸きょうし化した手、本当に大丈夫なんですか……?」


【 ランブ 】

「さて……今のところは、助かっているが」


【 カズサ 】

「そのうち、大姐おねえさまの本体を乗っ取ったりしませんよね……?」


【 ランブ 】

「そんなことは――」


【 屍冥幽姫しめいゆうき 】

「――ランブさんっ!」


【 カズサ 】

「きゃああっ!?」


 突然、ランブの足元から屍冥幽姫が飛び出してきた。

 カズサが可愛らしい悲鳴をあげてしまうのも無理はない。


【 ランブ 】

「――っ、屍冥幽姫ウヅキ殿、どうしたっ?」


【 屍冥幽姫 】

「ま、ま、まずいですっ! 逃げてください、今、今すぐにっ!!」


【 ランブ 】

「――――っ?」


 悲鳴じみた屍冥幽姫の訴えにランブが息を呑むのとほぼ同時に、


【 ???? 】

『グゥッ……オ、オオオォッ!!』


 野獣めいた獰猛どうもうな唸り声が、闇夜を切り裂いた――

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