◆◆◆◆ 9-97 鶴風の戦い(46) ◆◆◆◆
……ホウ……ホゥホゥ……
夜の森の中に、聞きなれない鳥の声が響いている。
【 ミズキ 】
「ヨスガさま、お疲れでは?」
【 ヨスガ 】
「……たいしたことはない。それより、報告を聞こう」
ヨスガとその側近たちは、山中の洞穴に身を潜めていた。
他の将兵は周囲に分散し、敵襲に備えている。
【 密偵 】
「追っ手は、飛鷹騎兵も森羅の軍も、兵を休めているようでさァ」
【 ヨスガ 】
「さもあろう。飛鷹や森羅の軍にとっては、異国の地だ。野戦ならともかく、うかつに山岳戦を仕掛けてはこないようだな」
【 別の密偵 】
「しかし、いくらかの兵は勝手に陣を離れ、山中に潜り込んでいる様子……油断は禁物ですぜ」
【 ヨスガ 】
「ふむ……」
【 ミズキ 】
「これから、どうなさいます?」
【 ヨスガ 】
「このまま山中を進み、宝玲山を目指す……というのが定石ではあるな。しかし、それは先方も承知の上だろうが」
【 ヨスガ 】
「追っ手の動きが気になる。引き続き、調査を頼む」
【 密偵たち 】
『ははっ……』
密偵たちが去ったあと……
【 ヨスガ 】
「…………」
【 ミズキ 】
「……ヨスガさま、どうされました?」
【 ヨスガ 】
「姥姥……いや、霙の姉妹のことを、考えていた」
【 ミズキ 】
「……お見事な最期だったとの由」
つい先ほど、バイシに最後まで付き従っていた者たちが合流し、涙ながらに彼女の最期の様子を伝えた。
【 ヨスガ 】
「……当然だ。あの御仁が、無様な命の捨て方をするはずもないゆえな」
【 ヨスガ 】
「彼女だけではない。多くの者が、我のために傷つき、そして斃れた」
【 ヨスガ 】
「そもそも、小細工など弄さず、素直に帝都を脱出していれば、もっと犠牲は少なく済んだであろうな」
【 ミズキ 】
「……そうと分かったうえで、選んだ道、なのでしょう?」
【 ヨスガ 】
「その通りだ。しばしの間、天下の権はグンムめの手に帰することになろうが……」
【 ヨスガ 】
「覇者きどりの謀叛人から尻尾を巻いて逃げるのと、一発殴り返してから離脱するのでは、天下に与える印象はまるで違うからな」
自分に言い聞かせるように、ヨスガは続ける。
【 ヨスガ 】
「……我には、成し遂げねばならぬことがある」
【 ヨスガ 】
「この身が汚名にまみれ、この手が血で汚れようと、我は……歩みを止めるわけにはいかぬのだ」
【 ミズキ 】
「死者に報いることができるとすれば……ヨスガさまが本懐を遂げることのみでしょう」
【 ヨスガ 】
「ああ――」
ヨスガは顔を上げる。
その目は赤く腫れていた。
【 ヨスガ 】
「――わかって、いるとも」
その頃……帝都にほど近い山道にて。
無数の巨石、そして、屍が転がっている。
ヨスガらの撤退中、足止めに落石を用いた地であった。
【 野盗 】
「おっ、こいつ、いい鎧着込んでやがるっ。傷もねえし、高く売れそうだっ……!」
【 別の野盗 】
「こっちは潰れちまってるな……まあいい、どんどん積み込め……!」
近隣を縄張りにする野盗たちが、斃れた兵や軍馬の装備を剥ぎ取っている。
【 他の野盗 】
「こいつら、官軍か? 噂じゃあ、天子サマが逃げ出したって話だが……」
【 別の野盗 】
「まあ、どうでもいいさ。こっちにはありがたい話だな……!」
【 野盗 】
「……ん? なんだ、アイツは……」
野盗のひとりが、奇妙な人影を見つけた。
【 頭巾を被った者 】
「…………」
ひときわ大きな落石の前に、頭巾を被った人物がたたずんでいる。
【 野盗 】
「おいっ、てめえっ……獲物を横取りする気かっ?」
頭巾の人影は威圧されても反応することなく、巨石を撫でる。
【 頭巾を被った者 】
「――せっかく、力を授けられながら――無様な――」
【 頭巾を被った者 】
「――ここで終わるのは――いささか、惜しいというもの――」
【 頭巾を被った者 】
「――この〈無明天師〉の名において――はかなき徒花、咲かすがよい――」
ピシッ……ピシィッ……!
【 野盗たち 】
『なっ……!?』
見る間に、巨石にヒビが入っていく。
野盗たちがあっけに取られるうちに、
――バキャアッ!
轟音とともに岩が砕け、破片が撒き散らされた。
【 野盗たち 】
『ぎゃあああッ!?』
破片に胴を貫かれたり、頭蓋を砕かれたりして、野盗たちはことごとく即死する。
【 ???? 】
『……ぐゥ……ウウウゥ……!!』
闇の中に、妖しい光に包まれた影が浮かぶ。
それは、かつて銀・タシギと呼ばれた者の、成れの果てに他ならなかった――
ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!




