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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
397/421

◆◆◆◆ 9-97 鶴風の戦い(46) ◆◆◆◆

 ……ホウ……ホゥホゥ……


 夜の森の中に、聞きなれない鳥の声が響いている。


【 ミズキ 】

「ヨスガさま、お疲れでは?」


【 ヨスガ 】

「……たいしたことはない。それより、報告を聞こう」


 ヨスガとその側近たちは、山中の洞穴ほらあなに身を潜めていた。

 他の将兵は周囲に分散し、敵襲に備えている。


【 密偵 】

「追っ手は、飛鷹騎兵も森羅の軍も、兵を休めているようでさァ」


【 ヨスガ 】

「さもあろう。飛鷹や森羅の軍にとっては、異国の地だ。野戦ならともかく、うかつに山岳戦を仕掛けてはこないようだな」


【 別の密偵 】

「しかし、いくらかの兵は勝手に陣を離れ、山中に潜り込んでいる様子……油断は禁物ですぜ」


【 ヨスガ 】

「ふむ……」


【 ミズキ 】

「これから、どうなさいます?」


【 ヨスガ 】

「このまま山中を進み、宝玲山ほうれいざんを目指す……というのが定石ではあるな。しかし、それは先方も承知の上だろうが」


【 ヨスガ 】

「追っ手の動きが気になる。引き続き、調査を頼む」


【 密偵たち 】

『ははっ……』


 密偵たちが去ったあと……


【 ヨスガ 】

「…………」


【 ミズキ 】

「……ヨスガさま、どうされました?」


【 ヨスガ 】

姥姥ばばさま……いや、エイ姉妹きょうだいのことを、考えていた」


【 ミズキ 】

「……お見事な最期だったとのよし


 つい先ほど、バイシに最後まで付き従っていた者たちが合流し、涙ながらに彼女の最期の様子を伝えた。


【 ヨスガ 】

「……当然だ。あの御仁が、無様な命の捨て方をするはずもないゆえな」


【 ヨスガ 】

「彼女だけではない。多くの者が、我のために傷つき、そしてたおれた」


【 ヨスガ 】

「そもそも、小細工などろうさず、素直に帝都を脱出していれば、もっと犠牲は少なく済んだであろうな」


【 ミズキ 】

「……そうと分かったうえで、選んだ道、なのでしょう?」


【 ヨスガ 】

「その通りだ。しばしの間、天下の権はグンムめの手に帰することになろうが……」


【 ヨスガ 】

「覇者きどりの謀叛人から尻尾を巻いて逃げるのと、一発殴り返してから離脱するのでは、天下に与える印象はまるで違うからな」


 自分に言い聞かせるように、ヨスガは続ける。


【 ヨスガ 】

「……我には、成し遂げねばならぬことがある」


【 ヨスガ 】

「この身が汚名にまみれ、この手が血で汚れようと、我は……歩みを止めるわけにはいかぬのだ」


【 ミズキ 】

「死者に報いることができるとすれば……ヨスガさまが本懐を遂げることのみでしょう」


【 ヨスガ 】

「ああ――」


 ヨスガは顔を上げる。

 その目は赤く腫れていた。


【 ヨスガ 】

「――わかって、いるとも」




 その頃……帝都にほど近い山道にて。

 無数の巨石、そして、屍が転がっている。

 ヨスガらの撤退中、足止めに落石を用いた地であった。


【 野盗 】

「おっ、こいつ、いい鎧着込んでやがるっ。傷もねえし、高く売れそうだっ……!」


【 別の野盗 】

「こっちは潰れちまってるな……まあいい、どんどん積み込め……!」


 近隣を縄張りにする野盗たちが、たおれた兵や軍馬の装備を剥ぎ取っている。


【 他の野盗 】

「こいつら、官軍か? 噂じゃあ、天子サマが逃げ出したって話だが……」


【 別の野盗 】

「まあ、どうでもいいさ。こっちにはありがたい話だな……!」


【 野盗 】

「……ん? なんだ、アイツは……」


 野盗のひとりが、奇妙な人影を見つけた。


【 頭巾を被った者 】

「…………」


 ひときわ大きな落石の前に、頭巾を被った人物がたたずんでいる。


【 野盗 】

「おいっ、てめえっ……獲物を横取りする気かっ?」


 頭巾の人影は威圧されても反応することなく、巨石を撫でる。


【 頭巾を被った者 】

「――せっかく、力を授けられながら――無様な――」


【 頭巾を被った者 】

「――ここで終わるのは――いささか、惜しいというもの――」


【 頭巾を被った者 】

「――この〈無明天師むみょうてんし〉の名において――はかなき徒花あだばな、咲かすがよい――」


 ピシッ……ピシィッ……!


【 野盗たち 】

『なっ……!?』


 見る間に、巨石にヒビが入っていく。

 野盗たちがあっけに取られるうちに、


 ――バキャアッ!


 轟音とともに岩が砕け、破片が撒き散らされた。


【 野盗たち 】

『ぎゃあああッ!?』


 破片に胴を貫かれたり、頭蓋を砕かれたりして、野盗たちはことごとく即死する。


【 ???? 】

『……ぐゥ……ウウウゥ……!!』


 闇の中に、妖しい光に包まれた影が浮かぶ。

 それは、かつてギン・タシギと呼ばれた者の、成れの果てに他ならなかった――

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