◆◆◆◆ 9-90 鶴風の戦い(39) ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「これって……」
【 セイレン 】
「ほう、これは――」
地底に、巨大な空洞が広がっている。
【 ホノカナ 】
「前に行った、〈無限書廊〉みたいな……ううん、あれよりずっと広い……!」
かつてセイレンに連れられて行った不思議な書店は、宮城が入ってしまいそうなほどの大きさだった。
だが、眼前に広がるこの空間は、それどころではない。
【 セイレン 】
「ふぅむ……これは、もしかすると……」
【 ホノカナ 】
「……もしかすると?」
【 セイレン 】
「うっかり、冥府まで来てしまったのかもしれませんねえ!」
【 ホノカナ 】
「ええええ~~っ!?」
実際、セイレンの言葉がいつもの戯言とは思えないほど、この空間は広さが掴めない。
宙の民にとって、冥府……いわゆる死後の世界は地下にあるというのが共通の認識である。
だがさすがに、歩いて行けるほど近い、とは思われていなかったが。
【 ホノカナ 】
「じゃ、じゃあ、わたしたち、死人になっちゃったってことですか……!?」
【 セイレン 】
「う~ん……まだ生きてる気がするので、生きたまま冥府へ迷い込んでしまった……というところかもしれませんね!」
【 ホノカナ 】
「そんな、いけしゃあしゃあと!?」
と、ホノカナが困惑の極みに達していると。
【 ???? 】
「――ちッ、なんだァ? ギャアギャア、うるせェな――」
【 ホノカナ 】
「……ひうっ!?」
突然、凄みのある声が響いて、ホノカナは飛び上がる。
【 ???? 】
「――なんだァ、てめェら? 妖魔の類ってわけじゃあなさそうだが――」
音もなく姿を現したのは、若い男だった。
不機嫌そうな顔で、ホノカナたちを睨みつけている。
【 ホノカナ 】
「あ――あのっ、すみません! わたしたち、まだ生きてるのでっ……地上に返してもらえませんかっ!」
【 若い男 】
「はァ~? 勝手に入ってきておいて、なに言ってやがる。帰りたきゃ、勝手に帰りやがれッ!」
【 ホノカナ 】
「えっ? い、いいんですか? あなた、冥府の門番とかじゃ……」
【 若い男 】
「はァ~~!? 誰が門番だッ! 俺ァ方士の〈丘・ヒミズ〉、人呼んで〈暗庭君〉!」
【 暗庭君 】
「――〈千載竜仙〉さまの、一番弟子だッ!」
【 ホノカナ 】
「…………っ!?」
【 セイレン 】
「ほう、千載竜仙さまのっ……!」
【 ホノカナ 】
「知ってるんですか、セイレンさん!?」
【 セイレン 】
「ええ、もちろん知っていますとも! 名高き三十六奇仙のひとりですからね!」
【 ホノカナ 】
「えっ……? ほ、本当に知ってるんですかっ!?」
【 セイレン 】
「その驚き方、おかしいですよね!? 私をなんだと思ってるんですか!?」
【 ホノカナ 】
「す、すみませんっ……!」
【 セイレン 】
「……ということは、ここはもしや――〈黄泉洞〉ですか?」
【 暗庭君 】
「フン、ちっとはモノを知ってるらしいなァ。……そうだ、この空間すべてが、師父の仙洞なのさ」
*仙洞……神仙の住居の意。
と、どこか自慢げに言う暗庭君。
【 ホノカナ 】
「あの、黄泉洞っていうのは……?」
【 セイレン 】
「宙帝国全土……とはいかずとも、地下に広がる広大な閉鎖空間です。三千年前、帝国の祖たる武烈替天皇帝も、ここで力を蓄えたとか……」
【 ホノカナ 】
「そ、そうなんですねっ……」
いつになく的を射たセイレンの発言に、ホノカナは感心しきりだった。
【 暗庭君 】
「あァ、そうらしいな。俺はたかだか二百年くらいしか修行してないから、伝聞でしか知らねェが」
【 ホノカナ 】
「二百年……!?」
見た目はとてもそんな歳には見えない……が、これまで知り合った神仙関係者を思えば、不思議ではない。
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