◆◆◆◆ 9-89 鶴風の戦い(38) ◆◆◆◆
いつしか太陽は傾き、夕暮れが迫っている。
ドドッ……ドドドッ……!
山道を疾風のごとく駆けるのは、辰・ウツセが率いる一団。
【 飛鷹の兵 】
「辰将軍っ! 前方に、手勢がっ!」
【 ウツセ 】
「やっと追いついたかっ……!」
霙・バイシの奮闘によって、すくなからぬ足止めを食ってしまった。
ここでようやく、再び標的を視界に入れたのだ。
【 タイザン 】
「軽騎兵だけで先行したのは、得策でしたなっ!」
追撃軍のうち、森羅軍を後衛として、屈強かつ足の速い飛鷹馬を駆る騎兵で追ってきたのである。
【 ウツセ 】
「よし、日が落ちる前に片をつけるっ!」
【 タイザン 】
「構わないのですかっ? あの中には、天子がっ……」
【 ウツセ 】
「…………っ」
しばしためらいの色を見せたウツセだったが、
【 ウツセ 】
「――構わん、大逆の汚名は、私が引き受けようっ! 一人残らず、仕留めよっ!」
【 飛鷹の兵たち 】
『おおおおおっ!』
喊声と共に、騎兵たちがさらに騎馬を加速させる――
【 宝玲山の将 】
「――大首領っ! 追っ手が迫ってきますっ! あれは……飛鷹の騎兵かとっ!」
【 ヨスガ 】
「――そうか」
その知らせの意味するところ――つまり、殿軍を務めたバイシの死を察して、ヨスガは目を伏せた。
【 ミズキ 】
「ヨスガさま、今は――」
【 ヨスガ 】
「――ああ、わかっているともっ!」
顔を上げて、命を下す。
【 ヨスガ 】
「者ども、日が落ちるまで凌ぎ切るぞっ! その後は山中に入り、身を隠すっ……!」
【 宝玲山の将兵 】
『ははっ……!』
一方、その頃……
【 ホノカナ 】
「ううっ……もうちょっと明るくできませんっ……!?」
【 セイレン 】
「これ以上は無理ですね! なにしろ、この穴を掘るのにほぼ力を使い果たしたので……」
ホノカナとセイレンの姿は、狭い隧道の中にあった。
セイレンの杖の先端からは、ほのかな光が広がっている。
這って歩かねばならない……というほどではないが、つねに身をかがめる必要がある。
【 ホノカナ 】
「のんびりしてたら、追っ手がきちゃうかもっ……」
【 セイレン 】
「入り口は倒木でふさいでくれたはずっ……あっ、でもそれって、行き止まりだったら戻れないですよねぇ……!?」
【 ホノカナ 】
「ええ……!?」
そう、二人はヨスガに命じられ、セイレンがこしらえた地下道を進んでいるのだった。
【 セイレン 】
「計算上は、宝玲山まで直通のはずです! ……ええ、計算上は!」
【 ホノカナ 】
「ううっ……アテにならないにもほどがあるけどぉっ……でも、姉さまからの指令を果たすためにはっ!」
ヨスガから指令とは、この地下道を通って宝玲山へ向かい、援軍を要請せよ――というものだった。
【 ホノカナ 】
「……っ、急がないとっ……!」
と……ふいに、広い空間に出た。
【 ホノカナ 】
「…………っ? こんなところがあるんですか、セイレンさん?」
【 セイレン 】
「いえ、こんなはずは……う~ん、けっこう広いみたいですねぇ……」
【 ホノカナ 】
「ええっと、松明とか持ってたっけ……」
と、もっと明るくしようとモゾモゾしていると……
――ピカッ!!
【 ホノカナ 】
「……ひゃあっ!?」
【 セイレン 】
「おわぁっ!?」
突然、光がきらめき、二人を惑わした。
ホノカナが背に負っている宝剣〈赫龍輝剣〉が鞘から少し抜けており、その刀身からまばゆい光が放たれている――
【 セイレン 】
「おおっ!? その剣、光るんですね! さすがは伝国の宝剣っ!」
【 ホノカナ 】
「い、いえっ……こんなの、知らないんですけどっ……!?」
やがて、目が慣れてくると……
【 セイレン 】
「! これは――」
【 ホノカナ 】
「…………っ!」
目の前に広がる光景に、二人は息を呑む……
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