◆◆◆◆ 9-88 鶴風の戦い(37) ◆◆◆◆
一方、そのころ……
【 ヨスガ 】
「これは――」
逃避行を続けるヨスガたちだったが、その足を止めざるを得ない事態に直面していた。
【 ホノカナ 】
「ま、まるで、嵐でも来たみたいな……!?」
大量の倒木が、北進する一同の行く手を阻んでいる。
山ひとつ分はあろうかという木が積み重なっており、馬で乗り超えるのはとうてい不可能であった。
【 ミズキ 】
「暴風に薙ぎ倒されたように見えますが……さすがにこれでは、進めそうにありませんね」
――これぞ、かの獰鵬天聖があらかじめ済ませていた妨害工作であったが、ヨスガたちには知る由もない。
【 エキセン 】
「クク……爆破するというのは……?」
【 ヨスガ 】
「いや……さすがに、これだけの量は無理であろう」
【 ミズキ 】
「いかがなさいます? 迂回するほかは……」
【 ヨスガ 】
「そうなれば、かなりの遠回りになる。その間に追いつかれる可能性は否定できぬな。……可能性の話だが」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
敵に追いつかれる――ということはすなわち、殿軍を買って出た霙・バイシが斃れた、というのとほぼ同義である。
考えたくはないことも考えねばならないヨスガの心情を思いやり、ホノカナは胸を痛めた。
【 ヨスガ 】
「……大軍師にして比類なき方術使いどの、なにか手はあるか?」
【 セイレン 】
「ふむ――」
【 セイレン 】
「…………」
【 セイレン 】
「――ありませんね!(キリッ)」
【 ヨスガ 】
「いちいち溜めてからキメ顔で言うことかっ……!」
【 ミズキ 】
「土遁の術でなんとかならないのですか? たとえば、隧道を掘るとか――」
【 セイレン 】
「おおっ! なるほど、その手がありましたね――よろしい、やってみるとしましょうっ!」
【 ホノカナ 】
「どうしてそんなに偉そうに……!?」
【 セイレン 】
「え~っと、たしか、あれがこうで、これをこうして――」
セイレンはなにやら唱えてから、手にした杖を掲げる。
【 セイレン 】
「――ええいっ!」
気合とともに、杖を振り下ろす――
【 一同 】
『…………っ!!』
――スポンッ!
気の抜けた音とともに、ぽっかりと地面に穴が空いた。
【 セイレン 】
「ふうぅっ……いかがですっ?」
【 ヨスガ 】
「……いや、ひと仕事終えたような顔をするでないっ!」
【 ホノカナ 】
「たしかに、穴は空きましたけど……」
【 ミズキ 】
「……人ひとりくらいしか通れなさそうですね」
【 セイレン 】
「そんなね、いきなりね、大きな穴なんて空けられませんよっ! あっ、陛下だけでもここから脱出していただく、というのはいかがですっ?」
【 ヨスガ 】
「むむむ……」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
――この逃走劇においてもっとも重要なのは、ヨスガが生き残り、宝玲山まで逃げ延びることである。
それを最優先とするならば、たしかに一手ではあるが……
【 ヨスガ 】
「……さすがに、この穴に命運をかける気にはなれぬな。そもそも、ちゃんと向こう側につながっているのか?」
【 セイレン 】
「…………さあ?」
【 ホノカナ 】
「さあ!?」
【 ヨスガ 】
「ああ、そんなところであろうな! ふむ、しかし――」
ヨスガの目が、ホノカナに向く。
【 ホノカナ 】
「……えっ?」
【 ヨスガ 】
「――生かす手は、あるようだ」
【 ホノカナ 】
「…………っ」
ホノカナは、猛烈に嫌な予感を覚えた――
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