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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
387/421

◆◆◆◆ 9-87 鶴風の戦い(36) ◆◆◆◆

【 ギョクレン 】

「……はぁっ、はぁっ……ふぅぅっ……」


 力なく落下していく獰鵬天聖どうほうてんせいを見届けつつ、ギョクレンは荒い息をつく。


【 ギョクレン 】

「くっ……してやられたでございますっ……」


 不老不死の神仙と違い、方士は生身の肉体であるから、痛手をこうむれば損傷はまぬがれない。


【 小牛姫しょうぎゅうき 】

「……メへェェェ……」


 霊獣も実体を持つだけに、先ほどの攻撃で目に見えて弱り切っている。


【 ギョクレン 】

「小牛姫っ! 大丈夫でございますかっ……!」


 ジョバジョバ……!


 ありったけの霊薬を取り出して、小牛姫に振りかけるギョクレン。

 貴重な材料でこしらえた回復薬だが、まるで惜しむことなく浴びせかける。


【 小牛姫 】

「ン……ンメェ……ヘェェ~……」


【 ギョクレン 】

「ふう……どうにか平気そうでございますね……」


 生気を取り戻した様子に、ホッと胸を撫で下ろす。


【 ギョクレン 】

「でも、無理は禁物でございます!」


【 小牛姫 】

「メェェェ……」


【 ギョクレン 】

「――“テン”!」


 ギョクレンが印を結んで空中に飛び上がると、雲が湧き起こり、彼の足元にまとわりついた。


【 ギョクレン 】

「先に行くので、後からついてくるでございます!」


【 小牛姫 】

「ンメヘェェェ~……」


 ――ヒュウゥンッ!


 ギョクレンは小牛姫を残し、雲に乗って飛び立つ。


【 ギョクレン 】

「嫌な感じがするのでございますっ……師父おししょうっ!」


 まっしぐらに飛翔しつつ、ギョクレンは師匠たちの身を案じる。




 ――獰鵬天聖どうほうてんせいが、地上へ落ちていく。


【 黒猫 】

「…………っ」


 その肩に乗っていた黒猫も、哀れにもそのまま地面へまっさかさま――

 ……と、思われたが、


【 黒猫 】

「――――っ」


 ふいに黒猫は獰鵬天聖から離れるや、そのまま勢いよく回転して――


 クルクルクル――シュタッ。


 華麗な着地を披露していた。

 しかし、いくら猫が高所からの着地が得意だとはいえ、いくらなんでも生き物離れした身のこなしである。

 一方、いつしか獰鵬天聖の本体は霧のように消え失せていた。


【 黒猫 】

「――やれやれ」


 首を振り、顔を撫でながら、黒猫が人語を口にする。


【 黒猫 】

「いささか、調子に乗りすぎたようだ。あの坊や……やはり只者ではないな」


 そう、この黒猫こそが獰鵬天聖の本体であり、翼の生えた人間の姿は、仮の器に過ぎなかったのである。


【 獰鵬天聖 】

「ま……やるべきことはすませているから、さして問題はないがね」


 獰鵬天聖は、ちょこちょこと呑気に歩きはじめた。

 その視線の先では、暴風雨と奇襲で混乱したグンムの陣がようやく立ち直ろうとしている。


【 獰鵬天聖 】

「さて、あの連中……どうするかな? さんざん、面子めんつを潰されたわけだが……」




 ――グンムの本陣では。


【 ダンテツ 】

レイ将軍――お怪我は?」


【 グンム 】

「問題ない。ダンテツ卿こそ、無事でなによりだ」


【 ダンテツ 】

「……たまたまです。まともにやり合えば、あの御仁を止めるのは容易ではありません」


【 グンム 】

「それより……あの者は?」


【 ダンテツ 】

「ああ、将軍をかばった……例の、間者ですか。すぐに姿を消したようですが……」


【 グンム 】

「ふむ……そうか」


【 ダンテツ 】

「いかがなさいます? さらに追っ手を差し向けますか」


【 グンム 】

「ふむ、ここまで虚仮こけにされた以上、ただではすまさん――と、言いたいところだが」


【 グンム 】

「それは、グンロウたちに任せるとしよう。我らには、なすべきことがあるのだからな」


【 ダンテツ 】

「では……帝都に?」


【 グンム 】

「うむ。もはや邪魔立てする輩もおるまい」


 グンムは将兵に向き直ると、威儀を正して声をあげる。


【 グンム 】

「――皆、聞くがいい! 賊どもの悪あがきは終わった! 我らはこれより、皇弟トウマ殿下を奉じて〈万寿世春ばんじゅせいしゅん〉に入城し、新たなる秩序を築く!!」


【 官軍の将兵 】

『おおおおっ……!!』


 グンムの宣言に、割れんばかりの喚声かんせいが響き渡った――

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