表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
381/421

◆◆◆◆ 9-81 鶴風の戦い(30) ◆◆◆◆

【 ヨスガ 】

「――わかった。帝都に来てもらうのは、やめておこう」


 先ほどの剣幕はどこへやら、あっさりとヨスガは折れた。


【 ヨスガ 】

「その代わり――今のままで、我を助けてほしい」


【 バイシ 】

「ほほう……ここを根城に、外部からあんたを援護しろってことかい?」


【 ヨスガ 】

「そういうことだ。いざというときには、緊急の避難先ともなるしな。必要とあらば資金も回すゆえ、申し出てもらいたい」


【 バイシ 】

「ふむ……」


【 ヨスガ 】

「どだい、狼を猟犬にしようとしても、うまくはいかぬ道理……それなら、狼は狼のままで、役に立ってもらうまでだ」


【 バイシ 】

「……その言い分だと、最初からそのつもりだったみたいだねえ? あたしが誘いには乗らないと、わかってたのかい?」


【 ヨスガ 】

「――あなたのことは、母上からいろいろとうかがっていた。少しは、人となりを承知しているつもりだ」


【 バイシ 】

「ほう……レイセイは、なんと?」


【 ヨスガ 】

「誰よりも強く、誇り高く――そしてなにより、決して弱者を見捨てられぬ御方だ、と」


【 バイシ 】

「……そうかい」


【 ヨスガ 】

「我を……助けてくれような?」


【 バイシ 】

「ふん――まあ、仕方ない。非力で可愛らしい孫殿の頼みとあっちゃあ、断れやしないさ」


【 ヨスガ 】

「――ありがたき幸せ。どうか、よろしくお願いいたします、姥姥ばばさま


 うやうやしく、年長者に対する礼をしてみせるヨスガ。

 その変わり身の早さに、バイシは顔をしかめる。


【 バイシ 】

「やれやれ、なんとも可愛げのない子だねえ! レイセイとはまるで似ても似つかないよ」


【 ミズキ 】

「それは仕方ありません。なにしろ姉さまは、あまりにも可憐で、あまりにも完璧で、あまりにもお優しい方でした。姉さまとヨスガさまと比べるのは、あまりにもお気の毒というものです」


【 ヨスガ 】

「おいっ……! いや確かに、母上は素晴らしい御方ではあったが! あったがなっ!」


【 バイシ 】

「…………」


 眉を吊り上げた気難しそうな表情は、レイセイよりも、彼女の父……すなわち、バイシの亡夫を髣髴ほうふつとさせるものがあった。


【 バイシ 】

(……もう一仕事、してみるとするかね)


 かくして、バイシは。

 新たな、生きる目的を見出したのである。




 ――あれから、三年後。


【 バイシ 】

「……ぐっ……ぬっ……!」


 プシュウウッ……!


 バイシの首から、勢いよく鮮血が噴き出している。


【 無頼漢たち 】

『ふ、副頭目っ……!?』


【 アシアンディーカ 】

「し……仕留め……たっ……! ……がはっ!」


 ドサッ……!


 今度こそ力尽き果てたアシアンディーカが、鞍上から転がり落ちる。


【 バイシ 】

「ふん……見誤った、ようだねえ……てっきり、ただの意地っ張りだと、思った、がっ……」


【 バイシ 】

「ごふっ……! 人の手を、借りることもっ……いとわない、とは……ねっ……」


 バイシの視線の先には、弓を構えた飛鷹ひようの戦士の姿がある。

 彼の放った矢が、アシアンディーカが刺した剣を押し込み、あと一歩足りなかった心の臓を突かせたのだ。


【 アシアンディーカ 】

「……貴様、を……討つ、には……これしか、なかったっ……」


 アシアンディーカは、土壇場どたんばでアグラニカに念を送り、


 ――心臓に刺した剣を、射てほしい。


 と、伝えていたのである。


【 アシアンディーカ 】

「卑怯……と、そしるならばっ……謗るがいいっ……甘んじて、受けようっ……!」


【 バイシ 】

「いいや……卑怯などとは……言わない、さ……」


【 バイシ 】

「あんたの、覚悟の深さを、見誤った……あたしの、負け、だっ……」


【 無頼漢たち 】

『ふ、副頭目っ……!』


【 バイシ 】

「――ここまで、だ。あんたたちは……さっさと、ずらかりな」


【 無頼漢たち 】

『……しかし……っ!』


【 バイシ 】

「あの子を……あの子たちを、助けて、やっておくれ」


【 バイシ 】

「……それが、あたしの……最後の、望みだ」


【 無頼漢たち 】

『……うっ……うううっ……!』


 男たちはバイシに一礼し、そのまま駆け出していった。


【 バイシ 】

「…………」


 その姿を、見届けて。


【 バイシ 】

「……あんた……なんと、言った……かな……?」


【 アシアンディーカ 】

「……アグラニカ陛下に、仕える勇士っ……繚乱りょうらんたる、アシアンディーカ……!」


【 バイシ 】

「アシアンディーカ……いい、勝負だったよ。冥府あのよに行っても、忘れはすまい――」


 この娘はきっと、ヨスガたちの難敵となるのだろう……

 だが、それもまた、人生の醍醐味だいごみかもしれぬ。

 敵のいない人生などあろうはずもない――

 ならば願わくば、良き敵と巡り合いたいものだ。


【 バイシ 】

(――ああ)


 良き敵と出会えて、思いを託すべき者たちがいて。


【 バイシ 】

(長生きも、悪くは、なかったねえ――)


 ――閉じた瞼に映るのは、本に囲まれた、神経質そうな優男の姿。

 どこかヨスガに似たその男は、やっと来たのか――と言いたげな仏頂面を、バイシに向ける。


【 バイシ 】

(――ずいぶん、待たせちまったねえ)


 とうに死別した良人おっとの面影を思い浮かべたまま……

 エイ・バイシの意識は、闇に沈んでいった。


 夜叉凍将やしゃとうしょう、また白銀夜叉しろがねやしゃと恐れられた稀代の荒武者、ここにたおれる――

 その死に顔は、しかし、とても安らかなものであった。

ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ