◆◆◆◆ 9-79 鶴風の戦い(28) ◆◆◆◆
――〈繚乱たるアシアンディーカ〉は、本来ならば、とうにこの世の者ではなかった。
数年前、森羅の国は内乱状態に陥った。
このとき、彼女が属する〈天〉の一族は最大勢力を誇っていた。
アシアンディーカは一族の中でも高貴な生まれであり、次期女王候補とすら目されていたのである。
……だが、最終的に内乱を勝ち残り、森羅の覇権を握ったのは、現女王・〈嫋やかなるアグラニカ〉が率いる〈火〉の一族であった。
母や姉たちはことごとく戦場に斃れ、生き残ったアシアンディーカもまた、囚われの身となった。
彼女はまだ幼かったが、叛逆者の子として首を斬られるさだめであった。
しかし……
【 アグラニカ 】
『――この娘に、なんの咎がありましょう? わらわが責任をもって、彼女を導きましょう――』
戦後処理において、アグラニカによって助命されたのである。
そればかりか、女王はアシアンディーカを罪人ではなく、妹分として身近に置いたのだ。
これは政治的な判断――天の一族がなお無視できないほど大きな影響力を持っていること――もあったが、アグラニカの温情にほかならない。
もっとも、アシアンディーカがそれを素直に受け止めたかといえば、そうではない。
【 アシアンディーカ 】
『幼いからとて、情けをかけ、生き恥をさらさせるとは……!』
と、当初は女王に反発していた。
しかしあるとき、森羅全土を流行り病が襲った際、心身を削って人々を癒すアグラニカの姿を見て、心服し……命を捧げるに相応しい相手とすら思うようになったのである。
そして、今――
【 アシアンディーカ 】
「本来、なかった命を……姉者人に、拾っていただいたっ!」
【 アシアンディーカ 】
「ならばっ……その恩に報いるのが――やつがれのっ……さだめっ!」
【 バイシ 】
「ぬうっ……この、気迫っ……!」
――ガキィンッ! ギィィンッ!
文字通り命を削る猛攻を見せるアシアンディーカ……しかし、それでもなお、その太刀はバイシには届かない。
【 アシアンディーカ 】
「……はーっ……ハァ、ハァアッ……!」
限界を超えて酷使された肉体は悲鳴を上げ、あちこちから血がしたたり、痙攣が起きている。
【 アシアンディーカ 】
「もはや……ここまで、かっ……ならばっ!」
【 アシアンディーカ 】
「せめて、貴様もろともっ……地の底に、引きずり込んでくれるっ……!」
最期の突進を繰り出さんと、左右の剣を掲げ、身構える。
【 バイシ 】
「――哀れな、お嬢ちゃんだ。ならばせめて――」
【 バイシ 】
「一太刀で、終わらせようじゃないか……!」
バイシもまた、これに応じて大剣を構える。
【 アグラニカ 】
「…………っ」
【 ???? 】
『姉者――人――』
妹分の奮戦を見守るアグラニカの頭の中に、直接声が響く。
【 アグラニカ 】
「……っ! アシアン……!?」
アシアンディーカが、とぎれとぎれな念を送ってきたのだ。
【 アグラニカ 】
『アシアン……もう十分です! あなたの誇りは、十分に示せました……!』
念を返すアグラニカだったが、アシアンディーカはそれには答えず……
【 アシアンディーカ 】
『お願い――が――あります――』
【 アグラニカ 】
『…………っ?』
【 アシアンディーカ 】
「受けられるものなら、受けてみよっ……やつがれの、最後にして、最大の、一撃……!」
目に見えるほどの闘気が、アシアンディーカの肉体から噴き上がる……!
【 バイシ 】
「いいさ……かかってきなっ!」
バイシもまた、残った力を振り絞り、アシアンディーカが放つであろう渾身の一撃を受け止めるべく、気合をみなぎらせる。
【 バイシ 】
(……己の誇りのために、命を燃やし尽くす、か。それもよかろうさ)
【 バイシ 】
(だったら、その誇り、貫いてみせな……!)
【 アシアンディーカ 】
「うっ……おっ、おおおおおっ……!」
――ドォンッ!
捨て身の突撃で、一気に間合いを詰める……!
【 アシアンディーカ 】
「もらったっ……!」
【 バイシ 】
「やらせる……かっ!」
――ドシュウッ!
【 バイシ 】
「ぬっ……ぐっ!」
アシアンディーカ渾身の一撃が、鎧をも貫き、バイシの心臓に突き立つ――
しかし、
【 バイシ 】
「狙いは――」
【 アシアンディーカ 】
「…………っ!」
【 バイシ 】
「――良かった、ねえっ……!」
内丹で硬質化した筋肉に、半ばで食い止められる……!
【 バイシ 】
「これまでだっ……お嬢ちゃんっ!」
そのまま、バイシの斬撃がアシアンディーカを両断する――
と、見えた、そのとき。
――――ドスッ!!
【 バイシ 】
「……ぐッ……!?」
バイシの心臓に刺さった剣の柄に、矢が突き立っていた。
ギリギリで食い止めていた切っ先が、心臓にズブリと食い込む……!
さしものバイシも動きが停まったところへ、
【 アシアンディーカ 】
「……うっ……ああああああぁっ!」
シュバァッ!
もう一振りの剣の切っ先が、バイシの首を抉る!
【 バイシ 】
「――――ッ」
――ブシュウウウウッ!!
大量の血が、噴水のごとくほとばしった――
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