◆◆◆◆ 9-78 鶴風の戦い(27) ◆◆◆◆
【 アシアンディーカ 】
「…………ッ!」
――ドシャアッ!
【 無頼漢たち 】
『や、やったっ……!』
血しぶきとともにアシアンディーカが落馬したのを見て、バイシの背後から歓声があがる。
【 バイシ 】
「ふん……奥の手があるだろうとは、思ったがね……」
バイシの額からは、血が流れている。
とっさに内丹で頭部を硬質化させ、頭突きで剣を砕いたわけだが……さすがに、無傷とはいかない。
とはいえ、これにてもはや勝負あり――と思われたが、
【 バイシ 】
「――――っ」
【 アシアンディーカ 】
「……ぐっ、うっ、ううっ……!」
落馬したアシアンディーカは、かろうじて自分の足で立ち上がる。
【 無頼漢 】
「なっ……!?」
【 無頼漢 】
「あ、あの小娘っ……不死身かよっ?!」
バイシの凄まじい一閃を喰らいながらも、その傷は骨や内臓までには達していなかった。
【 バイシ 】
「ほう……手ごたえはあったが……?」
【 アシアンディーカ 】
「……っ、はぁっ、はぁあっ……間一髪……だったっ……!」
気づけば、アシアンディーカの全身を覆っていた刺青が、目に見えてその数を減らしていた。
【 バイシ 】
「なるほど、森羅の呪術のタネはその刺青にこもってるとか……ありったけで防いだってわけだ」
とっさに大量の呪力を解放し、防御に回したおかげで、かろうじて致命傷はまぬがれたのである。
しかし、それでも深手には違いなく、そのうえ、頼みの刺青ももはやほとんどないとあっては……
【 バイシ 】
「そろそろ、打つ手なしじゃあないのかい?」
【 アシアンディーカ 】
「な、なんのっ……! まだ、やつがれはっ……やれるっ……!」
……フワッ……
残った力を振り絞り、飛び散った刃の破片を浮き上がらせるアシアンディーカ。
【 バイシ 】
「まだやる気かい――結構! だが、それっぽっちじゃあ、かすり傷だってつけられまい?」
【 アシアンディーカ 】
「言われずともっ……もとより、貴様を傷つけるためではない……!」
【 バイシ 】
「なに――?」
【 アシアンディーカ 】
「――――やれっ!」
ザシュッ! ブシュウッ!
【 バイシ 】
「…………っ!?」
【 アシアンディーカ 】
「んぐっ……ぐうううっ!」
破片たちが切り刻んだのは、他ならぬアシアンディーカの肌であった。
【 無頼漢 】
「!? な、なにやってるんだっ!?」
【 無頼漢たち 】
「イカレちまったかっ……!?」
突然の自傷行為に戸惑う一同……しかし、
【 バイシ 】
「……っ! これは――」
【 アシアンディーカ 】
「ぐっ……うっ……! はぁっ、はぁあっ……」
アシアンディーカの肌に刻まれたのは、ただの切り傷ではなく――
【 バイシ 】
(なんだ……文字? 記号かっ……?)
【 アシアンディーカ 】
「――我らが母なる天、母なる大地よ……やつがれに……力をっ……!」
ポワアアア……!
アシアンディーカの祈りに応じ、皮膚に記された文字や記号が妖しげな光を放ち、彼女の全身を包み込んでいく。
【 アシアンディーカ 】
「おお――異郷の地なれども、我が血、我が肉に、偉大なる母たちの力が……みなぎってゆく……!」
先ほどまで息も絶え絶えだったアシアンディーカに生気が満ち、その目に闘志が燃え上がる。
【 アシアンディーカ 】
「――ゆくぞッ!」
馬の鞍から予備の双剣をとり、バイシへとまっしぐらに斬りつける――
【 アシアンディーカ 】
「はあああっ!」
【 バイシ 】
「――――っ!」
――ガキイィンッ! ギイィンッ!
【 バイシ 】
「――くうっ!? こ、この、重さはっ……!?」
強烈なる左右の打ち込みで、バイシをたじろがせる……!
【 アシアンディーカ 】
「先ほどまでと同じと思うな……! 今のやつがれは、母なる神々と一体になったも同然!」
【 アシアンディーカ 】
「勝負は……これからだッ!」
【 アグラニカ 】
「……っ、アシアン……そこまでしてっ……」
【 ウツセ 】
「あれは……どういうことです?」
【 アグラニカ 】
「己の身に、直接、呪文を刻み込んだのです。ああすることで、神々の加護を得て、肉体を格段に強化できます――が」
【 アグラニカ 】
「……あれでは、長くはもちません。やがて肉が裂け、骨が砕け、臓が破れてしまうっ……!」
【 ウツセ 】
「…………っ」
【 アシアンディーカ 】
「森羅の戦士に受け継がれし力っ……思い知るがいいっ!」
キィンッ! ガキッ! キイィンッ!
【 バイシ 】
「ぬうっ……速いっ! しかもっ、この、打撃の重さは……!」
軽量のアシアンディーカからはありえないほどの重い斬撃に、バイシも受け流すの精一杯というありさま。
【 無頼漢 】
「副頭目が押されてるだとっ……!?」
【 無頼漢 】
「な、なんだ、あのデタラメな強さは……!?」
速度……重さ……ともにバイシに劣らぬ斬撃を繰り出し続けるアシアンディーカ。
しかし、その代償は明らかであり――
――ブシュウッ!
【 アシアンディーカ 】
「んぐっ……! な、なんのっ……この程度でっ!」
肉が裂け、鮮血が飛び、骨がきしむ……
【 バイシ 】
「なぜそこまで――生き急ぐっ!」
【 アシアンディーカ 】
「やっ……やつがれにはっ……これより他に、道は……ないっ!」
【 アシアンディーカ 】
「そう……この命はっ……姉者人に、拾っていただいたものなのだからっ……!」
繚乱たるアシアンディーカの刃が、さらに加速して、バイシを襲う――
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