◆◆◆◆ 9-74 鶴風の戦い(23) ◆◆◆◆
【 ウツセ 】
「ドリュウ殿は、無事かっ?」
追撃軍を率いる辰・ウツセは、報告を聞いて憂いの色を浮かべていた。
【 飛鷹の兵 】
「はっ、幸い命には別条がない様子……それにしてもあの武者、とんでもない手練れにて……!」
【 ウツセ 】
「むう……ドリュウ殿を寄せ付けぬとは、只者ではないな」
【 タイザン 】
「おそらくですが――〈白銀夜叉〉と呼ばれる女賊でしょうな」
そう告げながらやってきたのは、飛鷹の勇士〈三羽のタイザン〉。
【 ウツセ 】
「おお、タイザン殿! ドリュウ殿を救われたそうで……」
【 タイザン 】
「なに、神弓姫殿には及びもつきませんが……お役に立ててなによりです」
【 ウツセ 】
「白銀夜叉といえば、十数年に渡って官軍と争っている賊と聞きますが……そのような者が、敵方に?」
【 タイザン 】
「他に、あれほどの武勇を持つ媼がいるとは思えませんな。森羅にも珍しいのでは?」
*媼……老女の意。
【 アグラニカ 】
「ええ……敵ながらあっぱれですね!」
森羅の女王・アグラニカも感嘆している。
【 ウツセ 】
(……と、感心している場合ではないな)
見事な相手といえど、戦場において立ちはだかる者は、ことごとく討たねばならぬ。
それは古今東西、あらゆる戦いにおけるさだめであった。
【 タイザン 】
「一斉射撃で射殺す、というのが無難なところですが……」
【 ウツセ 】
「……それがかなわぬゆえの現状ですからね」
同時に放たれた無数の矢を、かの女武者はことごとく切り払い、かすり傷すら負うことはなかった。
ゆえに白兵戦を挑んだのだが……その結果が、先ほどの有り様である。
【 ウツセ 】
(グズグズしていては、獲物を取り逃がすことになる……)
そのこと自体はどうでもいいが、岳南や森羅の武名が貶められるのは耐えがたいことである。
【 アグラニカ 】
「使います? 使っちゃいますか、呪術?」
【 ウツセ 】
「それは……ありがたいのですが、最後の手段としましょう」
【 アグラニカ 】
「そうですか……」
ちょっとシュンとしている。
【 タイザン 】
「ならば……どうします?」
【 ウツセ 】
「…………」
迂回しようとすれば、大幅に時間がかかる。
犠牲をいとわず、大勢で押し切るか……
あるいは、策を用いるか。
と、ウツセが思案していると、
【 ???? 】
「――姉者人! やつがれにお任せくださいっ!」
*姉者人……姉を敬って呼ぶ言い方。
*やつがれ……一人称の一種。へりくだった名乗り方。
【 アグラニカ 】
「――――!」
アグラニカの前に進み出てきて一礼したのは、ひとりの森羅の女兵であった。
歳のころは十二、三ほど、周りの兵に比べるとかなり年少。
他の戦士同様、全身に刺青が刻まれている。
【 年少の森羅兵 】
「かの大女の退治、どうかこのアシアンディーカにお命じくださいませ!」
【 アグラニカ 】
「それは――確かに、貴方なら格好の相手ではありましょうが……」
【 ウツセ 】
「陛下、こちらは?」
【 アグラニカ 】
「はい、この者は〈繚乱たるアシアンディーカ〉、私の妹分というところです」
【 アシアンディーカ 】
「――――っ」
【 ウツセ 】
「…………っ」
チラリとウツセに向けられた視線は、やけに険しい。
【 ウツセ 】
(……なにか、気に障ることをしたのだろうか?)
これといって心当たりはないが……
【 アシアンディーカ 】
「姉者人、このやつがれにお命じいただけば、必ずや!」
【 アグラニカ 】
「ですが、それは……」
言葉を濁すアグラニカ。
無理もない、とウツセは思った。
【 ウツセ 】
(もとより、腕は立つのだろうが……)
とはいえしかし、さすがに体格が違いすぎる。
あの武者が大剣で素振りしただけで、かるがると吹き飛ばされてしまいそうだ。
【 アシアンディーカ 】
「もし不覚を取れば、その場でこの首、掻っ切る所存……! どうかっ……どうかっ!」
【 アグラニカ 】
「しかし……」
チラチラと、アグラニカがウツセに目を向ける。
【 ウツセ 】
「――アシアンディーカ殿、だったか? 決して貴公の腕を疑うわけではないが、あの難敵はいささか……」
【 アシアンディーカ 】
「そなたとは話しておらぬわっ! 余計な差し出口を叩くでないっ!」
【 ウツセ 】
「…………っ」
【 アグラニカ 】
「アシアン! 無礼でありましょう……!」
【 アシアンディーカ 】
「翠公ならいざ知らず、その配下ふぜいに偉そうな口をきかれる筋合いはございませぬ!」
【 アグラニカ 】
「それ以上の暴言は許しませぬ。お下がりなさい――」
【 アシアンディーカ 】
「…………っ」
アシアンディーカは再びウツセに刺すような視線を浴びせたのち、アグラニカに一礼して下がっていったのだった……
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