◆◆◆◆ 9-66 鶴風の戦い(15) ◆◆◆◆
撤退を開始したヨスガたちを追撃する騎馬隊、その先頭に立つのは――
【 ドリュウ 】
「うおおおっ! 者ども、続けっ! 続けぇいっ!」
【 飛鷹の将兵 】
『おおおおおおっ!』
ドドッ……ドドドッ……!
【 ドリュウ 】
「飛鷹の力、天下に見せつけてくれようっ!」
長矛を手に、金色の髭をたなびかせて吼え猛りながら大柄な馬を駆るのは、〈金髭龍〉の異名を持つ〈翠・ドリュウ〉。
南方の騎馬民族・飛鷹の騎兵を率いて、殺気を剥き出しにして敵を追いかけている。
【 ウツセ 】
「ドリュウ殿……逸っているな」
やや後方にあってそう呟くのは、〈南寇王〉たる〈翠・ヤクモ〉の右腕、〈辰康寧〉こと〈辰・ウツセ〉。
ヨスガらを追うべくグンムの陣を発ったのは、彼が主軸となる一軍であった。
【 ウツセ 】
(『帝都から逃亡する者たちを討たれよ』――か)
嶺・グンムから告げられた言葉が、頭によぎる。
【 ウツセ 】
(これまで、さしたる出番もなかったゆえ、それはいいとして……)
先ほどの爆発で、天子ヨスガは斃れたのだろうか?
【 ウツセ 】
(それならよいが、もしも、あの一団に混じっているのであれば……面倒なことになるな)
このまま追いかけた末、かの手勢を撃破すれば……
【 ウツセ 】
(……天子を、手にかける可能性がある)
もしやグンムは、天子殺しの罪をこちらに押しつけるつもりでは? という疑いもあった。
【 ウツセ 】
(任務とあらば、ためらうことではないが……)
宙帝国には属さない飛鷹の民にとっては、天子を殺めるという行為に対する禁忌の感覚は皆無に近いであろう。
ウツセも、辺境暮らしが長いこともあって、天子や朝廷への尊崇の念はずいぶん薄れているが……
【 ウツセ 】
(……とはいえ、天子は天子だ)
すでに廃された後ならまだしも、いまだ焔・ヨスガは皇帝の地位にある。
宙の長い歴史の上では、天子が殺害された例は少なくないが、その手を血に染めた弑逆者の末路は、ほとんどが悲惨なものである。
【 ウツセ 】
(私が汚名を着ても、どうということはないが……)
ヤクモの名を辱めるのは、堪えがたい。
さらには、のちになって、弑逆の罪を問う――などと称して討伐の口実にされてはたまらない。
【 ウツセ 】
(生け捕りにできれば、問題はないが……)
【 ドリュウ 】
「うおおおっ! 殺せっ! 皆殺し、皆殺しだっ!」
【 飛鷹の将兵 】
『ううおおおおおおっ!』
【 ウツセ 】
(……そう簡単には、いきそうにもないな)
ウツセが苦慮していると、
【 アグラニカ 】
「――ウツセ殿! 私の術で援護しましょうかっ?」
駒を並べてそう問うてきたのは、東方の異国・森羅の女王たる〈嫋やかなるアグラニカ〉。
彼女もまた、森羅の兵とともに追撃に加わっていた。
【 ウツセ 】
「それは……ありがたいのですが、今は、まだ」
【 アグラニカ 】
「……そうですね、私もなにか、嫌な予感がします。まだ動くべきではないかも」
【 ウツセ 】
「それは……敵方の方士が出てくると?」
【 アグラニカ 】
「さあ……でも、油断はできませんね」
【 ウツセ 】
「…………っ」
女王の霊感が外れてくれればよいが……と祈りつつ、そうはなりそうにもない、と腹をくくるウツセだった。
【 宝玲山の将 】
「――早いっ! ぐんぐん追いついてきますっ!」
【 ヨスガ 】
「ちっ……噂の飛鷹馬というやらかっ!」
【 バイシ 】
「…………」
そのとき、ふいに、バイシが速度を緩めた。
【 ミズキ 】
「阿姨っ……?」
【 バイシ 】
「――お頭、あんたたちは先に行きなっ!」
【 ヨスガ 】
「……っ! それは――」
【 バイシ 】
「ふふん、安心しな、尊い犠牲になんてなる気はないさっ! そのうち、ランブたちも追いついてくるだろうしね……!」
【 バイシ 】
「だから、今はとっとと逃げな! あんたには、なにがなんでも生き残ってもらわないとねっ!」
【 ヨスガ 】
「……っ、やすやすと命を捨てるでないぞっ、姉妹っ!」
【 バイシ 】
「ああ、わかってるとも。さあ、行った行ったっ!」
【 宝玲山の将 】
「姐さん、俺たちも……!」
【 バイシ 】
「ふん、足手まといのこわっぱはいらないよっ。しっかりお頭を守ってみせなっ!」
【 宝玲山の将 】
「…………っ」
【 ミズキ 】
「どうか――ご武運をっ!」
【 バイシ 】
「あんたたちこそ、無駄死にするんじゃあないよ――じゃあね!」
【 ヨスガ 】
「――――っ」
ヨスガはなにか言いたげにしていたが、グッと唇を噛んで前を向き、そのまま駆け去っていく。
【 バイシ 】
「…………」
その小柄な背中を、見送りながら……
【 バイシ 】
「……さてと。ひと暴れ、してやるかねえ!」
霙・バイシは大剣を握り直し、不敵な笑みを浮かべた――
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