◆◆◆◆ 9-62 鶴風の戦い(11) ◆◆◆◆
【 ダンテツ 】
「なんだっ……あの強さはっ!?」
いくら統制を失っているとはいえ、十倍以上の兵をやすやすと蹴散らす騎馬隊の力に、ダンテツは舌を巻く。
【 グンム 】
「〈夜叉凍将〉――か。もういい歳のはずだが、まだまだ衰えてはいないようだ」
【 ダンテツ 】
「夜叉凍将……あの、霙将軍ですかっ? 生きていたとはっ……」
【 グンム 】
「…………」
【 グンム 】
(ここまでは、あの忍びの言っていたとおりだな)
その頃、下軍(後方の軍)の陣にあっては……
【 シンセ 】
「――では、嶺将軍は、すべてをご存じだと……!?」
【 シュレイ 】
「うむ。内通者からの情報によって、な」
驚くシンセに、シュレイは頷いてみせる。
先日、グンムの陣に現れた忍びの者、颯・シラクサ……
帝室に仕える彼によって、皇帝ヨスガの計画が伝えられていたのだ。
謹慎中のシュレイにはその詳細は知らされていないが、独自の情報網により、あらかたの内容は掴んでいた。
【 シュレイ 】
「まず、鶴風城や凍公堰にある程度の兵を割かせる。さらに、天子みずからは自爆してみせ、その虚を突いて新参者の賊兵を煽動して帝都へ向かわせるわけだ」
【 シンセ 】
「なぜ、賊兵たちの馬は暴れずに済んだのでしょう……?」
【 シュレイ 】
「賊兵どもの中に、天子の息がかかった者が混じっている。その者たちの手で、馬に耳栓をしておいたのだろうさ」
【 シュレイ 】
「まんまと飛び出してきた連中を、精鋭でもって一撃する――その上で、帝都から逃亡を図る……というのが、かの天子の策であろう」
【 シュレイ 】
「同じ逃げるにしても、ただ尻尾を巻いて逃げるのと、反撃の気概を見せるのとでは、まるで印象が違うからな」
ただの逃走であれば、天子ヨスガは哀れな逃亡者にすぎない。
だが、グンムに一杯食わせたとなれば、
――やはり、ただ者ではない。
と、各地の勢力に知らしめることができよう。
【 シュレイ 】
「そうと知った上で……あえて、嶺将軍はあちらの手に乗るつもりかもしれぬ」
【 シンセ 】
「あえて、あちらに一本取らせると……?」
【 シュレイ 】
「ありうることだ。嶺将軍は中庸を好むゆえ、あまりに勝ち過ぎることは望まぬところがある」
【 シュレイ 】
「勝ち過ぎれば、軍の慢心にもつながるからな。それに、うら若い天子を追い詰めて悪名を得るくらいなら、いっそ逃がした方がよい……と考える御仁だ」
【 シンセ 】
「しかし、それでは将来に禍根を残すことになるのでは……?」
【 シュレイ 】
「それは否定できぬが、悪いこととも言い切れんな。対立する存在がいれば、むしろ、己の価値を高めることにもつながる……将軍なら、そう考えるだろう」
【 シュレイ 】
「……と、そこまで嶺将軍の思考を読んだ上で、かの天子は今回の仕掛けを企んだのかもしれぬ」
【 シンセ 】
「では、忍びの者の内通も、偽装ですか?」
【 シュレイ 】
「その可能性は高い。双方にとって利があるなら、嶺将軍はあえて乗ってくる……と踏んだのだろう。そして、その見立ては決して間違ってはいない」
【 シュレイ 】
「しかし……」
【 シンセ 】
「……しかし?」
【 シュレイ 】
「それは、普段の嶺将軍ならば――と、いう話だ」
【 グンム 】
「さて……そろそろ頃合いだな。タシギ卿――」
……ズズズッ……
【 タシギ 】
「…………」
グンムの影から無言で現れたのは、〈血風翼将〉こと銀・タシギ。
その片目は眼帯で覆われ、鼻から下は覆面で隠されている。
【 ダンテツ 】
「…………!」
突然姿を見せたタシギの変わり果てた姿に、ダンテツは絶句する。
【 グンム 】
「部隊の支度は整っているな?」
【 タシギ 】
「――無論」
【 グンム 】
「ならばよし。……これより、天子が逃亡を図るはずだ。ひとりも逃さず、殲滅せよ。よいな、ひとりも、だ」
【 タシギ 】
「――――承知」
乾いた声で応じ、タシギはふたたび影に潜っていった。
【 グンム 】
「…………」
【 ダンテツ 】
「――将軍っ! もしや貴方は、陛下をっ……」
【 グンム 】
「今は何も言うな、ダンテツ卿。陣を立て直すぞ」
【 ダンテツ 】
「…………っ」
淡々と告げるグンムの、これまで見たことのない冷え切った表情に、ダンテツは言葉を失った――
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