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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
362/421

◆◆◆◆ 9-62 鶴風の戦い(11) ◆◆◆◆

【 ダンテツ 】

「なんだっ……あの強さはっ!?」


 いくら統制を失っているとはいえ、十倍以上の兵をやすやすと蹴散らす騎馬隊の力に、ダンテツは舌を巻く。


【 グンム 】

「〈夜叉凍将やしゃとうしょう〉――か。もういい歳のはずだが、まだまだ衰えてはいないようだ」


【 ダンテツ 】

「夜叉凍将……あの、エイ将軍ですかっ? 生きていたとはっ……」


【 グンム 】

「…………」


【 グンム 】

(ここまでは、あの忍びの言っていたとおりだな)




 その頃、下軍(後方の軍)の陣にあっては……


【 シンセ 】

「――では、レイ将軍は、すべてをご存じだと……!?」


【 シュレイ 】

「うむ。内通者からの情報によって、な」


 驚くシンセに、シュレイは頷いてみせる。

 先日、グンムの陣に現れた忍びの者、サツ・シラクサ……

 帝室に仕える彼によって、皇帝ヨスガの計画が伝えられていたのだ。

 謹慎中のシュレイにはその詳細は知らされていないが、独自の情報網により、あらかたの内容は掴んでいた。


【 シュレイ 】

「まず、鶴風城や凍公堰にある程度の兵を割かせる。さらに、天子みずからは自爆してみせ、その虚を突いて新参者の賊兵を煽動して帝都へ向かわせるわけだ」


【 シンセ 】

「なぜ、賊兵たちの馬は暴れずに済んだのでしょう……?」


【 シュレイ 】

「賊兵どもの中に、天子の息がかかった者が混じっている。その者たちの手で、馬に耳栓をしておいたのだろうさ」


【 シュレイ 】

「まんまと飛び出してきた連中を、精鋭でもって一撃する――その上で、帝都から逃亡を図る……というのが、かの天子の策であろう」


【 シュレイ 】

「同じ逃げるにしても、ただ尻尾を巻いて逃げるのと、反撃の気概を見せるのとでは、まるで印象が違うからな」


 ただの逃走であれば、天子ヨスガは哀れな逃亡者にすぎない。

 だが、グンムに一杯食わせたとなれば、


 ――やはり、ただ者ではない。


 と、各地の勢力に知らしめることができよう。


【 シュレイ 】

「そうと知った上で……あえて、レイ将軍はあちらの手に乗るつもりかもしれぬ」


【 シンセ 】

「あえて、あちらに一本取らせると……?」


【 シュレイ 】

「ありうることだ。レイ将軍は中庸ちゅうようを好むゆえ、あまりに勝ち過ぎることは望まぬところがある」


【 シュレイ 】

「勝ち過ぎれば、軍の慢心にもつながるからな。それに、うら若い天子を追い詰めて悪名を得るくらいなら、いっそ逃がした方がよい……と考える御仁だ」


【 シンセ 】

「しかし、それでは将来に禍根かこんを残すことになるのでは……?」


【 シュレイ 】

「それは否定できぬが、悪いこととも言い切れんな。対立する存在がいれば、むしろ、己の価値を高めることにもつながる……将軍なら、そう考えるだろう」


【 シュレイ 】

「……と、そこまでレイ将軍の思考を読んだ上で、かの天子は今回の仕掛けを企んだのかもしれぬ」


【 シンセ 】

「では、忍びの者の内通も、偽装ですか?」


【 シュレイ 】

「その可能性は高い。双方にとって利があるなら、レイ将軍はあえて乗ってくる……と踏んだのだろう。そして、その見立ては決して間違ってはいない」


【 シュレイ 】

「しかし……」


【 シンセ 】

「……しかし?」


【 シュレイ 】

「それは、普段のレイ将軍ならば――と、いう話だ」




【 グンム 】

「さて……そろそろ頃合いだな。タシギきょう――」


 ……ズズズッ……


【 タシギ 】

「…………」


 グンムの影から無言で現れたのは、〈血風翼将けっぷうよくしょう〉ことギン・タシギ。

 その片目は眼帯で覆われ、鼻から下は覆面で隠されている。


【 ダンテツ 】

「…………!」


 突然姿を見せたタシギの変わり果てた姿に、ダンテツは絶句する。


【 グンム 】

「部隊の支度は整っているな?」


【 タシギ 】

「――無論」


【 グンム 】

「ならばよし。……これより、天子が逃亡を図るはずだ。ひとりも逃さず、殲滅せんめつせよ。よいな、ひとりも、だ」


【 タシギ 】

「――――承知」


 乾いた声で応じ、タシギはふたたび影に潜っていった。


【 グンム 】

「…………」


【 ダンテツ 】

「――将軍っ! もしや貴方は、陛下をっ……」


【 グンム 】

「今は何も言うな、ダンテツ卿。陣を立て直すぞ」


【 ダンテツ 】

「…………っ」


 淡々と告げるグンムの、これまで見たことのない冷え切った表情に、ダンテツは言葉を失った――

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