◆◆◆◆ 3-11 闖入者 ◆◆◆◆
突然割って入った奇妙な風体の男は、妖気ただよう女と対峙しながらも、平然としている。
月明かりの下でもわかるほどに顔色は悪いが、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。
【 アイリ 】
「…………っ!!」
思わぬ闖入者に、女はもとより、ユイも戸惑うばかりだ。
【 ユイ 】
「……姐さんっ、あの男は……!?」
【 タイシン 】
「わからん。だが、幽聖岳から下りてきたというなら、それはつまり――」
【 アイリ 】
「――邪魔を、するなら……!」
痺れを切らしたように、女が眼光を閃かせ、
【 アイリ 】
「――“兀”!」
気迫とともに、巨大な白刃を空に生じさせ、そのまま若者へと投げつける――が、
【 若い男 】
「“令”――」
男が手にした盃を掲げると、そこから湧き上がった煙が剣にまとわりつき、たちまち溶かしてしまった。
【 アイリ 】
「…………っ!」
【 若い男 】
「ふ、ふふふ、思ったより便利だなぁ~コレ。くふふふっ……」
【 若い男 】
「そ、それ、左道の邪法のたぐいだよねぇ? 初めて見るなぁ~! も、もっと、使ってみせてくれない? くひっ、ひひひ……」
【 アイリ 】
「――――っ」
【 ユイ 】
「……姐さん、あいつ、なんか変じゃないですか……?」
【 タイシン 】
「……方士というのはだいたい変わり者ではあるが……」
と、そこへ、馬のいななきが響いた。
【 グンム 】
「――アイリ! そこまでだ……!」
【 アイリ 】
「あ――グンム――さま――」
息せき切って騎馬で駆けつけたのは、グンムとシュレイであった。
【 若い男 】
「……ん? す、助太刀? せ、せっかくいい実験台が見つかったところなんで、邪魔しないでくれる?」
【 グンム 】
「神仙の方とお見受けする――」
馬から飛び降りたグンムは、女をかばうように立ち、方士に向かって跪拝して、
【 グンム 】
「どうか、これなる者を見逃していただきたい。今宵はたまたまこのようなことになりましたが、ふだんはいたって穏やかな性分なれば……!」
【 若い男 】
「ふ、ふう~ん? と、とてもそうは見えないんだけど? ぼ、ボクにも襲いかかってきたしぃ~」
【 グンム 】
「お聞きください。この者――アイリは、なるほど左道の邪法の使い手かもしれませんが、心を改め、正道に立ち返ろうとしております。今宵はいささか、間違いがありましたが……」
【 若い男 】
「そ、そうは言ってもねぇ~」
【 グンム 】
「もしもならぬとなれば、先にこの私を成敗していただきたい――」
【 アイリ 】
「……っ! グンム、さま――」
【 若い男 】
「ええ~? そんなこと、い、言われてもなぁ……」
と、問答しているところへ、
【 シュレイ 】
「失礼する――もしや貴殿、〈雲竜飛聖〉ではないか?」
そう尋ねたのは、シュレイであった。
【 雲竜飛聖 】
「えっ? ど、どうして、ボクの名前を……」
【 シュレイ 】
「私だ、見忘れたか?」
【 雲竜飛聖 】
「あ、あれっ!? が、楽師兄……!?」
【 シュレイ 】
「おお、やはり――〈碧・サノウ〉か!」
【 グンム 】
「――っ? おい老師、知り合いなのか?」
【 シュレイ 】
「はい、私がかつて三霊山のひとつ・幽聖岳にて仙人になるべく修行していたころ、ともに学んでいた方士です。ご存じのとおり、私は途中で山を下りてしまいましたが……」
【 サノウ 】
「ま、まさか、こんなところで逢うだなんて……奇遇ですねぇ。これも師父のお導きなのかなぁ?」
などと、旧交を温めている。
【 グンム 】
「それなら話は早い、老師――」
【 シュレイ 】
「もちろんです。碧師弟、ここはどうか私の顔を立てて、引いてはもらえまいか?」
【 サノウ 】
「う、うう~ん、師兄がおっしゃるなら……でもなぁ……」
などと、なおも逡巡するところへ、
【 タイシン 】
「もし、神仙さま――」
と、タイシンが割って入った。
【 タイシン 】
「私は焦・タイシン、しがない商人でございます。立ち話ですませるような話でもなし、ここはひとつ、ゆるりと腰を落ち着けてご相談なさっては?」
【 サノウ 】
「そ、それもそうだなぁ。山を下りてきたばっかりで、いろいろわからないことだらけだし……」
グンムらが、ほっと安堵したのは言うまでもない。
――かくして、深夜の修羅場は、ひとまず一区切りとなったのである。
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