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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
36/421

◆◆◆◆ 3-11 闖入者 ◆◆◆◆

 突然割って入った奇妙な風体の男は、妖気ただよう女と対峙しながらも、平然としている。

 月明かりの下でもわかるほどに顔色は悪いが、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。


【 アイリ 】

「…………っ!!」


 思わぬ闖入者ちんにゅうしゃに、女はもとより、ユイも戸惑うばかりだ。


【 ユイ 】

「……姐さんっ、あの男は……!?」


【 タイシン 】

「わからん。だが、幽聖岳から下りてきたというなら、それはつまり――」


【 アイリ 】

「――邪魔を、するなら……!」


 痺れを切らしたように、女が眼光を閃かせ、


【 アイリ 】

「――“ゴッ”!」


 気迫とともに、巨大な白刃を空に生じさせ、そのまま若者へと投げつける――が、


【 若い男 】

「“リョウ”――」


 男が手にした盃を掲げると、そこから湧き上がった煙が剣にまとわりつき、たちまち溶かしてしまった。


【 アイリ 】

「…………っ!」


【 若い男 】

「ふ、ふふふ、思ったより便利だなぁ~コレ。くふふふっ……」


【 若い男 】

「そ、それ、左道の邪法のたぐいだよねぇ? 初めて見るなぁ~! も、もっと、使ってみせてくれない? くひっ、ひひひ……」


【 アイリ 】

「――――っ」


【 ユイ 】

「……姐さん、あいつ、なんか変じゃないですか……?」


【 タイシン 】

「……方士というのはだいたい変わり者ではあるが……」


 と、そこへ、馬のいななきが響いた。


【 グンム 】

「――アイリ! そこまでだ……!」


【 アイリ 】

「あ――グンム――さま――」


 息せき切って騎馬で駆けつけたのは、グンムとシュレイであった。


【 若い男 】

「……ん? す、助太刀? せ、せっかくいい実験台えものが見つかったところなんで、邪魔しないでくれる?」


【 グンム 】

「神仙の方とお見受けする――」


 馬から飛び降りたグンムは、女をかばうように立ち、方士に向かって跪拝きはいして、


【 グンム 】

「どうか、これなる者を見逃していただきたい。今宵はたまたまこのようなことになりましたが、ふだんはいたって穏やかな性分なれば……!」


【 若い男 】

「ふ、ふう~ん? と、とてもそうは見えないんだけど? ぼ、ボクにも襲いかかってきたしぃ~」


【 グンム 】

「お聞きください。この者――アイリは、なるほど左道の邪法の使い手かもしれませんが、心を改め、正道に立ち返ろうとしております。今宵はいささか、間違いがありましたが……」


【 若い男 】

「そ、そうは言ってもねぇ~」


【 グンム 】

「もしもならぬとなれば、先にこの私を成敗していただきたい――」


【 アイリ 】

「……っ! グンム、さま――」


【 若い男 】

「ええ~? そんなこと、い、言われてもなぁ……」


 と、問答しているところへ、


【 シュレイ 】

「失礼する――もしや貴殿、〈雲竜飛聖うんりゅうひせい〉ではないか?」


 そう尋ねたのは、シュレイであった。


【 雲竜飛聖 】

「えっ? ど、どうして、ボクの名前を……」


【 シュレイ 】

「私だ、見忘れたか?」


【 雲竜飛聖 】

「あ、あれっ!? が、ガク師兄しけい……!?」


【 シュレイ 】

「おお、やはり――〈ヘキ・サノウ〉か!」


【 グンム 】

「――っ? おい老師、知り合いなのか?」


【 シュレイ 】

「はい、私がかつて三霊山のひとつ・幽聖岳ゆうせいがくにて仙人になるべく修行していたころ、ともに学んでいた方士です。ご存じのとおり、私は途中で山を下りてしまいましたが……」


【 サノウ 】

「ま、まさか、こんなところで逢うだなんて……奇遇ですねぇ。これも師父しふのお導きなのかなぁ?」


 などと、旧交を温めている。


【 グンム 】

「それなら話は早い、老師――」


【 シュレイ 】

「もちろんです。ヘキ師弟してい、ここはどうか私の顔を立てて、引いてはもらえまいか?」


【 サノウ 】

「う、うう~ん、師兄がおっしゃるなら……でもなぁ……」


 などと、なおも逡巡するところへ、


【 タイシン 】

「もし、神仙さま――」


 と、タイシンが割って入った。


【 タイシン 】

「私はショウ・タイシン、しがない商人でございます。立ち話ですませるような話でもなし、ここはひとつ、ゆるりと腰を落ち着けてご相談なさっては?」


【 サノウ 】

「そ、それもそうだなぁ。山を下りてきたばっかりで、いろいろわからないことだらけだし……」


 グンムらが、ほっと安堵したのは言うまでもない。


 ――かくして、深夜の修羅場は、ひとまず一区切りとなったのである。

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