◆◆◆◆ 9-58 鶴風の戦い(7) ◆◆◆◆
【 ヨスガ 】
「――知っての通り、グンムの軍勢が目前にまで迫っておる」
文武の百官を集めた金鳳殿にて、ヨスガは静かに語り始めた。
【 文武百官 】
『…………』
【 ヨスガ 】
「我はこれより、みやこを離れる――」
【 ヨスガ 】
「――が、卿らは同行するに及ばぬ」
【 文武百官 】
『…………っ?』
怪訝そうな空気が流れる。
つい先日、供をせよと命じられたばかりである。
【 ヨスガ 】
「なにせ、我はこれから必死になって逃げねばならん。だが、卿らを連れて行けば大所帯となる」
【 ヨスガ 】
「そうなれば、追いつかれるのは必至であろう。ゆえに、卿らには残ってもらう」
【 ヨスガ 】
「この先、卿らがどうするかは、卿らの自由だ。好きにするがよい。グンムに従うもよし、下野するもよし。しかし……」
【 ヨスガ 】
「……できることなら、世の安寧のために尽力してほしい。これは命令ではなく、ただの頼みだ。よろしく頼む」
そう言って、ヨスガは玉座を降りると、居並ぶ百官に一礼した。
【 文武百官 】
『…………っ』
呆気に取られた一同も、慌てて礼を返す。
【 ヨスガ 】
「――それでは、しばしの別れだ。いずれ、また会うことになろう」
【 ヨスガ 】
「その時は、たとえグンムに与した者でも、決して罰することはせぬと約束しよう。では、さらば!」
そう告げると、ヨスガは百官を残して退出していった。
【 文武百官 】
『…………っ』
しばし茫然となっていた一同だったが、ヨスガが姿を消すと、たちまち宮殿内は騒然となる。
【 官僚たち 】
「……やれやれ、無理矢理連れて行かれるかと思っておりましたが、助かりましたな」
【 官僚たち 】
「まことに。自暴自棄になって、我らを巻き添えにして自爆するなどという噂もありましたが……いやはや」
【 官僚たち 】
「おのおのがた、この先、いかがなさるおつもりで?」
【 官僚たち 】
「なに、同じことですよ。上が誰になろうと、変わりはしません」
【 官僚たち 】
「それもそうですな。……しかし、いずれ戻ってくるとは、ずいぶんな大言を吐かれることで……あの様子では、咎人として連行されてくる可能性は考慮しておらぬようでしたが」
【 官僚たち 】
「いやぁ、わかりませんよ。嶺将軍が悪政を行えば、あるいは、すぐにでも……」
【 官僚たち 】
「さて、どう動いたものですかね……」
彼らなりに、生き延びるために知恵を絞るのだった。
【 ミズキ 】
「お疲れさまでした。……皆、安堵していたようですね」
【 ヨスガ 】
「今ごろは、今後の身の振り方に思い悩んでいるころだろうよ」
私室に戻って支度を整えながら、ヨスガは鼻を鳴らす。
【 ミズキ 】
「どうあってもお供させてほしい、という官僚からの嘆願も来ておりますが」
【 ヨスガ 】
「ほう、そんな物好きがいるのか?」
【 ミズキ 】
「覚えておいででしょうが、変事の後、最初に鐘を鳴らした際に駆けつけた三人です」
〈燎氏の変〉の直後、ヨスガは危急を告げる鐘を鳴らして文武の百官を招集したが、そのほとんどは保身に走り、登城しようとはしなかった。
しかし、ただ三人の官僚だけが、ヨスガの呼びかけに応じて参上したのである。
【 ヨスガ 】
「ああ、あの連中か。……よかろう、好きにさせてやれ」
【 ミズキ 】
「かしこまりました。よほど、ヨスガさまを見込んでおられるようで」
【 ヨスガ 】
「ふん、ただの博打好きかもしれぬぞ、その連中」
【 ミズキ 】
「まあ、そうかもしれませんね」
【 ヨスガ 】
「おい」
【 ミズキ 】
「彼らをただの博徒で終わらせるか、先見の明があった賢人とするかは、ヨスガさま次第でしょう」
【 ヨスガ 】
「――わかっているとも」
ヨスガは頷くと、愛用の琵琶を手に歩み出す。
【 ヨスガ 】
「ゆくぞ」
ミズキは一礼して、その後を追った――
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