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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
358/421

◆◆◆◆ 9-58 鶴風の戦い(7) ◆◆◆◆

【 ヨスガ 】

「――知っての通り、グンムの軍勢が目前にまで迫っておる」


 文武の百官を集めた金鳳殿きんほうでんにて、ヨスガは静かに語り始めた。


【 文武百官 】

『…………』


【 ヨスガ 】

「我はこれより、みやこを離れる――」


【 ヨスガ 】

「――が、けいらは同行するに及ばぬ」


【 文武百官 】

『…………っ?』


 怪訝そうな空気が流れる。

 つい先日、供をせよと命じられたばかりである。


【 ヨスガ 】

「なにせ、我はこれから必死になって逃げねばならん。だが、卿らを連れて行けば大所帯となる」


【 ヨスガ 】

「そうなれば、追いつかれるのは必至であろう。ゆえに、卿らには残ってもらう」


【 ヨスガ 】

「この先、卿らがどうするかは、卿らの自由だ。好きにするがよい。グンムに従うもよし、下野げやするもよし。しかし……」


【 ヨスガ 】

「……できることなら、世の安寧のために尽力してほしい。これは命令ではなく、ただの頼みだ。よろしく頼む」


 そう言って、ヨスガは玉座を降りると、居並ぶ百官に一礼した。


【 文武百官 】

『…………っ』


 呆気に取られた一同も、慌てて礼を返す。


【 ヨスガ 】

「――それでは、しばしの別れだ。いずれ、また会うことになろう」


【 ヨスガ 】

「その時は、たとえグンムにくみした者でも、決して罰することはせぬと約束しよう。では、さらば!」


 そう告げると、ヨスガは百官を残して退出していった。


【 文武百官 】

『…………っ』


 しばし茫然となっていた一同だったが、ヨスガが姿を消すと、たちまち宮殿内は騒然となる。


【 官僚たち 】

「……やれやれ、無理矢理連れて行かれるかと思っておりましたが、助かりましたな」


【 官僚たち 】

「まことに。自暴自棄になって、我らを巻き添えにして自爆するなどという噂もありましたが……いやはや」


【 官僚たち 】

「おのおのがた、この先、いかがなさるおつもりで?」


【 官僚たち 】

「なに、同じことですよ。上が誰になろうと、変わりはしません」


【 官僚たち 】

「それもそうですな。……しかし、いずれ戻ってくるとは、ずいぶんな大言を吐かれることで……あの様子では、咎人とがびととして連行されてくる可能性は考慮しておらぬようでしたが」


【 官僚たち 】

「いやぁ、わかりませんよ。レイ将軍が悪政を行えば、あるいは、すぐにでも……」


【 官僚たち 】

「さて、どう動いたものですかね……」


 彼らなりに、生き延びるために知恵を絞るのだった。




【 ミズキ 】

「お疲れさまでした。……皆、安堵していたようですね」


【 ヨスガ 】

「今ごろは、今後の身の振り方に思い悩んでいるころだろうよ」


 私室に戻って支度を整えながら、ヨスガは鼻を鳴らす。


【 ミズキ 】

「どうあってもお供させてほしい、という官僚からの嘆願も来ておりますが」


【 ヨスガ 】

「ほう、そんな物好きがいるのか?」


【 ミズキ 】

「覚えておいででしょうが、変事の後、最初に鐘を鳴らした際に駆けつけた三人です」


 〈リョウ氏の変〉の直後、ヨスガは危急を告げる鐘を鳴らして文武の百官を招集したが、そのほとんどは保身に走り、登城しようとはしなかった。

 しかし、ただ三人の官僚だけが、ヨスガの呼びかけに応じて参上したのである。


【 ヨスガ 】

「ああ、あの連中か。……よかろう、好きにさせてやれ」


【 ミズキ 】

「かしこまりました。よほど、ヨスガさまを見込んでおられるようで」


【 ヨスガ 】

「ふん、ただの博打ばくち好きかもしれぬぞ、その連中」


【 ミズキ 】

「まあ、そうかもしれませんね」


【 ヨスガ 】

「おい」


【 ミズキ 】

「彼らをただの博徒ばくとで終わらせるか、先見せんけんの明があった賢人とするかは、ヨスガさま次第でしょう」


【 ヨスガ 】

「――わかっているとも」


 ヨスガは頷くと、愛用の琵琶びわを手に歩み出す。


【 ヨスガ 】

「ゆくぞ」


 ミズキは一礼して、その後を追った――

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