◆◆◆◆ 9-55 鶴風の戦い(4) ◆◆◆◆
鶴風城をグンム方の数万の兵が取り囲み、四方の門へと押し寄せている。
そのうち、まず北門には――
【 グンロウ 】
「我こそは義軍の先鋒、嶺・グンロウなりっ! これしきの小城、一蹴してくれようぞっ! 者ども、続けいっ!!」
【 官軍 】
『おおおおおおッ!!』
嶺・グンロウ率いる軍が、早くも戦意をみなぎらせ、猛攻を仕掛けている。
そして、東門に目を向けると――
【 ミナモ 】
「さぁ、参りますわよっ! 我らの実力、満天下に知らしめてさしあげますわっ!」
*満天下……世の中すべての意。
【 岳南軍 】
『うおおおおおおッ!!』
翠・ミナモを先頭に、岳南の軍が一斉に城壁へと弓を射かけていく。
また一方、南門では――
【 ヴァンドーラ 】
「宙の弱兵、なにするものぞ! いざ、森羅の武、馳走してくれるっ! ゆくぞっ!!」
【 森羅軍 】
『おおおおッ――』
〈聡きヴァンドーラ〉らに率いられた森羅の女兵たちが、甲高い喊声を放ち、襲いかかる。
北、東、南の門がたちまち修羅場と化す中、西門においては……
【 冴えない武将 】
「……ふぁ~あ……」
【 副官 】
「蛟司馬、攻撃命令を……!」
【 蛟司馬 】
「おい、大声を出すな……二日酔いで頭が痛いんだよ……あふぅ」
馬上で大あくびをしているのは、〈蛟・ライケン〉……
グンムに仕える部将のひとりであり、西門の攻撃の担当であった。
【 副官 】
「蛟司馬っ……!」
【 ライケン 】
「あぁ、わかったわかった、よ~し、攻撃開始ぃ~」
【 官軍 】
『おっ……おおおっ!』
気のない攻撃命令に戸惑いを見せつつも、兵たちが城壁へ突進していく。
そんな様子を眺めながら、
【 ライケン 】
(やれやれだ……話が違うんだよなぁ)
ライケンは、そんなことを考えていた。
彼がこれまでグンムについてきたのは、お互いの考え方に、相通じるものがあったからである。
【 ライケン 】
(無理せず、ほどほどにやればいい……ってのが、俺たちの流儀ってもんだったでしょうに)
にもかかわらず、グンムは今や、朝廷を牛耳ろうという大それた野心を隠そうともしていない。
【 ライケン 】
(ま、こっちは、ほどほどにしておくかねぇ~……)
【 ダンテツ 】
「……嶺将軍、蛟司馬に一軍を任せてよろしかったのですか?」
グンムの本陣にて、ダンテツがグンムに問うていた。
【 グンム 】
「不服か?」
【 ダンテツ 】
「いえ……そういうわけではありませんが」
【 グンム 】
「あの男は、いささか――いや、だいぶ覇気には欠けるが、そつのない仕事をする。問題はなかろうさ」
【 グンム 】
「それに、包囲しつつも一方だけは攻め手を緩める……というのは、常套手段だろう?」
【 ダンテツ 】
「それは、わかりますが……」
城攻めにおいて、四方八方から激しく攻め立てられ、逃げ場がないとなると、それだけ防御側は死に物狂いとなり、攻撃側の犠牲も増える。
その点、一方だけでも弱い箇所を置いておけば、そこから逃亡を図る者もいる……と、いうわけだ。
【 グンム 】
「城攻めから外されたのが、納得いかぬか?」
【 ダンテツ 】
「いえ……仕方のないことでありましょう。私は、先代の凪将軍の薫陶を受けた者ですので」
*薫陶……人徳で影響を与える、の意。
先代とはつまり、ランブの亡父〈凪・ジンブ〉のことに他ならない。
ジンブはかつて〈大宙四天将〉のひとりに数えられた名将であり、部下だったダンテツを一人前に育てた張本人である。
【 ダンテツ 】
「一兵卒でしかなかった私に、あの方は目をかけてくださり、将に抜擢してくださった……そのご恩は、今も忘れておりません」
【 グンム 】
「……心情的には、むしろあちら側につきたいのではないか?」
【 ダンテツ 】
「お戯れを。今の私は官軍の将。矛をさかしまにすることなど、できませぬ」
【 グンム 】
「そうか。ならばいっそ、ランブ殿の首、挙げてくるか?」
【 ダンテツ 】
「ご命令とあらば、そういたしましょう。戦場においては親も子もなく死命を決するのが、武人というものですので」
【 グンム 】
「……そんな顔で睨むな。戯れだよ。貴公には、別の役目を任せたい。グンロウたちならば、手ごろな相手であろう」
【 ダンテツ 】
「はっ……」
【 グンム 】
「…………」
【 グンロウ 】
「衝車を出せっ! 城門を突き破るのだっ!!」
衝車とは破城槌、つまり城門や城壁を破壊することに特化した攻城兵器である。
ゴロゴロ……
グンロウの命に応じて、工兵たちが衝車を移動させてきた。
そして今まさに、その切っ先が城門へと向けられたとき……
――ブォンッ!
【 グンロウ 】
「ぬっ……!?」
城内から、巨大なものが落下してきて――
――バキャアアッ!!
【 工兵たち 】
『ひいいいっ……!?』
一撃のもとに、衝車が粉砕されていた。
【 グンロウ 】
「うぬっ……投石機かっ!?」
いや、よく見れば、飛んできたのは巨石ではなく……
【 グンロウ 】
「これは……槌だとっ!?」
戸惑うところへ、
ギイイイイ……
城門が開け放たれた。
そして、その奥から――
【 小山のような巨人 】
『ゴオオッ……ゴゴゴォオオオォ……!』
【 グンロウ 】
「ぬうっ……!」
並外れた巨漢であるグンロウをも遥かに凌駕する、雲を突くような巨人が姿を現したのだった――
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