◆◆◆◆ 9-54 鶴風の戦い(3) ◆◆◆◆
その頃、宮城においては……
【 人相の悪い男 】
「――報告いたしやす。嶺将軍の軍が鶴風城への攻撃を開始しやした。その数、ざっと三万ってところです」
【 ヨスガ 】
「ふむ、心得た。引き続き、調査を頼む」
【 人相の悪い男 】
「お安い御用でさァ――」
皇帝ヨスガに一礼し、男は宮殿の一室から足早に出ていった。
【 バイシ 】
「悪いね、ガラが悪い連中ばかりでさ」
霙・バイシが苦笑する。
【 ヨスガ 】
「是非もありません。彼らにも骨を折って貰わねば」
我影也シラクサが不在の中、忍びの仕事を任されているのは、宝玲山の一味のうち、盗人上がりの者たちであった。
世間からはコソ泥呼ばわりされ、蔑まれる輩だが、
【 ヨスガ 】
「我影也には及ばぬにせよ、情報伝達や調査に働いてくれていますので」
【 バイシ 】
「ふむ。ま、荒事には向かないが、適材適所ってところだね。凪や閃の姉妹たちも、うまくやるだろうさ」
と、祖母と孫が話しているところへ……
バーンッ!!
【 ???? 】
「大首領っ! こちらでございますかっ!」
荒っぽく扉を開け放ってやってきたのは、人呼んで〈小幻魔〉、方士の青・ギョクレンである。
【 ヨスガ 】
「副軍師補佐か、どうした? もしや、またセイレンが逃げ出したのか?」
【 ギョクレン 】
「いえ、それはいつものことでございますので、さほど気にしておりませんが――」
【 ヨスガ 】
「……逃げたのは逃げたのだな」
【 ギョクレン 】
「そんなことより、なんでうちは裏方なのでございますかっ? 納得いかないのでございますっ!」
【 ギョクレン 】
「お役目をいただければ、師父ともども、華々しく働いてみせますのにっ……!」
【 ヨスガ 】
「まあ、そう腐るな。そなたたちにしかできぬ役割というものがあるゆえな」
【 ギョクレン 】
「それは、そうでございましょうがっ……」
【 バイシ 】
「なぁに、切り札は最後まで大事に取っておくものさ。そうだろう?」
【 ギョクレン 】
「おおっ――なるほどでございますっ! 最後の最後に勝敗を決する、正真正銘の最終兵器! と、いうわけでございますね!」
【 ヨスガ 】
「……そこまでは言っておらぬが、まあそんなところだ」
【 ギョクレン 】
「承知したでございますっ! では、師父を探してきますので、これにてっ!」
言いたいことだけ言って、ギョクレンは出ていった。
【 ヨスガ 】
「……やれやれ。さすがに扱いに慣れていますな」
【 バイシ 】
「まあ、それなりにね。しかし、本当にいいのかい? あの子を使えば、ずいぶん面白いことができそうだが」
【 ヨスガ 】
「それは確かに、そうでしょう。副軍師補佐の力は、そこらの神仙にも劣るものではありませんので」
【 ヨスガ 】
「しかし……あやつが動けば、相手側の方士も黙ってはいないでしょう。そうなると、面倒なことになります」
【 ヨスガ 】
「聞けば、向こうには森羅の女王もおり、幽聖岳の援助もあるとか……そんな連中がこぞって出てきたら、いかに副軍師補佐とて、不利は否めますまい」
【 バイシ 】
「ふむ……あちら側の神仙がお出ましになるってわけかい?」
【 ヨスガ 】
「それはおそらく、ありますまいが……神仙が人間同士のいくさに直接関与することは、まず考えられませんので」
【 ヨスガ 】
「とはいえ、凄腕の方士が出現すれば、それだけで戦況は一変します。投入の機を見定めねばなりませんし……加えて、不測の事態に備えねばなりません」
【 バイシ 】
「ふむ……この前のような、未知の連中が出てきた場合に備えて、というわけだね」
【 ヨスガ 】
「ええ。ま、やれることはすべてやりますが……あとは、天運次第です」
【 バイシ 】
「運任せかい? あんたらしくもないねぇ」
【 ヨスガ 】
「やれることをやったら、後はもう、天に託すだけですよ。……さて、そろそろかな」
と、言っているそばから、
【 ミズキ 】
「――支度が、整いました」
【 ヨスガ 】
「うむ。……では、お先に」
【 バイシ 】
「ああ、お手並み拝見させてもらうよ」
【 ヨスガ 】
「…………」
ヨスガは頷くと、ミズキと共に出ていった。
【 バイシ 】
「さぁて……こっちも、気張らないとねぇ」
不敵に微笑み、武者震いするバイシだった。
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