◆◆◆◆ 9-51 証明 ◆◆◆◆
【 ユイ 】
「……なるほどな。まあ、あんたの話はわかった」
なおも警戒しつつ、話を続ける。
【 ユイ 】
「だが、そう簡単に、将軍に紹介するってわけにはいかねえな」
【 シラクサ 】
『ほう、罠かもしれぬ――と?』
【 ユイ 】
「そりゃあそうだ。偽りの降伏で相手を油断させておいて、懐に飛び込む……なんてのは、古今東西、よくある手だろう?」
まして、相手は自分より上手の忍びの者……
それこそ、グンムの命を狙う刺客となるかもしれないのである。
【 ユイ 】
(うかつに乗れる話じゃあねえな)
ユイがそう考えるのも、道理であろう。
【 シラクサ 】
『それは――もっともだ。ならば、どうすれば信じてもらえようか?』
【 ユイ 】
「どうすればいいかって? ふむ、そうだな……」
【 ユイ 】
「一番手っ取り早い方法を教えようか?」
【 シラクサ 】
『聞こう』
【 ユイ 】
「天子の首を、獲ってくることだ」
【 シラクサ 】
『――――っ』
【 ユイ 】
「そうすりゃあ、間違いなく信じて貰えるだろうぜ」
【 シラクサ 】
『…………』
【 ユイ 】
「どうだ、できるか? あんたほどの遣い手なら、無理な話じゃあるまい」
【 シラクサ 】
『……それは、できぬ』
【 ユイ 】
「ほう、なぜだ?」
【 シラクサ 】
『……天命が去ったとはいえ、あの御方は帝室の一員には違いない』
【 シラクサ 】
『まして、旧主である。その御方を手にかけるのは――忍びない』
【 ユイ 】
「…………」
【 シラクサ 】
『それでも、新たなる天子さまが命じるならば、ぜひなくお受けもしようが……そうでないなら、できぬ相談だ』
【 ユイ 】
「……なるほどな」
【 シラクサ 】
『――これでは信用ならぬ、と?』
【 ユイ 】
「いいや、逆だ」
と、ユイは首を振ってみせる。
【 ユイ 】
「もし、お安い御用……なんて言い出すような卑劣な輩だったら、むしろ信用できないところだったぜ」
【 シラクサ 】
『…………』
【 ユイ 】
「ま、どのみち、あんたをどうするかなんてことは、俺の一存じゃ決められん」
【 ユイ 】
「こっちにも、やることがあるしな……ことの次第を手紙に書くから、そいつを持って嶺将軍の陣へ行ってくれ。あとは、向こうで判断するだろうよ」
【 シラクサ 】
『――心得た。お心遣い、感謝する』
シラクサは、深々と一礼した。
【 ユイ 】
「だが、その前に――」
【 シラクサ 】
『…………っ?』
それから、しばしの後……
ユイは帝都を離れ、北西へ向かっていた。
峰西の地に滞在しているという焦・タイシンに会うためである。
【 ユイ 】
(さっきの件……本当なのか、それとも、策略か?)
【 ユイ 】
(……ま、そのあたりは、利口な方々に任せるさ)
グンムの陣営には知恵者も多いし、どうにかするだろう。
策ならば見破るかもしれないし、むしろ逆手にとって利用する……といったことも考えられる。
そのあたりの悪だくみは、ユイの得意分野ではない。
【 ユイ 】
(……それにしても、あれほどの遣い手が、あんな坊やだったとはな)
顔もわからぬ相手を推挙はできない――と告げると、シラクサはまとっていた甲冑を脱ぎ、真の姿をさらした。
まだあどけなさの残る童子であり、アルカナより年少だったかもしれない。
【 ユイ 】
(落ち着きもなくてオドオドしてたが……あれで、とんでもない忍びの達人だっていうんだから、恐ろしいな)
まったく、世間は広い……というしかない。
【 ユイ 】
(しかし、あのお嬢ちゃんが、人侠烈聖で、副頭目だって……?)
今なお信じがたいものがある。
別れ際、シラクサから聞かされた話が思い出された。
【 ユイ 】
(わけがわからんが……これも、姐さんの計画通りだとでも?)
なにはともあれ……
【 ユイ 】
(――死ぬなよ、小姐。弟のためにもな)
そう思いながら、ユイは夜の野を駆けていった。
かくして、さまざまな人々の思惑が交錯する中、帝都に戦火が迫る――
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