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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
350/421

◆◆◆◆ 9-50 忍びと忍び ◆◆◆◆

【 ユイ 】

「……やれやれだ」


 建物の屋根であぐらをかいて息をついているのは、虎王コオウ・ユイ。

 そう、つい先ほどまで師であるアカシにふんしていたのは、彼に他ならない。


【 ユイ 】

(お師さんのほうが面が割れてないし、無難だと思ったが……まさか、裏目に出るとはな)


 もっとも、本物のアカシでも、カズサからの追及はまぬがれなかったであろうが(もちろん、もっと穏当なやり方ではあっただろう)。


【 ユイ 】

(それにしても……)


 結局、ホノカナの気持ちが揺らぐことはなかった。

 それだけ、腹を決めている――ということなのだろう。


【 ユイ 】

(場合によっちゃ、強引にでも連れ出すつもりだったが……)


 あれだけの決意を見せられては、そうもいかない。


【 ユイ 】

(アルカナの奴、納得できるかどうか……いや、無理だろうな)


 手紙の内容次第ではあるが、それこそ、単身で姉の元へと走りかねないところがある。


【 ユイ 】

(そうするなら、それもあいつの生き方だが……)


 それはそれとして、


【 ユイ 】

「あの娘が、副頭目……? いったい、どういう……」


 カズサが口にした言葉を思い出して首をひねっていた、そのとき。


【 ???? 】

『知りたいか――風雲忍侠ふううんにんきょう殿』


【 ユイ 】

「…………!」


 聞き覚えのない声が、ユイの耳に届く。

 すかさず身構えた彼の目に映るのは……


【 ???? 】

『…………』


 屋根の端に立つ、見知らぬ甲冑姿の人影だった。


【 ユイ 】

(い、いつの間にっ……)


 やや気を抜いていたとはいえ、決して油断していたわけではない。

 にもかかわらず、ここまでの接近を許してしまうとは――


【 ユイ 】

(とんでもない遣い手か……!)


 内心で肝を冷やしつつ、


【 ユイ 】

「あんた――何者だ?」


 時間稼ぎのつもりで、名を問う。


【 ???? 】

『当方は――サツ・シラクサ……帝室に仕える我影也しのびのものなり』


【 ユイ 】

「…………っ」


 予想に反して、あっさりと名乗ってきた。

 顔は覆われており、表情はうかがえず、声音も平坦そのもの。


【 ユイ 】

「そうか……この気配、覚えがあるぜ。宮城の中で俺を“見てた”のは、あんただな?」


【 シラクサ 】

『いかにも、その通り――』


 宮城には凄腕の忍びがいる……というのは、裏の世界においては周知の事実だった。

 ユイ自身、かつて宮城に潜入した際は、つねにその視線を感じていたものである。


【 ユイ 】

(害をなさないならば、見逃してやる……という感じだったが)


 そんな相手が、今こうして彼の前に姿を見せた、ということは――


【 ユイ 】

「いよいよ俺を、片付けようってわけか?」


 いつでも動けるよう、体勢を整える。


【 シラクサ 】

『…………』


【 ユイ 】

「…………」


【 シラクサ 】

『――いや、そういうわけではない』


【 シラクサ 】

『当方は、帝室に仕える者――ゆえに、玉座にもっとも相応しい御方に助力したいと思っている』


【 ユイ 】

「……っ? そいつは、まさかっ……」


【 シラクサ 】

『そう……今上きんじょうの皇帝から、天命てんめいはすでに去った』


【 シラクサ 】

『ゆえに当方も、これよりは新たなる天子さまにお仕えしたい』


【 シラクサ 】

『貴公は、レイ将軍に近しいのであろう? 当方を、かの御仁に引き合わせていただけまいか――』


【 ユイ 】

「…………っ」


 思いがけないシラクサの申し出に、ユイは思わず絶句した。

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