◆◆◆◆ 9-50 忍びと忍び ◆◆◆◆
【 ユイ 】
「……やれやれだ」
建物の屋根であぐらをかいて息をついているのは、虎王・ユイ。
そう、つい先ほどまで師であるアカシに扮していたのは、彼に他ならない。
【 ユイ 】
(お師さんのほうが面が割れてないし、無難だと思ったが……まさか、裏目に出るとはな)
もっとも、本物のアカシでも、カズサからの追及はまぬがれなかったであろうが(もちろん、もっと穏当なやり方ではあっただろう)。
【 ユイ 】
(それにしても……)
結局、ホノカナの気持ちが揺らぐことはなかった。
それだけ、腹を決めている――ということなのだろう。
【 ユイ 】
(場合によっちゃ、強引にでも連れ出すつもりだったが……)
あれだけの決意を見せられては、そうもいかない。
【 ユイ 】
(アルカナの奴、納得できるかどうか……いや、無理だろうな)
手紙の内容次第ではあるが、それこそ、単身で姉の元へと走りかねないところがある。
【 ユイ 】
(そうするなら、それもあいつの生き方だが……)
それはそれとして、
【 ユイ 】
「あの娘が、副頭目……? いったい、どういう……」
カズサが口にした言葉を思い出して首をひねっていた、そのとき。
【 ???? 】
『知りたいか――風雲忍侠殿』
【 ユイ 】
「…………!」
聞き覚えのない声が、ユイの耳に届く。
すかさず身構えた彼の目に映るのは……
【 ???? 】
『…………』
屋根の端に立つ、見知らぬ甲冑姿の人影だった。
【 ユイ 】
(い、いつの間にっ……)
やや気を抜いていたとはいえ、決して油断していたわけではない。
にもかかわらず、ここまでの接近を許してしまうとは――
【 ユイ 】
(とんでもない遣い手か……!)
内心で肝を冷やしつつ、
【 ユイ 】
「あんた――何者だ?」
時間稼ぎのつもりで、名を問う。
【 ???? 】
『当方は――颯・シラクサ……帝室に仕える我影也なり』
【 ユイ 】
「…………っ」
予想に反して、あっさりと名乗ってきた。
顔は覆われており、表情はうかがえず、声音も平坦そのもの。
【 ユイ 】
「そうか……この気配、覚えがあるぜ。宮城の中で俺を“見てた”のは、あんただな?」
【 シラクサ 】
『いかにも、その通り――』
宮城には凄腕の忍びがいる……というのは、裏の世界においては周知の事実だった。
ユイ自身、かつて宮城に潜入した際は、つねにその視線を感じていたものである。
【 ユイ 】
(害をなさないならば、見逃してやる……という感じだったが)
そんな相手が、今こうして彼の前に姿を見せた、ということは――
【 ユイ 】
「いよいよ俺を、片付けようってわけか?」
いつでも動けるよう、体勢を整える。
【 シラクサ 】
『…………』
【 ユイ 】
「…………」
【 シラクサ 】
『――いや、そういうわけではない』
【 シラクサ 】
『当方は、帝室に仕える者――ゆえに、玉座にもっとも相応しい御方に助力したいと思っている』
【 ユイ 】
「……っ? そいつは、まさかっ……」
【 シラクサ 】
『そう……今上の皇帝から、天命はすでに去った』
【 シラクサ 】
『ゆえに当方も、これよりは新たなる天子さまにお仕えしたい』
【 シラクサ 】
『貴公は、嶺将軍に近しいのであろう? 当方を、かの御仁に引き合わせていただけまいか――』
【 ユイ 】
「…………っ」
思いがけないシラクサの申し出に、ユイは思わず絶句した。
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