◆◆◆◆ 9-46 夜市にて ◆◆◆◆
帝都の酒場にて……
【 客 】
「嶺将軍が謀叛を起こして攻めてくるっていうが……いったい、どうなっちまうんだろうな?」
【 別の客 】
「さぁね……天子さまはさっさと逃げ出すって決めたらしいし、いくさにはならないんじゃないかな?」
【 また別の客 】
「だといいけど……そうなると、次は嶺将軍の天下になるってわけ?」
【 客 】
「さて、どうだかねえ……結局は、謀叛人だろう? なにをやらかすか、わかったもんじゃない」
【 別の客 】
「なぁに、将軍は庶民の味方だからな。そう無茶はしないだろうさ。大人しく出迎えるならね」
【 また別の客 】
「ふうん……?」
酔客たちがたむろして、これからの成り行きについて話している。
【 ユイ 】
「…………」
虎王・ユイは代金を払い、酒場を出た。
【 ユイ 】
(さっきのは嶺将軍の諜者か?)
グンムに対して好意的な声と、批判的な意見を交錯させることで、世論の誘導を図っているのかもしれない。
【 ユイ 】
(基本的には、将軍を歓迎する空気があるようだが……)
叛乱軍とはいっても、皇太后から命を受けた……という建前がある。
かつまた、現在の皇帝であるヨスガが、さほど支持されているとはいえない……というのも大きい。
とどのつまり、民にとって、誰が上に立とうが問題ないのだ……悪政さえ敷かなければ。
【 ユイ 】
(にぎやかなもんだ)
夜市の人出は、以前とさほど変わりない。
もしも皇帝が徹底抗戦を表明していれば、脱出を図る市民も多く、もっと殺伐とした状況だったに違いないが……
【 ユイ 】
(逃げるが勝ち……ってわけか。思いきりのいい天子さまだな)
帝都に籠城すれば、多少は持ちこたえられるだろうが、その先に待つのはジリ貧でしかない。
であれば、思い切って捨てたほうがマシ……と理屈ではわかっていても、誰もができることではない。
【 ユイ 】
(さて……宮城に、どう入ったものかな)
以前も忍び込んだことはあるが、あのときとは状況が違う。
【 ユイ 】
(そう簡単には入れてもらえないだろうが……)
などと思っていると、
【 ???? 】
「ちょっとっ、寄り道しちゃダメですってばっ……!」
【 ???? 】
「いいじゃないですか、ちょっとくらいぃ~っ!」
【 ユイ 】
「……ん?」
どこか聞き覚えのある声がした。
【 ???? 】
「いいかげんにしてください、セイレンさんっ……!」
【 ???? 】
「見逃してくださいよっ、ホノカナ殿~!」
【 ユイ 】
(…………っ!)
【 セイレン 】
「――ううっ、ひさびさに帰京したのに、香糖菓子も食べられないなんてあんまりだぁ~っ!」
【 ホノカナ 】
「そんなことのために来たわけじゃないですからぁっ……!」
ホノカナは、辟易していた。
用事があってセイレンと共に市街へ出てきたのはいいが……このありさまである。
【 ホノカナ 】
「子供じゃないんだから、辛抱してくださいっ!」
【 セイレン 】
「だって、だってぇ~っ!」
【 ホノカナ 】
「はぁ……」
完全に、駄々っ子そのものであった。
【 ホノカナ 】
「(少しでも早く、晏老師のところに帰らなきゃいけないんですっ……!)」
【 セイレン 】
「(う、うう……わかりましたよ……)」
そう、ふたりが市へやってきたのは、晏・ゼンキョクから頼まれたためであった。
【 ホノカナ 】
(晏老師……わたしたちの、ためにっ……)
先日のグンム軍からの脱出劇のさい、ゼンキョクは敵の飛刀を受けて負傷した。
さほど深い傷ではなかったのだが、毒が塗られていたらしく、彼女は高熱を出して寝込んでいるのである。
【 ホノカナ 】
(なんだか、ずっと元気がないとは思ってたけどっ……)
ゼンキョクから薬の材料を買ってくるように頼まれ、こうして市へ足を運んだ……というわけだった。
【 ホノカナ 】
「……って言っても、ええと……こんなの、どこに売ってるんだろ……」
渡された材料の一覧表を眺めつつ、戸惑うホノカナ。
【 ホノカナ 】
「セイレンさん、わかります?」
【 セイレン 】
「どれどれ……う~ん、なるほど!」
【 ホノカナ 】
「わかりましたっ?」
【 セイレン 】
「皆目わかりません!」
【 ホノカナ 】
「あ……はい、そんな気はしてました」
【 セイレン 】
「ちょっと冷たくないですかホノカナ殿ぉ!?」
などと、わちゃわちゃしていると。
【 ???? 】
「失礼――もしや、ホノカナ殿では?」
【 ホノカナ 】
「……えっ? あっ! あなたはっ……」
ホノカナは、思わず目を見開いた――
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