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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
346/421

◆◆◆◆ 9-46 夜市にて ◆◆◆◆

 帝都の酒場にて……


【 客 】

レイ将軍が謀叛を起こして攻めてくるっていうが……いったい、どうなっちまうんだろうな?」


【 別の客 】

「さぁね……天子さまはさっさと逃げ出すって決めたらしいし、いくさにはならないんじゃないかな?」


【 また別の客 】

「だといいけど……そうなると、次はレイ将軍の天下になるってわけ?」


【 客 】

「さて、どうだかねえ……結局は、謀叛人だろう? なにをやらかすか、わかったもんじゃない」


【 別の客 】

「なぁに、将軍は庶民の味方だからな。そう無茶はしないだろうさ。大人しく出迎えるならね」


【 また別の客 】

「ふうん……?」


 酔客たちがたむろして、これからの成り行きについて話している。


【 ユイ 】

「…………」


 虎王コオウ・ユイは代金を払い、酒場を出た。


【 ユイ 】

(さっきのはレイ将軍の諜者ちょうじゃか?)


 グンムに対して好意的な声と、批判的な意見を交錯させることで、世論の誘導を図っているのかもしれない。


【 ユイ 】

(基本的には、将軍を歓迎する空気があるようだが……)


 叛乱軍とはいっても、皇太后から命を受けた……という建前がある。

 かつまた、現在の皇帝であるヨスガが、さほど支持されているとはいえない……というのも大きい。

 とどのつまり、民にとって、誰が上に立とうが問題ないのだ……悪政さえかなければ。


【 ユイ 】

(にぎやかなもんだ)


 夜市の人出は、以前とさほど変わりない。

 もしも皇帝が徹底抗戦を表明していれば、脱出を図る市民も多く、もっと殺伐とした状況だったに違いないが……


【 ユイ 】

(逃げるが勝ち……ってわけか。思いきりのいい天子さまだな)


 帝都に籠城すれば、多少は持ちこたえられるだろうが、その先に待つのはジリ貧でしかない。

 であれば、思い切って捨てたほうがマシ……と理屈ではわかっていても、誰もができることではない。


【 ユイ 】

(さて……宮城に、どう入ったものかな)


 以前も忍び込んだことはあるが、あのときとは状況が違う。


【 ユイ 】

(そう簡単には入れてもらえないだろうが……)


 などと思っていると、


【 ???? 】

「ちょっとっ、寄り道しちゃダメですってばっ……!」


【 ???? 】

「いいじゃないですか、ちょっとくらいぃ~っ!」


【 ユイ 】

「……ん?」


 どこか聞き覚えのある声がした。


【 ???? 】

「いいかげんにしてください、セイレンさんっ……!」


【 ???? 】

「見逃してくださいよっ、ホノカナ殿~!」


【 ユイ 】

(…………っ!)




【 セイレン 】

「――ううっ、ひさびさに帰京したのに、香糖菓子も食べられないなんてあんまりだぁ~っ!」


【 ホノカナ 】

「そんなことのために来たわけじゃないですからぁっ……!」


 ホノカナは、辟易へきえきしていた。

 用事があってセイレンと共に市街へ出てきたのはいいが……このありさまである。


【 ホノカナ 】

「子供じゃないんだから、辛抱してくださいっ!」


【 セイレン 】

「だって、だってぇ~っ!」


【 ホノカナ 】

「はぁ……」


 完全に、駄々っ子そのものであった。


【 ホノカナ 】

「(少しでも早く、アン老師せんせいのところに帰らなきゃいけないんですっ……!)」


【 セイレン 】

「(う、うう……わかりましたよ……)」


 そう、ふたりが市へやってきたのは、アン・ゼンキョクから頼まれたためであった。


【 ホノカナ 】

アン老師せんせい……わたしたちの、ためにっ……)


 先日のグンム軍からの脱出劇のさい、ゼンキョクは敵の飛刀を受けて負傷した。

 さほど深い傷ではなかったのだが、毒が塗られていたらしく、彼女は高熱を出して寝込んでいるのである。


【 ホノカナ 】

(なんだか、ずっと元気がないとは思ってたけどっ……)


 ゼンキョクから薬の材料を買ってくるように頼まれ、こうして市へ足を運んだ……というわけだった。


【 ホノカナ 】

「……って言っても、ええと……こんなの、どこに売ってるんだろ……」


 渡された材料の一覧表を眺めつつ、戸惑うホノカナ。


【 ホノカナ 】

「セイレンさん、わかります?」


【 セイレン 】

「どれどれ……う~ん、なるほど!」


【 ホノカナ 】

「わかりましたっ?」


【 セイレン 】

「皆目わかりません!」


【 ホノカナ 】

「あ……はい、そんな気はしてました」


【 セイレン 】

「ちょっと冷たくないですかホノカナ殿ぉ!?」


 などと、わちゃわちゃしていると。


【 ???? 】

「失礼――もしや、ホノカナ殿では?」


【 ホノカナ 】

「……えっ? あっ! あなたはっ……」


 ホノカナは、思わず目を見開いた――

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