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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
345/421

◆◆◆◆ 9-45 去就 ◆◆◆◆

【 ヨスガ 】

「そうだな、そなたに断られると、いささか面倒なことにはなるが……まあ、それも仕方あるまい」


【 ケイヨウ 】

「それはつまり……私を、お斬りになると?」


【 ヨスガ 】

「さぁ、どうしたものかな」


 ヨスガは、ニヤリと唇の端を吊り上げる。


【 ケイヨウ 】

「…………」


 凄んでみせるヨスガに、ケイヨウは目を細めた。


【 ケイヨウ 】

「その笑い方……おじいさまに似ておられますなァ」


【 ヨスガ 】

「ほう……先々代さまにか? そんなことは、はじめて言われたな」


 少し毒気を抜かれたように、己の顔を撫でるヨスガ。

 そんな仕草は、歳相応の小娘のそれだった。


【 ケイヨウ 】

「ほ、ほ、ほ……ええ、よく似ておりますとも。あの御方も、お若い頃はお忍びでちょくちょく悪さをしておりましたからなァ。私もよく付き合わされたものです」


 懐かしそうに言うケイヨウ。

 先々代……つまりヨスガの亡き祖父にあたる〈エン・サイカ〉は、ケイヨウとは同世代にあたる。


【 ヨスガ 】

「……ふん。そんな話でほだされると思うか?」


【 ケイヨウ 】

「いえいえ……めっそうもない。歳を取ると、ちょくちょく昔のことが思い出されるものでしてなァ」


【 ヨスガ 】

「……それで?」


【 ケイヨウ 】

「――万事、承知いたしました。どうか、ご武運を」


 と、深々と一礼する。


【 ヨスガ 】

「結構だ。――それから、リョウ侍中じちゅうのことだが」


【 ケイヨウ 】

「あいにく、お役に立ちそうなことは吐いておりませんなァ」


【 ヨスガ 】

無明天師むみょうてんしとやらについては?」


【 ケイヨウ 】

「おォ、すでにご承知で……その正体については、知らぬようですな」


【 ヨスガ 】

「そうか。……ならばよい。邪魔をしたな」


 ヨスガは腰を上げると、埃を払う。


【 ヨスガ 】

「これが今生の別れかもしれぬ。身体をいとえよ、ケイヨウ」


【 ケイヨウ 】

「はっ……陛下こそ、どうかご無事で」


【 ヨスガ 】

「うむ。今度会ったときは、ゆっくり先々代さまの話を聞かせてもらうとしよう。では、さらばだ――」


 そう言って、ヨスガは闇の中に溶けていった。


【 ケイヨウ 】

「…………」


 気配がなくなったのち……


【 ケイヨウ 】

「さてさて……どうなりますことやら」


 白い髭をさすりながら、ケイヨウはしばし物思いにふけっていた……




【 ヨスガ 】

「……やれやれだな。これだから年寄りは厄介だ」


 ケイヨウの屋敷を出たヨスガは、夜の大通りを歩きつつ、息をついた。


【 ヨスガ 】

「世話をかけたな、シラクサ」


【 シラクサ 】

「は、ははっ……!」


 ヨスガの影の中から、我影也しのびのもの……サツ・シラクサの声がする。

 彼の助けのおかげで、あっさり屋敷に潜入できたのだ。

 このまま、少し離れたところに待機しているミズキと合流する手はずだったが……


【 ヨスガ 】

「…………」


 ふと、ヨスガはぴたりと足を止めた。


【 シラクサ 】

「……っ? ど、どうされましたっ……?」


【 ヨスガ 】

「ひとつ、確かめておこうと思ってな」


【 シラクサ 】

「と、いうと……?」


【 ヨスガ 】

「そなたの一族は、帝室に仕えるのがさだめであろう。ならばこの後、我が帝都を追われたら、どうする?」


【 シラクサ 】

「! そ、それはっ……」


【 ヨスガ 】

「我がみやこを去った後、おそらく、我が従弟いとこどのが即位することになろう。そうなれば、地上に天子がふたりいることになる。そなたや、そなたの一族はどうするのだ?」


【 シラクサ 】

「…………っ」


【 ヨスガ 】

「なかなか、そなたとふたりきりになれる状況も少ないのでな。今、確かめておきたい」


【 シラクサ 】

「……っ、と、当方はっ……帝室に、お仕えする者なれば……」


【 ヨスガ 】

「それはわかっている。新帝を立てたら、連中は我を廃帝扱いにするであろうな。そうなったら、そなたは――どうする?」


【 シラクサ 】

「…………っ」


【 シラクサ 】

「お、おそらく、サツの一族は……新たな帝を、支えるかと……」


【 ヨスガ 】

「まあ、そうなるであろうな。……では、そなたは?」


【 シラクサ 】

「……ぼ、ぼくは……ぼくはっ……」




【 ミズキ 】

「――ご無事でなによりです」


 通りの陰から出てきたミズキが、一礼する。


【 ヨスガ 】

「うむ……枢密院と話はついた。これで少しは、勝算が上がるであろう」


【 ミズキ 】

「それにしても、ひとりで乗り込むのは、いささか……」


【 ヨスガ 】

「ふん、シラクサのおかげで大したことはなかった。……まあ、この手はもはや使えぬがな」


【 ミズキ 】

「……っ? それは……もしや?」


【 ヨスガ 】

「そういうことだ」


 ヨスガは頷いた。


【 ヨスガ 】

我影也しのびのものは――我のもとを、去った」


【 ミズキ 】

「…………!」


 ミズキは、息を呑んだ……

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