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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
344/421

◆◆◆◆ 9-44 談判 ◆◆◆◆

【 ヨスガ 】

「まあ、座れ。我も座る」


 ヨスガは床に腰を下ろすと、ケイヨウにも座るようにうながす。


【 ケイヨウ 】

「は……」


 さすがに椅子に座るわけにもいかず、ヨスガにならって腰を下ろす。


【 ケイヨウ 】

「……屋敷の周囲には、それなりの兵がいたはずですがのォ?」


【 ヨスガ 】

「なに、目立たぬ格好で来れば、そうそう見とがめられもせぬものだ」


 さらりと告げるヨスガの格好は、なるほど簡素な平服ではあったが、当然、それだけで警護の兵の目を盗めるわけもない。


【 ケイヨウ 】

(方術か……はたまた、忍びの術のたぐいか?)


 戸惑いを覚えつつも、ケイヨウは表には出さず、


【 ケイヨウ 】

「よもや、見舞いにきていただいた……と、いうわけではありますまいなァ?」


【 ヨスガ 】

「まあ、それもあるが、ひとつには礼を言おうと思ってな。前に、姥姥ばばさまを見逃してくれたのであろう?」


【 ケイヨウ 】

「あァ……その件ですか。なに、昔のよしみということですな」


 先日の乱のおり、〈白銀夜叉しろがねやしゃ〉こと〈エイ・バイシ〉が率いる軍が帝都に侵入するには、ケイヨウの軍をやり過ごす必要があった。

 その際、バイシがケイヨウと交渉し、話をつけたのである。


【 ヨスガ 】

「おかげで、ひとまずは難を逃れることができた。礼を言う」


 と、頭を下げるヨスガ。


【 ケイヨウ 】

「これはこれは、もったいないお言葉にて……」


 そう恐縮して見せつつも、


【 ケイヨウ 】

「……しかし、ご用は、それだけではありますまいなァ?」


【 ヨスガ 】

「無論のことだ」


 顔を上げたヨスガの表情は、冷徹そのものだった。


【 ケイヨウ 】

(先帝陛下とは似ても似つかぬな……ご母堂にはよく似ているが)


 そんな感慨をひそかに覚えつつ、ケイヨウは己の首を撫でる。


【 ケイヨウ 】

「もしや……この皺首しわくびを、ご所望ですかな?」


【 ヨスガ 】

「なんだ、受け取って欲しいのか? それはそれで、やぶさかではないがな」


【 ケイヨウ 】

「いやいや……この歳になっても、まだまだ命は惜しゅうございますなァ。むしろ、歳をとればとるほど、惜しくなるようで」


【 ヨスガ 】

「で、あろうな。別に我も、そなたの首が欲しいわけではない」


【 ケイヨウ 】

「では、軍権を渡せ――と?」


【 ヨスガ 】

「ふむ、そちらは欲しくないわけではないが……さしあたって、今は必要ない」


【 ケイヨウ 】

「では……?」


【 ヨスガ 】

「つまり、禁軍をいくさに使う気はないということだ。しかし、ちと手を借りたくてな」


【 ケイヨウ 】

「ははァ……?」


【 ヨスガ 】

「つまりだな――」


 ――かくかくしかじか……


【 ヨスガ 】

「……と、いうわけだ。これなら、損害は出まい?」


【 ケイヨウ 】

「ははァ……なるほどォ……」


【 ケイヨウ 】

「ですが、その計……もしも私が陛下を裏切ったなら、それまでではありませんかなァ?」


【 ヨスガ 】

「まあ、そうだな」


 あっさりと認めつつも、


【 ヨスガ 】

「だが、そなたは裏切らぬさ」


【 ケイヨウ 】

「ほほォ……なにゆえに、そう断言なさる?」


【 ヨスガ 】

「そなたを信頼しているゆえ――では、もちろんない」


【 ヨスガ 】

「勝ち負けという意味ならば、こたびの一戦、グンムめの勝ちは揺るがぬ。しゃくに触るがな」


【 ヨスガ 】

「だが、あやつが立派な国の護り手となるか、はたまた邪悪な破壊者となるか……それは、いまだ定かではあるまい?」


【 ケイヨウ 】

「…………」


【 ヨスガ 】

「それを思えば、グンムに対抗できる存在を別に残しておくのは、そなたの信念に沿うものであるはずだ。違うか?」


【 ケイヨウ 】

「さてさて……」


 白い髭を撫でながら、ケイヨウは即答を避ける。

 彼の信念とは、すなわち


 ――社稷しゃしょくの臣たらん。

 *社稷……国家、または朝廷の意。


 と、いうことに他ならない。

 つまり、国家の安寧こそがもっとも重要であり、権力者が誰であるか……といったことは二の次なのである。


【 ケイヨウ 】

「されば陛下は、帝都を明け渡した後の目算メドが立っている――と、いうことですな?」


【 ヨスガ 】

「まあな。もっとも、まだ絵に描いた餅ではあるが。どうあれ、そなたにとって悪い賭けではあるまい」


【 ケイヨウ 】

「……ふゥむ……」


【 ケイヨウ 】

「この一件、もし私が断れば……どうなさるおつもりで?」


【 ヨスガ 】

「…………」


 ヨスガの双眸そうぼうに、妖しいきらめきがよぎった……

 *双眸……両目の意。

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