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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
342/421

◆◆◆◆ 9-42 皇帝の策謀 ◆◆◆◆

【 ヨスガ 】

「三人とも、大儀たいぎであったな。無事でなによりだ」


 使節としての任から戻ってきた三人に、ヨスガがねぎらいの言葉をかける。


【 ホノカナ 】

「……っ、はいっ、どうにか……」


【 ゼンキョク 】

「ありがたき、お言葉――」


【 セイレン 】

「なぁに、いたって簡単な任務でしたとも! 残念ながら、勅使ちょくしとして賊の罪を問うことはできませんでしたが……まあ、それはそれ、これはこれ! あれもあれ、なにはともあれ!」


【 ヨスガ 】

「……そなた、相変わらず元気であるな」


 旅の疲れが残る二人に比べ、セイレンだけはいつもの調子であった。


【 ミズキ 】

「よく無事に戻りまし――いえ、戻られましたね、副頭目」


【 ホノカナ 】

「な、なんとか……これも、アン老師せんせいのおかげです!」


【 ゼンキョク 】

「いえ……たいしたことは」


【 セイレン 】

「ちょっとホノカナ殿っ!? 私のおかげでもありますよねえ!?」


【 ヨスガ 】

「いちいちうるさいな、そなたはっ……とにかく、首尾を聞こう――」




【 ヨスガ 】

「――ふん、なるほどな。さしずめ、そなたたち三人が〈帝都の三賊さんぞく〉というところか?」


 皇帝の身の安全は保証するが、周囲の奸臣かんしんは罪に服すべし……というグンムの方針を聞かされ、ヨスガが鼻を鳴らす。

 *奸臣……邪悪な、よくない家臣の意。


【 ミズキ 】

「そんなに大物扱いしていただけるとは、むしろ光栄ですね」


 悪臣の筆頭に上げられ、苦笑するミズキ。


【 ランブ 】

「悪名は無名に勝る……とか。もとより、私は悪名にまみれておりますが」


 かつては罪人として獄に繋がれたこともあるランブとしては、さしたる痛手でもないようだった。


【 セイレン 】

「いやいやいや! 私はまったくもって冤罪えんざいも冤罪! 清廉潔白そのものなんですけどぉ~~!?」


【 ヨスガ 】

「ふむ、そうだな。確かにそなたの悪だくみをれたことは一度たりともないゆえ、まったくの濡れ衣といえような」


【 セイレン 】

「……うう~ん、それはそれで、なんだか寂しい気も……」


【 ホノカナ 】

「めんどくさい人だなぁ……あっ、すみません、旅の疲れのせいか、うっかり本音が……」


【 セイレン 】

「疲れてるからって本音がこぼれ出たりしますぅ!?」


【 ミズキ 】

「――いかがいたします? 私どもを差し出せば、ありがたくも命だけは助けてくださるとのことですよ」


【 ヨスガ 】

「ふむ、それも一手ではあるが……」


【 セイレン 】

「えええっ!? あ、あるんですかぁ!?」


【 ヨスガ 】

「策としては、な。君側くんそくの奸たる賊を差し出す……という触れ込みで、あちらの油断を誘う――という手は考えられる」

 *君側の奸……君主の奸悪な側近の意。


【 ホノカナ 】

「……っ、やっぱり、いくさになるんですね……」


【 カズサ 】

「あなたまさか、いくさは嫌です……などと言い出すつもりかしら?」


【 ホノカナ 】

「い、いえ……そうは言いません。もちろん嫌ですけど……ここまできたら、避けられないってわかりますから」


【 ホノカナ 】

「でも……わたしは、レイ将軍がそんなに悪い人だとは思えません」


【 カズサ 】

「はぁっ? あなたねえっ、まだそんな甘いことをっ……!」


【 ホノカナ 】

「わ、わかってます、今の状況じゃ、話し合いなんてできっこないって……」


【 ホノカナ 】

「だけど、せめて互角近くの状況にまで持ち込むことができれば、交渉の余地はあると思います……!」


【 ヨスガ 】

「ふむ……ま、どうあれ、それは先のことだ」


【 ヨスガ 】

「いずれにせよ、今は戦って道を切り開く以外、我らに道はない」


【 ヨスガ 】

「さりとて、彼我ひがの戦力差は歴然……まともにぶつかれば、ひとたまりもないであろう」

 *彼我……相手側とこちら側、の意。


【 ヨスガ 】

「ゆえに敵軍を一撃し、派手な勝利をかっさらい、そのままさっさと尻に帆を掛けて転進する――というのが得策であろう。一撃離脱、というわけだな」


【 ミズキ 】

「皇帝侮りがたし……と、世間に示すわけですね」


【 ヨスガ 】

「そういうことだ」


【 ホノカナ 】

「で、でも、そんなにうまく行きますかね……?」


【 ヨスガ 】

「もとより、簡単にはいかぬ。相手がよほどの間抜けならさておき、グンムはなかなかの良将だ。そうであろう?」


【 ランブ 】

「はい、派手ないくさを好む御仁ではありませんが……その用兵には重みがあり、容易には崩せません」


【 ヨスガ 】

「だが、無敵の軍、などというものは存在しない。どれほどの強敵にも弱点はあるものだ。そこを、衝く」


【 ホノカナ 】

「弱点……ですか?」


【 ヨスガ 】

「さよう。グンムの直属軍(約十万)は、本来さほど質のよくない禁軍(近衛兵)だが、遠征を通じ、かなりの練度を得たと聞く。これと正面からぶつかるのは賢明ではない」


【 ヨスガ 】

「また、新たに加わった岳南がくなん軍、森羅しんら軍(それぞれ約一万)は、相当な精鋭だ。これまた、相手をしたくはないな」


【 ヨスガ 】

「しかし、グンムの軍はこれだけではない。途中で加わった有象無象うぞうむぞうの連中がいる。恩賞目当ての質の悪い軍だ」


【 ヨスガ 】

「こやつらは士気も低ければ統率も取れていないゆえ、そこを狙って攻めれば、兵数で劣っていても、勝算はある」


【 ホノカナ 】

「で、でも、狙うって言っても、そんなに都合よくは……」


【 ホノカナ 】

「――あっ!?」


【 ヨスガ 】

「気づいたようだな。……そう、蛇の道は蛇、というわけだ」


 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるヨスガ。

 そんな彼女を見て、


【 ホノカナ 】

(……すごく、イキイキしてる……)


 と、思わずにはいられないホノカナであった。

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