◆◆◆◆ 9-42 皇帝の策謀 ◆◆◆◆
【 ヨスガ 】
「三人とも、大儀であったな。無事でなによりだ」
使節としての任から戻ってきた三人に、ヨスガがねぎらいの言葉をかける。
【 ホノカナ 】
「……っ、はいっ、どうにか……」
【 ゼンキョク 】
「ありがたき、お言葉――」
【 セイレン 】
「なぁに、いたって簡単な任務でしたとも! 残念ながら、勅使として賊の罪を問うことはできませんでしたが……まあ、それはそれ、これはこれ! あれもあれ、なにはともあれ!」
【 ヨスガ 】
「……そなた、相変わらず元気であるな」
旅の疲れが残る二人に比べ、セイレンだけはいつもの調子であった。
【 ミズキ 】
「よく無事に戻りまし――いえ、戻られましたね、副頭目」
【 ホノカナ 】
「な、なんとか……これも、晏老師のおかげです!」
【 ゼンキョク 】
「いえ……たいしたことは」
【 セイレン 】
「ちょっとホノカナ殿っ!? 私のおかげでもありますよねえ!?」
【 ヨスガ 】
「いちいちうるさいな、そなたはっ……とにかく、首尾を聞こう――」
【 ヨスガ 】
「――ふん、なるほどな。さしずめ、そなたたち三人が〈帝都の三賊〉というところか?」
皇帝の身の安全は保証するが、周囲の奸臣は罪に服すべし……というグンムの方針を聞かされ、ヨスガが鼻を鳴らす。
*奸臣……邪悪な、よくない家臣の意。
【 ミズキ 】
「そんなに大物扱いしていただけるとは、むしろ光栄ですね」
悪臣の筆頭に上げられ、苦笑するミズキ。
【 ランブ 】
「悪名は無名に勝る……とか。もとより、私は悪名にまみれておりますが」
かつては罪人として獄に繋がれたこともあるランブとしては、さしたる痛手でもないようだった。
【 セイレン 】
「いやいやいや! 私はまったくもって冤罪も冤罪! 清廉潔白そのものなんですけどぉ~~!?」
【 ヨスガ 】
「ふむ、そうだな。確かにそなたの悪だくみを容れたことは一度たりともないゆえ、まったくの濡れ衣といえような」
【 セイレン 】
「……うう~ん、それはそれで、なんだか寂しい気も……」
【 ホノカナ 】
「めんどくさい人だなぁ……あっ、すみません、旅の疲れのせいか、うっかり本音が……」
【 セイレン 】
「疲れてるからって本音がこぼれ出たりしますぅ!?」
【 ミズキ 】
「――いかがいたします? 私どもを差し出せば、ありがたくも命だけは助けてくださるとのことですよ」
【 ヨスガ 】
「ふむ、それも一手ではあるが……」
【 セイレン 】
「えええっ!? あ、あるんですかぁ!?」
【 ヨスガ 】
「策としては、な。君側の奸たる賊を差し出す……という触れ込みで、あちらの油断を誘う――という手は考えられる」
*君側の奸……君主の奸悪な側近の意。
【 ホノカナ 】
「……っ、やっぱり、いくさになるんですね……」
【 カズサ 】
「あなたまさか、いくさは嫌です……などと言い出すつもりかしら?」
【 ホノカナ 】
「い、いえ……そうは言いません。もちろん嫌ですけど……ここまできたら、避けられないってわかりますから」
【 ホノカナ 】
「でも……わたしは、嶺将軍がそんなに悪い人だとは思えません」
【 カズサ 】
「はぁっ? あなたねえっ、まだそんな甘いことをっ……!」
【 ホノカナ 】
「わ、わかってます、今の状況じゃ、話し合いなんてできっこないって……」
【 ホノカナ 】
「だけど、せめて互角近くの状況にまで持ち込むことができれば、交渉の余地はあると思います……!」
【 ヨスガ 】
「ふむ……ま、どうあれ、それは先のことだ」
【 ヨスガ 】
「いずれにせよ、今は戦って道を切り開く以外、我らに道はない」
【 ヨスガ 】
「さりとて、彼我の戦力差は歴然……まともにぶつかれば、ひとたまりもないであろう」
*彼我……相手側とこちら側、の意。
【 ヨスガ 】
「ゆえに敵軍を一撃し、派手な勝利をかっさらい、そのままさっさと尻に帆を掛けて転進する――というのが得策であろう。一撃離脱、というわけだな」
【 ミズキ 】
「皇帝侮りがたし……と、世間に示すわけですね」
【 ヨスガ 】
「そういうことだ」
【 ホノカナ 】
「で、でも、そんなにうまく行きますかね……?」
【 ヨスガ 】
「もとより、簡単にはいかぬ。相手がよほどの間抜けならさておき、グンムはなかなかの良将だ。そうであろう?」
【 ランブ 】
「はい、派手ないくさを好む御仁ではありませんが……その用兵には重みがあり、容易には崩せません」
【 ヨスガ 】
「だが、無敵の軍、などというものは存在しない。どれほどの強敵にも弱点はあるものだ。そこを、衝く」
【 ホノカナ 】
「弱点……ですか?」
【 ヨスガ 】
「さよう。グンムの直属軍(約十万)は、本来さほど質のよくない禁軍(近衛兵)だが、遠征を通じ、かなりの練度を得たと聞く。これと正面からぶつかるのは賢明ではない」
【 ヨスガ 】
「また、新たに加わった岳南軍、森羅軍(それぞれ約一万)は、相当な精鋭だ。これまた、相手をしたくはないな」
【 ヨスガ 】
「しかし、グンムの軍はこれだけではない。途中で加わった有象無象の連中がいる。恩賞目当ての質の悪い軍だ」
【 ヨスガ 】
「こやつらは士気も低ければ統率も取れていないゆえ、そこを狙って攻めれば、兵数で劣っていても、勝算はある」
【 ホノカナ 】
「で、でも、狙うって言っても、そんなに都合よくは……」
【 ホノカナ 】
「――あっ!?」
【 ヨスガ 】
「気づいたようだな。……そう、蛇の道は蛇、というわけだ」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるヨスガ。
そんな彼女を見て、
【 ホノカナ 】
(……すごく、イキイキしてる……)
と、思わずにはいられないホノカナであった。
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