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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
334/421

◆◆◆◆ 9-34 一閃 ◆◆◆◆

【 シンセ 】

「む……?」


 追っていた相手が、ふいに停止した。

 それどころか、馬から降り、地面にひざまずいている。


【 シンセ 】

(どういうつもり……? なにか、企んでいる?)


 警戒しつつも、シンセは地上に降り立ち、徐々に間合いを詰めていく。


【 ホノカナ 】

「…………っ」


 標的である小娘が、こちらを見て、パッと平伏する。


【 シンセ 】

「…………?」


 戸惑うシンセに向かって、小娘が言う。


【 ホノカナ 】

「う、ううっ……どうか、見逃して、くださいっ……家で、姉が、帰りを待っているんですっ……」


 涙ながらに、命乞いしてくる。


【 シンセ 】

「…………っ」


 つい、哀れみの情が湧きそうになるが、必死にこらえるシンセ。


【 シンセ 】

(これも、任務……あの方の、ための……)


 ボウッ……


 無言で、手のひらの上に火の玉を作り出す。


【 ホノカナ 】

「……っ、うう……も、もう、観念しましたっ……どうか、一思いに、終わらせてくださいませっ……」


 さめざめとすすり泣きながら、訴えてくる小娘。


【 シンセ 】

「…………っ」


【 ホノカナ 】

「……でもっ、最後にひとつだけ、お願いを聞いていただけないでしょうかっ……?」


【 シンセ 】

「……と、いうと?」


 つい、シンセは返答してしまった。

 死にゆく者の頼みを無視するほど、冷徹そのものにはなりきれなかったのである。


【 ホノカナ 】

「もしも、姉に会う機会がありましたら、わたしの形見を渡していただけないでしょうかっ……そうしていただけたら、冥府あのよに行っても、決してお恨みはいたしませんっ……」


【 シンセ 】

「…………っ」


【 シンセ 】

「……いいでしょう。その、形見というのは?」


【 ホノカナ 】

「はい、こちらに――」


 と、小娘は懐から、小指の先ほどの玉を取り出した。


【 シンセ 】

「それを、どこのどなたに?」


【 ホノカナ 】

「はい――みやこの……」


【 ホノカナ 】

「――皇帝陛下にっ!!」


【 シンセ 】

「…………っ!?」


 ――カッ!!


【 シンセ 】

「ぐうううううッ!?」


 突然、目がくらむほどの閃光がほとばしり、シンセの視界を真っ白に染め上げる。

 その刹那――


【 ホノカナ 】

「――うわあああああっ!」


 ザシュウッ!


【 シンセ 】

「ぐっ……うううっ!?」


 衝撃と激痛が、シンセを襲った――




【 ホノカナ 】

「……っ、はぁっ、はぁあっ……」


 ホノカナは、荒い息で地面にへたり込んでいた。

 ヨスガから託された宝剣〈赫龍輝剣かくりゅうきけん〉の刃は、生温かい鮮血で染まっている。


【 シンセ 】

「…………」


 彼女を狙った方士は、血まみれになって地面に倒れ伏しており、ピクリとも動かない。

 乗っていた戦車は、いつの間にか消え失せていた。


【 ホノカナ 】

「……うっ、うううっ……」


 まことに、紙一重だった。


【 ホノカナ 】

(エキセンさんっ……助かりました……!)


 方士の目をくらませたのは、かつて〈霹靂匠へきれきしょう〉こと〈ホウ・エキセン〉から譲り受けた、閃光弾。

 視界を奪ったところへ、赫龍輝剣での渾身の一撃を見舞ったのである。


【 ホノカナ 】

(ランブさんに、鍛えてもらったおかげでっ……)


 剣はやめておけ――と言われながらもしごかれた結果、それなりの腕にはなっていたらしい。

 そうは言っても、ただ一太刀でケリをつけることができたのは、彼女の実力ではなく……


【 ホノカナ 】

(こ、こんなに、斬れるなんてっ……)


 方士は甲冑を着ていたが、それを紙のようにたやすく切り裂き、致命的な一撃を与えたのである。

 形代レプリカとはいえ、伝説の宝剣の切れ味、恐るべしであった。


【 ホノカナ 】

「……っ、はぁっ、ふうぅっ……」


 肉を切り、骨を断ち、臓を裂いた感触が、まだ手に残っている……


【 ホノカナ 】

(優しい人で、助かった……けど……)


 先ほど、苦しまずに仕留めよう……などと言っていたことから、きっと情のある相手なのだろう、とホノカナは推測した。

 そこで同情を誘い、罠にかけたわけだが……おせじにもいい気分ではない。


【 シンセ 】

「……っ、ひゅぅ……ぅぅ……」


 方士は血だまりに沈みつつも、まだ息がある。


【 ホノカナ 】

「……っ、とどめをっ……刺さないとっ」


 剣を振り上げる。


【 ホノカナ 】

「…………っ」


 いくら自分の命を狙った相手とはいえ、もはや虫の息の相手に剣を振り下ろすことには、ためらいを覚えてしまう。


【 ホノカナ 】

(この深手なら助からないだろうし、放っておいても……ううん、方士だし、なにがあるかわからない……)


 だとすればやはり、ケリをつけておかねばならない。


【 ホノカナ 】

(だけど……無抵抗の相手をっ……)


 斬りつけた際は無我夢中だったが……今こうして、相手の命を奪おうということになると、やはり尻込みしてしまう。


【 ホノカナ 】

(そ、それでもっ……わたしはっ……)


【 ホノカナ 】

「……ええいっ!」


 覚悟を決めて、ホノカナは剣を振り下ろす――

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