◆◆◆◆ 9-33 孤影 ◆◆◆◆
【 ホノカナ 】
「……っ、はぁっ、はぁあっ……」
今や単騎となり、息を荒げつつ、森の中を駆け抜けるホノカナ。
ゼンキョクたちのことは、もちろん気になるが……
【 ホノカナ 】
(絶対に、生きて帰らなきゃっ……!)
その思いを胸に、闇を走る。
と――
――ドゴォオオッ!!
【 ホノカナ 】
「ひっ……!?」
背中に熱を感じた次の瞬間、すぐ近くで爆発が起こった。
とっさに振り向くと、
――ゴォオオォォ……
【 ホノカナ 】
「なっ……!?」
思わず、ホノカナは目を疑った。
【 ホノカナ 】
(空にっ……馬車が、浮いてるっ!?)
【 燃える馬たち 】
「グゥウウゥゥ……!」
全身から炎を噴き出す二頭の馬が、空中に浮いていた。
その戦車に乗っているのは、これまた燃えさかる御者と、そして……
【 仮面の女 】
「……外しましたか」
黒ずくめの、仮面の女。
【 ホノカナ 】
「…………っ!」
【 仮面の女 】
「そのまま、じっとしていなさい」
手にした炎の珠を、ホノカナに向ける。
【 ホノカナ 】
「あっ……ううっ……!」
【 仮面の女 】
「せめて、苦しまないよう、一思いに――」
そのまま振りかぶって、投げ放つ。
【 ホノカナ 】
「…………っ!」
――ドゴオォオオオォッ!
猛然たる爆音が、闇夜を打ち揺らした――
【 シンセ 】
「……やった、かしら?」
眼下の爆炎を見下ろしながら、仮面の女……すなわち〈楽・シンセ〉は呟いた。
シュレイから命じられたのは、逃亡者の処分……中でも、必ず始末せよと念押しされたのが、先ほどの年端もいかない小娘。
【 シンセ 】
(恨みはないけれど……でも……)
ドドドッ……!
煙の中から、蹄の音が響く。
【 シンセ 】
「……っ! 躱されたっ?」
【 シンセ 】
(それなら、間合いを詰めて、確実に仕留める……!)
【 シンセ 】
「追ってください、〈炎公〉――」
【 御者 】
『御意――』
炎に包まれた御者が応じ、馬を走らせる。
もとよりこの御者も馬も、この世ならざる霊獣の類であり、シンセの使役下にあった。
シンセは仙才においてはシュレイを遥かに凌駕しており、神仙の道を歩んでもおかしくはなかった。
だが、今の彼女にとっては、不老不死を極めることよりも……
【 シンセ 】
(すべては、あの方のためにっ……!)
ずっと大事なことが、あるのだった。
【 ホノカナ 】
「ぜぇ、ぜぇっ……!」
間一髪、ホノカナは火球の一撃を避けていた。
といっても、彼女自身が躱したわけではない。
【 ホノカナ 】
「あ、ありがとうっ……助かりました……!」
と、乗馬を撫でる。
【 飛鷹馬 】
「ヒヒィン……!」
ホノカナは呆気に取られて棒立ちだったのだが、馬が危険を察知して駆け出したおかげで、難を逃れたのである。
【 ホノカナ 】
(……っ、でもっ、次は……!)
今ので諦めてくれればいいが……そうもいかないようだ。
シャシャシャ……!
【 ホノカナ 】
「…………!」
無情にも、空中をゆく炎の戦車が追いかけてくる。
【 ホノカナ 】
(も、もう一度、あれを喰らったらっ……)
最初は運に救われ、二度目は乗馬に助けられた。
だが、三度目は――
【 ホノカナ 】
(あんな方術の使い手を相手に、どうすればっ?)
都合よく誰かが助けに来てくれる……なんてことは、望み薄だ。
ならば……
【 ホノカナ 】
「…………っ」
ホノカナは深呼吸して、覚悟を決めた……
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