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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
333/421

◆◆◆◆ 9-33 孤影 ◆◆◆◆

【 ホノカナ 】

「……っ、はぁっ、はぁあっ……」


 今や単騎となり、息を荒げつつ、森の中を駆け抜けるホノカナ。

 ゼンキョクたちのことは、もちろん気になるが……


【 ホノカナ 】

(絶対に、生きて帰らなきゃっ……!)


 その思いを胸に、闇を走る。

 と――


 ――ドゴォオオッ!!


【 ホノカナ 】

「ひっ……!?」


 背中に熱を感じた次の瞬間、すぐ近くで爆発が起こった。

 とっさに振り向くと、


 ――ゴォオオォォ……


【 ホノカナ 】

「なっ……!?」


 思わず、ホノカナは目を疑った。


【 ホノカナ 】

(空にっ……馬車が、浮いてるっ!?)


【 燃える馬たち 】

「グゥウウゥゥ……!」


 全身から炎を噴き出す二頭の馬が、空中に浮いていた。

 その戦車に乗っているのは、これまた燃えさかる御者と、そして……


【 仮面の女 】

「……外しましたか」


 黒ずくめの、仮面の女。


【 ホノカナ 】

「…………っ!」


【 仮面の女 】

「そのまま、じっとしていなさい」


 手にした炎の珠を、ホノカナに向ける。


【 ホノカナ 】

「あっ……ううっ……!」


【 仮面の女 】

「せめて、苦しまないよう、一思いに――」


 そのまま振りかぶって、投げ放つ。


【 ホノカナ 】

「…………っ!」


 ――ドゴオォオオオォッ!


 猛然たる爆音が、闇夜を打ち揺らした――




【 シンセ 】

「……やった、かしら?」


 眼下の爆炎を見下ろしながら、仮面の女……すなわち〈ガク・シンセ〉は呟いた。

 シュレイから命じられたのは、逃亡者の処分……中でも、必ず始末せよと念押しされたのが、先ほどの年端もいかない小娘。


【 シンセ 】

(恨みはないけれど……でも……)


 ドドドッ……!


 煙の中から、ひづめの音が響く。


【 シンセ 】

「……っ! かわされたっ?」


【 シンセ 】

(それなら、間合いを詰めて、確実に仕留める……!)


【 シンセ 】

「追ってください、〈炎公えんこう〉――」


【 御者 】

『御意――』


 炎に包まれた御者が応じ、馬を走らせる。

 もとよりこの御者も馬も、この世ならざる霊獣れいじゅうの類であり、シンセの使役しえき下にあった。

 シンセは仙才においてはシュレイを遥かに凌駕りょうがしており、神仙の道を歩んでもおかしくはなかった。

 だが、今の彼女にとっては、不老不死を極めることよりも……


【 シンセ 】

(すべては、あの方のためにっ……!)


 ずっと大事なことが、あるのだった。




【 ホノカナ 】

「ぜぇ、ぜぇっ……!」


 間一髪、ホノカナは火球の一撃を避けていた。

 といっても、彼女自身がかわしたわけではない。


【 ホノカナ 】

「あ、ありがとうっ……助かりました……!」


 と、乗馬を撫でる。


【 飛鷹ひよう馬 】

「ヒヒィン……!」


 ホノカナは呆気に取られて棒立ちだったのだが、馬が危険を察知して駆け出したおかげで、難を逃れたのである。


【 ホノカナ 】

(……っ、でもっ、次は……!)


 今ので諦めてくれればいいが……そうもいかないようだ。


 シャシャシャ……!


【 ホノカナ 】

「…………!」


 無情にも、空中をゆく炎の戦車が追いかけてくる。


【 ホノカナ 】

(も、もう一度、あれを喰らったらっ……)


 最初は運に救われ、二度目は乗馬に助けられた。

 だが、三度目は――


【 ホノカナ 】

(あんな方術の使い手を相手に、どうすればっ?)


 都合よく誰かが助けに来てくれる……なんてことは、望み薄だ。

 ならば……


【 ホノカナ 】

「…………っ」


 ホノカナは深呼吸して、覚悟を決めた……

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