◆◆◆◆ 9-31 誘引の計 ◆◆◆◆
【 タシギ 】
「手品のタネは糸ってワケか……ケチな細工をッ!」
そう、ゼンキョクが用いているのは、縫合用の糸。
この糸を張り巡らせ、巧みに樹上を移動し、次々とタシギの手下たちを襲ったのだ。
そして今、タシギの放った飛刀で糸を切られる前に樹上へと避難したのだった。
【 ゼンキョク 】
「ほう、ひと目で見破るとは……大したものですね」
【 タシギ 】
「フン、そんな大道芸、このアタシに通用するものかよッ!」
【 ゼンキョク 】
「この手並み……もしや〈血風翼将〉こと銀司馬では?」
【 タシギ 】
「知ってるなら話は早い――とっとと観念して、その首、差し出しなッ!」
【 ゼンキョク 】
「おっと――」
タシギの放った飛刀をかろうじて避け、ゼンキョクは樹上に身を潜める。
【 タシギ 】
「ちいっ……! ちょこまかとッ!」
【 ゼンキョク 】
「ふむ、どうやら噂ほどではないようですね――名前負けもはなはだしいようだ」
【 タシギ 】
「てめぇッ……! いい気になるなよッ!」
と、カッとなったタシギだったが……
【 タシギ 】
「……ククッ、てめェの腹は読めたぜ。ここでアタシを足止めしようってんだろ? アイツらを逃がすためにな……!」
【 ゼンキョク 】
「…………」
【 タシギ 】
「だったら、先にアイツらを片付けてやるよッ。てめェは後回しだッ……!」
と、ゼンキョクに背を向け、馬首を巡らせるタシギ。
【 ゼンキョク 】
「――――っ」
その背に向けて、ゼンキョクが鍼を投げつける。
【 タシギ 】
「――そこかッ!」
振り返ることもなく、タシギが背後へ飛刀を投げつけた。
――ドシュッ!
【 ゼンキョク 】
「ぐっ……うっ!」
鍼を弾き返した飛刀が、ゼンキョクの肩に直撃していた。
苦悶の声を漏らしつつ、地面に落下する――
――ドシャッ!
【 タシギ 】
「ククッ……他愛ないんだよッ! 場所さえわかりゃあ、目で見るまでもない……!」
せせら笑いながら、タシギは下馬して、ゼンキョクへと歩み寄る。
【 ゼンキョク 】
「…………っ」
【 タシギ 】
「クッククク……ざまァねェな……!」
仰向けに倒れたゼンキョクを見下ろしながら、タシギはニヤニヤと薄笑いを浮かべる。
【 ゼンキョク 】
「くっ……私としたことが……誘いに、乗ってしまうとはっ……」
【 タシギ 】
「アッハハハッ! アタシを誰だと思ってやがるッ! 小細工が取り柄の芸人が、調子に乗った報いってワケだ――」
高笑いしつつ、刀を振り上げる。
【 タシギ 】
「あばよ、ヤブ医者ッ!」
ゼンキョクの喉笛めがけ、曲刀が迫る――
【 ゼンキョク 】
「…………!」
――ズシュウッ!
【 タシギ 】
「ぎゃッ!? ぐぎゃぁあああああああああッ!」
絶叫を放ったのは、タシギの方であった。
その顔面に、何本もの鍼が突き立っている……!
【 ゼンキョク 】
「……やれやれ」
ゼンキョクは、はだけた胸を隠して、身なりを整えた。
タシギの油断を誘ったところで、筋肉を緊縮させ、体内に隠していた鍼を射出、顔めがけて打ち込んだのである。
【 タシギ 】
「ぐっ……が、がぁっ……て、てめェェッ……!」
【 ゼンキョク 】
「――貴方は人殺しを楽しむ性質、と聞いていました。自らの手でとどめを刺すため近寄ってくるだろうと見越し、体内に鍼を仕込んでおいたわけです」
【 タシギ 】
「く、クソがッ……ぐぐうッ……誘い込まれたのは、アタシの方だと……! か、顔がッ……焼ける……ぐぅううッ!」
【 ゼンキョク 】
「…………」
ゼンキョクは苦悶するタシギを尻目に、肩に突き立ったままだった飛刀を抜き、手早く止血する。
そして、隠していた飛鷹馬を引き出してくると、鞍にまたがった。
【 タシギ 】
「て、てめェ……逃げる……気かアッ……!」
【 ゼンキョク 】
「ええ、こちらも手負いですし……貴方と決着をつけようとすれば、相討ちになりかねませんので」
【 タシギ 】
「ま、待ちやがれッ……クソったれ……がッ!」
【 ゼンキョク 】
「それでは、これにて――」
ド、ド、ド……
そのまま、ゼンキョクは馬を駆って離れていった。
【 タシギ 】
「ぐううぅッ……! く、クソぉおおッ……! クソがぁアアッ……!」
【 タシギ 】
「殺すッ……絶対に、殺してやるぞッ……! 生きたまま皮を剥いで、こま切れにして、野良犬に食わせてやるッ……ぐ、あっ、ああああッ……!」
深深とした森の中に、タシギの呪詛の言葉が響き渡った……
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