◆◆◆◆ 9-30 死の森 ◆◆◆◆
【 タシギ 】
「フン……逃げられると思うなよっ!」
ホノカナたちを追って、タシギは馬を加速させ、鬱蒼とした森の中へと飛び込む。
暗殺者上がりの彼女は、夜目が利く。
夜の森といえども、ためらうことなく馬を駆けさせていく。
【 タシギ 】
(いくら飛鷹馬でも、森の中じゃあ速度は落ちる……!)
一気に距離を詰め、片付けてやろう――とほくそ笑む。
【 タシギの部下 】
「ぐぇえっ!?」
ドサッ……!
背後から悲鳴が響き、地面に何かが落下する音がした。
【 タシギ 】
(木にぶつかったか? 間抜けめッ……!)
だが、それは一度だけにとどまらず……
【 他のタシギの部下 】
「ぎゃっ……ああっ!?」
――ドサッ!
【 別のタシギの部下 】
「ぐっ!? がっ……!」
――ドッ!
次々と断末魔が耳に届く。
それは、木に激突した叫び声とは異質なものであった。
【 タシギ 】
「…………っ!?」
さしものタシギも手綱を緩め、背後をうかがう。
【 残ったタシギの部下 】
「あ、姐御ぉっ……!」
生き残りが、タシギのもとへ駆け寄ってくる――
――ドスッ!!
【 残ったタシギの部下 】
「ぐぁああああっ!?」
【 タシギ 】
「…………っ!」
何者かが手下の背後に飛び乗ってきた直後、絶叫がほとばしった。
【 最後のの部下 】
「がっ……あぁっ……」
ドサッ……
最後の生き残りが、馬上から転がり落ちた。
【 タシギ 】
「……! こ、コイツ……!」
鞍上に残っているのは、ひとりの女。
先ほどは河甫とか名乗っていた医師……いや、
【 タシギ 】
「てめえ……ただの医者じゃねぇなッ……!」
【 ???? 】
「――人を殺すのは、楽しいことではありません」
そう告げるのは、〈救神双手〉晏・ゼンキョク。
【 ゼンキョク 】
「ですが――これも、務めですので」
【 タシギ 】
「…………っ!」
彼女の放つ静かな殺気に、タシギの肌が粟立つ。
この感覚は、同業者のそれに近い。
【 タシギ 】
「てめェ……殺し屋かよッ!」
【 ゼンキョク 】
「そうではありませんが……まあ、似たようなものかもしれませんね」
【 タシギ 】
「しゃらくさいッ!」
【 ゼンキョク 】
「――――っ」
ドドッ……!
左右の腰から曲刀を抜き、ゼンキョクへと突き進むタシギ。
【 ゼンキョク 】
「ふッ――」
気合と共に、ゼンキョクが鍼を投げつける。
【 タシギ 】
「当たるかよッ!」
キィンッ!
軽々と跳ね返し、一気に間合いに入る――
【 タシギ 】
「くたばりやがれッ!」
【 ゼンキョク 】
「…………!」
――ヒュッ!!
【 タシギ 】
「……おっ!?」
ゼンキョクの肢体が、鞍の上から垂直に上昇した。
跳躍したのではなく、文字通り浮き上がったのである。
【 ゼンキョク 】
「――はッ!」
そのまま、ゼンキョクは宙返りして、タシギに強烈な蹴りを叩き込む。
【 タシギ 】
「クソ……がッ!」
――ブォンッ!
しかしタシギもとっさに反応し、これを回避する。
【 ゼンキョク 】
「――――っ」
そのまま、ゼンキョクは身を翻し、空中に立つ。
【 タシギ 】
(方術っ? いや……違う!)
一見すれば、空に浮いているかのようだが――
【 タシギ 】
「――そらよッ!」
ヒュッ……ヒュンッ!
懐から飛刀を取り出し、立て続けに投げつけるタシギ。
*飛刀……投擲用の武器。手裏剣のごときもの。
だがそれらは、ゼンキョクからはまるで離れた方向へ飛んでいく――
【 ゼンキョク 】
「…………っ!」
しかし、なぜかゼンキョクはすかさず身をひねると、枝の上へと飛び乗った。
【 タシギ 】
「やはりな……クククッ、他愛もないッ!」
銀・タシギは、せせら笑った。
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