◆◆◆◆ 9-28 追撃 ◆◆◆◆
【 シュレイ 】
「…………」
グンムの幕舎を出たシュレイは、ふと足を止める。
【 シュレイ 】
「――先ほどの話、聞いていたな? 銀司馬」
【 ???? 】
「フン……」
暗がりの中から、一人の女が姿を現した。
すなわち〈血風翼将〉こと〈銀・タシギ〉。
官軍の司馬(千人隊長)のひとりだが、シュレイと密約を結び、その同志となっている。
【 タシギ 】
「アタシは、アンタの手下になったつもりはないんだけどォ? 軽々しく呼びつけないでくれる?」
【 シュレイ 】
「わかっている。今夜は特別、気にかかったのでな」
今夜、出かける際に占ってみたところ、“凶”という結果が出た。
シュレイは念のために彼女を呼び出し、ひそかにグンムや己を護衛させていたのだ。
【 シュレイ 】
「ついでというわけではないが、もう一仕事してほしい」
【 タシギ 】
「はァ? まさかとは思うけどさア――」
タシギは不服そうに言う。
【 タシギ 】
「さっきの連中を始末してこい、とか言うんじゃないだろうね?」
【 シュレイ 】
「不服か? 殺しは、貴公の嗜むところであろうに」
*嗜む……好み、親しむの意。
【 タシギ 】
「そりゃアそうだけどね。だけど、これからいくさで好きなだけ殺れるっていうのに、あんな雑魚どもの相手なんて、ちっとも気が乗らないんだけどォ?」
【 シュレイ 】
「……なにが、望みだ?」
【 タシギ 】
「アハハッ! 話が早くて助かるよ。アタシも、あのお札欲しいんだよねえ。ほら、とっさにどこかに脱出できるヤツ」
方士が用いる呪符には、己の身を遥か遠くへ飛ばすものがある。
いわば緊急脱出用の札であった。
【 シュレイ 】
「……わかった。明日にでも用意しておこう」
【 タシギ 】
「クククッ、そうでなくっちゃあね――そうそう、あのお嬢さまもついでに始末してもいいワケ?」
【 シュレイ 】
「それはならん。……今は、な」
【 タシギ 】
「はいはい、ま、そっちは後のお楽しみってね……」
【 タシギ 】
「……だけど、本当にいいんだろうね? アンタの親分は、見逃してやれって言ってたけど?」
【 シュレイ 】
「かまわん。いささか、嫌な気配がするのでな……転ばぬ先の杖、というものだ」
【 タシギ 】
「ふぅん? 確かに、あの医者の女、なかなかやるみたいだけどねえ」
【 シュレイ 】
「…………」
【 シュレイ 】
(あの医師は――腕は立つようだが、さほどのことはない。あの占い師も、妙な気配はあるが、たいした問題ではなかろう)
【 シュレイ 】
(だが、あの小娘は――)
以前会ったときは、青龍……カスカナ、と名乗っていたか
もっとも無害のようでありながら、なぜかもっとも気にかかる。
【 タシギ 】
「ふん、まぁいいや。じゃあ、ご褒美、忘れるんじゃねェぜ――」
そう告げて、タシギは再び闇の中に溶けていった。
【 シュレイ 】
「…………」
シュレイはしばし思案していたが、やがて歩き始める。
その足は、己の幕舎には向かわなかった……
ドドッ……ドドドッ……
夜闇の中を、ホノカナたち三人は全力で馬を駆けさせていた。
【 セイレン 】
「ひぃ、はぁっ、い、急がないとぉっ……処されるっ……生首、さらされるぅっ……!」
【 ホノカナ 】
「さっきまでの落ち着きはどこに行ったんですかっ……!?」
【 セイレン 】
「し、仕方ないでしょうっ……! 私っ、縛り首にっ……あっ、斬首かな? もしかして一寸刻み……ひいぃいっ!」
自らも処罰対象に含まれていることを知らされ、セイレンは今さらながら蒼白になって、必死の形相で馬を駆っている。
【 ゼンキョク 】
「む……来たようですね」
【 ホノカナ 】
「…………っ!}
ド、ド、ド……!
背後から、松明を掲げた一団がこちらに迫ってきている。
【 ホノカナ 】
「あ、あれって、やっぱりっ……!?」
【 ゼンキョク 】
「ええ、追っ手でしょう。おそらく、嶺将軍の命ではないでしょうが……とにかく、急ぎましょう」
【 ホノカナ 】
「はいっ……!}
【 セイレン 】
「ひいいっ……さらし首はいやぁあぁ~~っ!」
闇夜に、セイレンの悲鳴が響いた……
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