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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
328/421

◆◆◆◆ 9-28 追撃 ◆◆◆◆

【 シュレイ 】

「…………」


 グンムの幕舎を出たシュレイは、ふと足を止める。


【 シュレイ 】

「――先ほどの話、聞いていたな? ギン司馬」


【 ???? 】

「フン……」


 暗がりの中から、一人の女が姿を現した。

 すなわち〈血風翼将けっぷうよくしょう〉こと〈ギン・タシギ〉。

 官軍の司馬(千人隊長)のひとりだが、シュレイと密約を結び、その同志となっている。


【 タシギ 】

「アタシは、アンタの手下になったつもりはないんだけどォ? 軽々しく呼びつけないでくれる?」


【 シュレイ 】

「わかっている。今夜は特別、気にかかったのでな」


 今夜、出かける際に占ってみたところ、“凶”という結果が出た。

 シュレイは念のために彼女を呼び出し、ひそかにグンムや己を護衛させていたのだ。


【 シュレイ 】

「ついでというわけではないが、もう一仕事してほしい」


【 タシギ 】

「はァ? まさかとは思うけどさア――」


 タシギは不服そうに言う。


【 タシギ 】

「さっきの連中を始末してこい、とか言うんじゃないだろうね?」


【 シュレイ 】

「不服か? 殺しは、貴公のたしなむところであろうに」

 *嗜む……好み、親しむの意。


【 タシギ 】

「そりゃアそうだけどね。だけど、これからいくさで好きなだけれるっていうのに、あんな雑魚どもの相手なんて、ちっとも気が乗らないんだけどォ?」


【 シュレイ 】

「……なにが、望みだ?」


【 タシギ 】

「アハハッ! 話が早くて助かるよ。アタシも、あのおふだ欲しいんだよねえ。ほら、とっさにどこかに脱出できるヤツ」


 方士が用いる呪符には、己の身を遥か遠くへ飛ばすものがある。

 いわば緊急脱出用の札であった。


【 シュレイ 】

「……わかった。明日にでも用意しておこう」


【 タシギ 】

「クククッ、そうでなくっちゃあね――そうそう、あのお嬢さまもついでに始末してもいいワケ?」


【 シュレイ 】

「それはならん。……今は、な」


【 タシギ 】

「はいはい、ま、そっちは後のお楽しみってね……」


【 タシギ 】

「……だけど、本当にいいんだろうね? アンタの親分は、見逃してやれって言ってたけど?」


【 シュレイ 】

「かまわん。いささか、嫌な気配がするのでな……転ばぬ先の杖、というものだ」


【 タシギ 】

「ふぅん? 確かに、あの医者の女、なかなかやるみたいだけどねえ」


【 シュレイ 】

「…………」


【 シュレイ 】

(あの医師は――腕は立つようだが、さほどのことはない。あの占い師も、妙な気配はあるが、たいした問題ではなかろう)


【 シュレイ 】

(だが、あの小娘は――)


 以前会ったときは、青龍セイリュウ……カスカナ、と名乗っていたか

 もっとも無害のようでありながら、なぜかもっとも気にかかる。


【 タシギ 】

「ふん、まぁいいや。じゃあ、ご褒美、忘れるんじゃねェぜ――」


 そう告げて、タシギは再び闇の中に溶けていった。


【 シュレイ 】

「…………」


 シュレイはしばし思案していたが、やがて歩き始める。

 その足は、己の幕舎には向かわなかった……




 ドドッ……ドドドッ……


 夜闇の中を、ホノカナたち三人は全力で馬を駆けさせていた。


【 セイレン 】

「ひぃ、はぁっ、い、急がないとぉっ……処されるっ……生首、さらされるぅっ……!」


【 ホノカナ 】

「さっきまでの落ち着きはどこに行ったんですかっ……!?」


【 セイレン 】

「し、仕方ないでしょうっ……! 私っ、縛り首にっ……あっ、斬首かな? もしかして一寸刻み……ひいぃいっ!」


 自らも処罰対象に含まれていることを知らされ、セイレンは今さらながら蒼白になって、必死の形相で馬を駆っている。


【 ゼンキョク 】

「む……来たようですね」


【 ホノカナ 】

「…………っ!}


 ド、ド、ド……!


 背後から、松明を掲げた一団がこちらに迫ってきている。


【 ホノカナ 】

「あ、あれって、やっぱりっ……!?」


【 ゼンキョク 】

「ええ、追っ手でしょう。おそらく、レイ将軍の命ではないでしょうが……とにかく、急ぎましょう」


【 ホノカナ 】

「はいっ……!}


【 セイレン 】

「ひいいっ……さらし首はいやぁあぁ~~っ!」


 闇夜に、セイレンの悲鳴が響いた……

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